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第33話

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 依頼の内容は、王都の南の街道付近の森で目撃されてるシルバーウルフの討伐である。ラムーダダンジョンで散々倒してきた相手である。


「何でメネシスまでついてきてるんだ?」


「えーやない!減るもんちゃうやん?みんな一緒の方が楽しいやん?それにみんなうちの家に居候してるんやさかい、少しくらいGP集めを手伝うてくれても損はせえへんやん?」


そう俺たちはあれからバーナード商会の中で生活をしていた。メネシスの父であるダナルさんから半強制的に王都にいる間はここに住むようにと部屋を用意されたのだ。

他の9人の転生者たちはまだ幼く、本人たちは安全の為にも俺たちの傍にいることを望んだが、親たちが強制的に故郷に連れ帰った。本人にもその家族にも何かあったら俺たちを頼ることだけは伝えている。


「メネシスにもGPは必要なのか?」


「商人として成り上がっていくのにも、それなりに強さは求められる場面はあると思うねん!せめて暗殺されへん程度の強さはないとこの世界ではトップは目指されへんわ!!」


「そうか…この世界は確かに日本と違って暗殺なんか当たり前だしな。力もないのに変に目立つのは死を意味するだけだろうからな。まあ、商人の場合は自分が強くならなくても護衛が強ければ問題ない気もするが…」


「ほんまに信頼できて強い護衛なんてそうそう出会われへんわぁ!それなら私の場合はチートスキルを自分で覚えることが一番安全に繋がる筈や!!」


「へー、一応ちゃんと考えてるんだな?何のスキルを取る予定なんだ?」


「最初に取れるのが230万で各種武器の神的スキルなのは知ってるやろ?私はその中でも商人らしく『暗器神』を取るつもりやわ!」


「ぶっ!それのどこが商人らしいんだよ?暗殺者向けじゃないか!!」


「暗殺者が何故暗器を使うか知ってるんか?武器を持ってるのを悟らせへんことで相手を油断させる為や!商人もそれは同じや!あからさまに武器を見せることは相手を警戒させるだけや!!油断させといて、自分の方が有利やと錯覚させておいた方がやりやすいねん!」


「そうか…一応理にはかなってるか。カシムは剣神だったよな?」


「はい、俺は剣神を取るつもりです。これまでも剣一筋で腕を磨いてきました!魔物相手でも遅れは取らないつもりです!!」


「カシムは実戦経験はあるの?」


「実はありません…」


「あー、それは慣れるまでは本来の実力も出しきれない筈だから、しばらくは実戦に慣れないとだね!」


「やはりそういうものですか?」


「そうだね…命の取り合いなんてあっちじゃ経験する機会なんてなかっただろうしね!そういう意味では現時点では多分メネシスの方が実力は上だろうな。まあ要は慣れだから、数をこなしていくしかないよ!」


「分かりました。」


 カシムは落ち込んでいた。幼少の頃より剣をひたすらに振り、兵士たちを相手に対人戦も場数を踏んできたつもりだったが、1度も命のやり取りはしたことがなかったのだ。


「オリオン、3時の方角から魔物が現れたわ!」


「あれはダイヤウルフ3匹か…ちょうどいい、カシムとメネシスの実力を見るのに2人に戦ってもらうことにしよう!」


「任せて下さい!」
「えーうちも戦わなあかんの?」


「どのくらい動けるか把握してないと、いざというときに指示すら出せないからね!」


こうしてカシムとメネシスの戦いが始まった。



 カシムはバーナード商会で購入した安物のロングソードを構えた。元々王宮で使っていた立派な剣は呪いが起動したときに取り上げられ、武器など持ってなかったからだ。

3匹のダイヤウルフたちは連携を取りながら2人のことを囲むように近づいていく。最初に動いたのは意外にもやる気のなかったメネシスだった。服の下に隠していたナイフを近づいてくるダイヤウルフの目へ向けて投擲したのだ!まるでサーカスの投げナイフである。


「キャン!くぅーー。」


とダイヤウルフはそのまま悶えている。痛みに苦しんでるのかと最初は思ったが、どうやら違うものに苦しんでるようだ。泡を吐きながら動かなくなってしまった。


「毒か!」


「そうや!うちの戦い方は安全に一撃必殺や!!食用肉の魔物には使えんのは玉に瑕やけどな!」


「やっぱり商人というより暗殺者じゃないか…」


「カシムはん、人のこと気にしてる余裕あるんか?そっちに2匹向かってるで。」


 カシムはこれまで長い間鍛えてきた剣を真っ直ぐ振り下ろした。長年の努力の成果は決して裏切ることなく、鋭い剣撃となりダイヤウルフの首を真っ二つに切り裂いた。だがカシムは剣で生き物を斬る感触がどのようなものであるかを分かっていなかった。否、覚悟が足りていなかった。

