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第31話

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「やっぱりそうなるのか…アリエスさっさと殺ろう!」


 俺は水のレーザーを次々と放ちながら、同時に氷の矢を次々と射っていった。大した相手ではないので合成魔法でなくとも、急所に当てれば瞬殺できる。教会の下っぱの護衛兵など普通のEランク冒険者と変わらないレベルなのである。30人ほどいた兵士たちは30秒も掛からずに地面に転がっていた。


「あとはあなたたちだけです。」


俺が弓を構えると、その教会の男たちは我先にと「こいつがお前たちを消せといったんだ!」「俺はお前たちの味方だ。」「上層部にも顔がきくんだ!」などと言葉を並べた。


「ごめん、信用できない!」


俺は素早く氷の矢を射って男たちを殺した。


「さあ、皆さん家に帰りましょう!帰るところがない方たちは俺に着いてきて下さい。王都で皆さんを保護する準備をしてもらってます。」



 そこにはアリエスを除いて、固まる転生者たちの姿があった。


「今のはなんや?さっきの盗聴といい、何でうちらと同じ転生者なのにあんな魔法を使えるんや!?」


メネシスが怒濤の勢いで俺に掴み掛かってきた。


「あれは工夫した生活魔法だよ!俺たちは生活魔法を使って戦ってるんだ。」


「ありえへん!生活魔法はホンマにショボい魔法やで!!ちょっと工夫したくらいであんなんなる筈がないやない!」


「ちょっとの工夫じゃなくて、ものすごくたっくさんの工夫をしたってことでいいだろう?」


「メネシス、あなたの気持ちは分かるけど、オリオンは母親のお腹の中から魔力のコントロールを訓練を始めて、1歳になる前には生活魔法で別の効果を作り出すことを開発したらしいわ!」


「とんでもない天才やな!それもえらい努力家やないか!まあ、その力のことは今はえー。それよりもここにおる者はオリオンたちが一旦王都で保護した方がええと思うで!理由はともかく教会関係者を殺してもうたんや。転生者たちは教会から指名手配される可能性が高こうなる。安全が確認できる前に家に帰れば殺されるのがオチや!」


「俺もその方がいいと思う。」


 現れたのは薄汚れてはいるが、金髪碧眼の超絶イケメンだった。


「君は?」


「俺はカシム・ルイ・カルナック、王家に生まれた転生者です。今年で19歳になります。オリオンさん、ここからお救い頂き感謝致します!」


そう言い優雅にお辞儀をした。やはりイケメンは何をしても様になる。


「王家にも転生者は生まれてたんですね!そんな方までこんなところに入れられてしまうなんて…」


「王家の者であろうと、神から呪われてる者を特別視するのは危険と判断されたのでしょう。俺からもここで起きたことは証言させてもらいます。教会はそれでも騒ぐかもしれませんが、少なくとも一方的な制裁は防げる筈です。」


「それは助かります。しかし、王家に生まれるのは普通なら恵まれてる環境なんでしょうが、自由が利かない分GP集めで不安だったでしょうね…」


「そうですね。必死で剣を鍛えてGPを貯めてましたが、200万GPを貯めることは叶わなかったと思います。それに先程の話を聞く限り、それだけでは確実に死ぬ運命だったようだけどね…」


「会話?メネシスとの会話かな?あー480万GP貯めたところでって話かな?あの神様たちの罠は何重にも仕掛けられていたんです。分かりやすく200万GPで完全解呪を覚えられれば救われると錯覚させておいて、実際にそれを覚えても使用対象が他人に限られてるんです。つまり救われるには少なくともこうやって転生者同士で偶然出会う必要があるんです。」


「自分を転生者だと名乗れないようにしておいてその条件は糞だな…」


「俺もそう思います。俺の場合小さい頃にアリエスの方が偶然にも俺の存在に気づいてくれたからこそ、それで絶望せずに済みましたが、あの神様たちの罠は本当に糞設定です!

さらに転生者同士が出会っても、待機状態の呪いには使用できないと言われるんです。そして実際に発動しようとしたところで解呪しようとすれば、完全解呪は使用者の寿命を250年ほど使用して解呪するスキルの為、寿命が足りずに使用できませんと言われます。

それを解決するには300万GPで取得できる不老不死のスキルを得る必要があるのです。俺たちは偶然にも他に呪いを受けてる存在と出会っていたのでその事実を早めに知ることができました。だから300万GP貯めようとしていたのですが、先程メネシスにも話してましたが、280万GP貯めてもう少しというところであの神様たちは直接的に俺たちを殺そうとしてきました。」


「あの呪いの発動だね…」


「ええ、俺たちはあの時ちょうどバラドスダンジョンのボスと戦い始めたところでした。もし仲間たちが守ってくれていなければ、俺たちはあの時に殺されていました。そして彼らの助けがなければその後も、残り20万GPを稼ぐことはできなかったと思います。」


