お嬢様の身代わり役

325号室の住人

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本編

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──何だろう…見られるなぁ…

自室に戻る道すがら、すれ違う人すれ違う人、やけに僕を見てくることに気付いた。

「へぇ、あれが。」
「うわっ! そんなに良いのかね?」
「マルコ達も災難だったなぁ…」

口々にボソボソと呟きながら僕とすれ違う、掃除係や見張り番、あの時は不在だった料理人や侍女に侍従…
たぶん、昨晩の話が噂になっているみたいだ。

「はぁ…」

つい溜め息と一緒に声が出てしまったところで、私室に到着した。

到着した私室は、今朝はあまりよく見なかったけれど僕のとは違う大きな靴痕や、シドが彼らを捕まえる時に抵抗したり逃げたりしたようで、カーテンが破れたり壁にも靴痕があったり、窓ガラスの一部にヒビが入っていたりした。

僕は居づらくなって、私室を飛び出そうとした。


私室の扉に手を掛けた時だった。
短いノックののち、扉が勝手に開いた。

「わわっ!」

内側に開く扉なので、慌てて跳び退くと…

「危ない!」

入って来たのは男で、僕を抱きしめるように体を支えた。
細身の体に似合わない力強い腕に大きな掌。それに首筋から香る男臭さ、薄いシャツの向こうには靭やかな筋肉と、撥ねるように早くなった心音…
そこへ密着している僕は、その体勢を理解すると同時にいろいろと思い出して顔が熱くなってきてしまう。

腕を突っ張り男から離れようとするけれど、何故か男は僕を離すどころか腕の力を強め、僕らの体は益々密着してしまう。

男の心音に合わせるように僕の心音もドクドクと早くなる。

何だか恥ずかしくなって瞼を固く閉じれば、顎を掬われ、優しいキスが落ちて来た。

──知ってる。この柔らかさは…

重なった唇が離れて行く。

ゆっくりと瞼を上げれば、そこには心配そうな表情のハイド様が居た。

「頬をこんなにして! 奴等にはもっと重い処分を科した方が良かったか…」

ハイド様は言う。

「ハイド様、あの、昨晩のこと、ご存知なのですか?」
「もちろんだ。奴等は私に付いている従僕らだから私の管轄だ。深夜に門番や護衛が詰める部屋には私が呼ばれ、処分をしたのも私だ。」
「そんな! …あの、おやすみ中のところ、起こしてしまいましたよね? 申し訳ありません。」

するとハイド様は僕の頭を撫で、

「いや。もう起きようと思っていた時間だった。
…その、昼間のことで悶々としてしまってな。眠れなかった。
側近からの報告を受け、呼吸が止まるかと思った。」
「なぜです?」
「私のイードが、強姦されたと聞いたんだぞ?」

──私の?

するとハイド様は再び僕に、触れるだけのキスをした。

「まぁ、身支度を整える頃には《未遂》との報告も受けたのだがな。
でもまさか、こんなに酷くなるなんて! 夜のうちに冷やして手当しておくのだったな…全く気付かなかった。」

ハイド様は悔しそうな表情をしている。

「気付かなかった?」
「あぁ。イードをこの部屋へ運んだのは私だからな。奴等に処分を言い渡してすぐに厨房に向かったのだ。やはりこの目で無事を確かめたくて。
すると、イードが竈の前で舟を漕いでいた。だから、抱き上げて部屋まで運んだのだ。」

ハイド様はちょっとドヤ顔をして言った。

「では、そろそろ向かおうか。荷物はまとめたのか?」

僕はポカンとした表情を返す。

「その表情…まさか忘れたのか? 今朝方話すと、きちんと返答していたのに……
イードよ。荒れたこの部屋を見れば、この部屋で眠るのは怖ろしいのではないか?」

僕は室内をもう一度見回して答えた。

──別の部屋に移るみたいだな。ありがたいことだ。

「準備します。」

答えると僕は、ここにやって来た日に提げてきた旅行カバンに私物を詰め込む。
シドの上着も詰めると、
「お待たせ致しました。」
ハイド様のところへ向かう。

「では参ろうか。」

ハイド様が僕の手からカバンを取り上げ、反対の手では僕をエスコートしてくださる。

「はい!」
「いざ、私の部屋へ。」


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