安物のロングソードだからこそ手に直接伝わるダイヤウルフの肉や骨が千切れ折れていく感触。胴体と首が切り離されても尚、自分を睨み付けてくる視線。カシムは自らの手で命を奪うことの意味をそれによって自覚させられ、戦闘中にも関わらず動きを止めてしまったのだ!目の前にもう1匹のダイヤウルフが迫ってるにも関わらず…

ダイヤウルフはカシムの太ももに噛みつくと、その肉を一瞬で食い破った。


「ぐあぁーーー!!」


「カシム!それくらいの傷で狼狽えるな!!あの呪いの痛みに比べたら大したことないだろう?ダイヤウルフは今度はお前の命を奪おうと狙っている。お前の剣の腕なら、冷静になればダイヤウルフ程度には負けたりしない!!お前の力でこの危機を乗り越えてみせろ!!」


「オリオンさん…分かりました。俺は負けません!」


カシムは足に広がる燃えるような痛みに耐え、向かってくるダイヤウルフの口に向けてロングソードを突き刺した。鋭い突きの威力に加え自ら飛びかかる勢いまで加わり、切れ味の悪いロングソードですら口から喉を突き破り、腹を超え内臓すらもぶち破り、その体を貫いた。一瞬で絶命させるには十分な一撃である。


「カシム、よくやったな!初めての実戦でそれだけ戦えたのは大したもんだ!足の怪我を見せて!」


「ありがとうございます。俺やれました。でも命を断つのって結構しんどいですね…」


「魔物相手に何言うてんの?人間相手だともっとしんどいんよ!!」


「メネシスは人間も殺したことあるのか?」


「そうやな…まだ3人やけどな。冒険者なんてやってるとそんな場面もあるんや。」


「そういえばオリオンさんもアリエスさんも平気で人間も殺してたな…」


「俺は自分が悪だと思える相手に関しては躊躇わないようにしてる。この世界では躊躇えば自分の死に繋がるからな!カシムもさっきので分かっただろ?傷はこれで治った筈だが確認してくれ。」


「はい。もう痛くありません!オリオンさん、ありがとうございます。」


「あーあ、今のポーション代でこの依頼の報酬が消えてもうたわ!」


「こらっ、メネシス!カシムも怪我をしたくてしたわけじゃないんだ!そんなこと言ったらアカン!お金なんて他で稼げばいいんだからな!!」


「ぷっ、何で中途半端に関西弁なん?」


「えっ?ずっと聞いてたら混じってくるんだよ!そんなことより笑ってないでちゃんと反省しろ!!」


「自分がボケたのに、笑うなって酷い言い様や。」


「たくっ!まあ、ポーションで回復できる程度の怪我ならこの世界なら何とでもなる。もっと酷い怪我でも回復魔法なら大抵何とかなる。だからこそ死なずに生き残ることが一番重要なんだ!!痛みも苦しみも痩せ我慢でいいから押さえ込んで、死なないように最後までもがくことを忘れるな!!相手は俺たちが回復してる時間を待ってくれないからな。」


「はい!肝に命じます。」
「了解!気をつけるわ。」



 それから30分ほど移動したところが、今回の依頼の目的地である森である。馬車では入れない森であることと、シルバーウルフに馬を狙われる恐れがある為、今回は徒歩でやってきた。

森に入ってしばらくすると、今回の対象であるシルバーウルフたちが群れで近づいてきた。


「かなり統率の取れた動きをするな。下手をするとリーダー種もいるな。」


「リーダー種ですか?」


「上位種のことよ。体が一回り大きいのが特徴ね。リーダー種がいると群れの動きが段違いに良くなるの!まあ、私たちには関係ないんだけどね…」


「関係ない?アリエスさん、どう意味ですか?」


「シルバーウルフ程度なら全員が上位種になっていても雑魚なのは変わらないってこと!オリオン、解体もしないといけないしさっさと済ませましょう!」


「了解!基本は弓で中距離で殺してくから安全だけど、一応2人も警戒はしといてくれよ!」


「「了解。」」


「おっ、珍しいな!メネシスが真面目な返事した。」


「シルバーウルフの群れやで?上位種もいるかもしれないんやで?Eランク成り立ての実力しかないうちには、これはけっこうしんどい状況やで。」


「ははっ!そんな可愛い面もあったって知れて俺は安心したよ!口では絶対に勝ち目ないもんな。」



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