「つまりその方たちは俺たち転生者にとっても命の恩人というわけですね。」


「ええ、旋風の牙のナジムさんとマリネさんがいなければ、ここにいる者は全員殺されていた筈です。皆さんも彼らに感謝しましょう。」


「感謝の気持ちを伝えたいのですが、その方たちはいずこに?」


「彼らとはバラドスダンジョンを完全制覇した後一旦別れたんだ。今頃高速でカルモアダンジョンかラムーダダンジョンを周回してる筈だよ。より強くなる為に頑張ってるんだ!そのうちまた合流するつもりだからいずれ紹介できるかもしれないね?」


「ではお礼はその時にとっておきます。」



 そう俺たちは完全解呪により、呪いから救われた後もバラドスダンジョンに潜り続け、最後まで制覇してしまった。そして報酬として『生命力2倍』というスキルと副賞で20万GPを獲得した。

俺はてっきり魔力2倍のスキルを得られると思っていたのでちょっとガッカリしたが、生命力2倍のスキルは傷や状態異常の回復速度が2倍速で治っていくらしい。また回復魔法やポーションの効果も上げてくれるようなのだ。とても便利なスキルである。


 そしてトリスも完全解呪で呪いは解呪され、今頃主である封印されたゼウスローゼンを救う為に世界中を飛び回ってることだろう。力を取り戻したトリスは俺とアリエスと盟友の契約を施し、去っていった。

この契約により、どこにいても俺たちが望めばトリスと心話で話すことができ、困ったことがあればどこへでもすぐに駆けつけると言われている。頼もしい限りだ。


「じゃー王都に移動しようか!この人数なら、俺たちの馬車と、教会の馬車も拝借すれば全員乗れるだろう。」



 俺たちが救えた転生者は僅か11人だけとなっていた。その殆どがまだ若い10歳になる前の子達であり、話を聞く限り、最初に収用された時には100人近くいたそうだ。年齢が高いほど呪いによる苦しみは強く長いものであった為、年齢が高い者たちほど早くに自殺していったそうだ。

その中生き残っていた最年長のカシムはものすごい精神力の持ち主だったといえるだろう。そして俺たちのことを信じて待っていてくれたメネシスには感謝と申し訳ない気持ちがある。解呪後すぐに王都に戻っていたら、メネシスをもっと早くに救えた筈なのだ。そしてもっと多くの転生者たちの命を救えた筈なのだ。

後悔する気持ちは捨てられないが、俺が今できることは、せめて救えたこの命を幸せな人生にしてあげる手助けをすることだろう。幸い不老不死のスキルのお陰で寿命によって死ぬことはない。今後はもう少しゆっくりと生きていってもいいのかもしれない。



『ちょっと、転生者たちみんな解呪されちゃったわよ!これじゃーラノベホイホイはお仕舞いじゃない!』


『これはかなりの想定外だったが、要はあの2人が死んじゃえば再び新たなラノベホイホイを始められるってことだろう?』


『不老不死で寿命では死なないのよ?どうやって殺すのよ?』


『俺たちは見てるだけだ。ただ、ちょっとした神託を教会のトップに下せばいいだけさ!』


『なるほどね♪ベトログ天才!』


『それにそれでも失敗したら、最悪あれを動かして世界を一度リセットするのもありなんじゃない?この世界はあのじいさんの作った世界だから、こんな風に想定外のことが色々と起こったりしたんだ!俺たちが一から世界を作り直せばもっと面白い苦しみや絶望に満ちた世界を作れると思わないか?』


『それはできればパスだわ!世界を一から作るのって超絶面倒らしいわよ!もしそうなったら基本はベトログが作ってよね!!』


『そうかい?じゃー最悪の場合は俺がどうにかするさっ!まずはありがたい神託の時間だ。。』



 ポータルマリアで絶対的な権威を持つ宗教団体である『ローゼン教』、全ての街や村に必ず教会が建てられ、国と共に基礎教育を行い、生きていく術を身につけることができる為、ほぼ全ての民に感謝され、愛される存在である。

その教会のトップに君臨するのはロモス・デミーラ大司教、数々の試練を乗り越え、強い能力と精神力を併せ持つ素晴らしい人物である。


この日彼には1つの神託が下された。


『邪神に呪われし者たちが教会を恨み、教会に死をもたらす。世界の安穏の為にも彼らの魂を救いたまえ。』


と…嘘は言っていない。邪神に呪われていたのは事実、教会を恨んでいたのも事実、そして先程オリオンが教会の関係者に死を与えたのも事実。だがこの神託を受けたロモス大司教は教会の存続に関わる危機だと錯覚させられた。

彼の目には使命に燃える正義の炎が揺らめいていた。


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