彼らの恋

325号室の住人

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たとえば、こんな出会い 7 ルイ視点

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下車したのは、会社へ向かって私の家の1つ先にあたる、各駅停車の駅だった。

先に、家に行っても良いかの確認で吉川に電話してみる…………………出ない。

住宅街なせいか、駅から暫く商店街が続く。

「いらっしゃい、いらっしゃ~い!」

白熱灯の暖かな灯りに売り子の声が響く、賑やかな商店街。

おでん屋に肉屋のコロッケ、店前で蒸す饅頭や、ドラム缶の焼き芋屋、焼肉屋に蕎麦屋の出汁の匂い…
美味しそうな匂いに腹の虫が鳴きそうになりながら、自分がなぜここにやって来たのかしっかりと思い出す。

──私は、会いに来たんだ。

込角さんにもらった住所のメモを見て、スマホの経路案内を確認する。

『次、右です。』

イヤホンに聞こえる機械の女声に案内されて、私はその角を曲がった。

道を1本入るだけで、街灯の少ない、心細い道へ出る。

『左です。』

曲がった先には、こんな住宅街に場違いなほど広い駐車場のあるコンビニが1軒。

やっぱり少しだけ心細かったのかも。
私はふらふらとした足取りでコンビニに向かった。

レジ横のホットスナックに視線が行くが、生憎レジに店員は居なかった。
すると、レジの奥の事務所?から店員の声が聞こえてきた。

話し込んでいるようなので、区切りが良いところで声をかけようと、様子を伺っていた。

「ったく! ウチの店のモノを道にばら撒きやがるなんて、どんな愉快犯ですかね!!」
「オレ憶えてます。白いTシャツに、デニムの男でしたよ。確かに買い込んでる感じはありましたけど、まさか道路にばら撒くなんて信じられないスよ!」
「あー、コレとコレ、コレもですかね。はい。無傷だし、また店に並べておいてください!」
「え…良いんスか?」
「君はこの店クビになっても良いんですね?」

──ん?
今、頭の中で何かが引っかかった。

「わかりましたよ!」
「判れば良いんですよ。」

事務所からいくつかのカップ麺を抱えた店員が出て来た。

今の話を聞いていた人間がいた!というようなバツの悪そうな顔をする。

隣のレジにそれらを置くと、その中からナッツバーを1本、渡してきた。

「お客さん、すんません。さっきのオフレコでお願いします。」

若い店員だった。
引っかかったのは、彼ではない。

いつもはそういうのを受け取ることはまずない。
けれど、私は受け取ってしまった。

だって、吉川さんが食べてるのを何度か見かけたナッツバーだった。



『甘いのが多いんだけどさ、これは甘いけどしょっぱいのがクセになるんだよな。』



吉川さんの笑顔を思い出したら、急に泣きそうになってしまった。

──早く会いたいですよ、吉川さん。

「お客さん、で、何か買うんですか?」

店員の声で、現実に引き戻される。

「あぁ、肉まんを2つ。」
「はい、まいどありー!」

ナッツバーは通勤鞄に捩じ込み、肉まん2つはコンビニ弁当がピッタリ収まるというエコバッグに入れてコンビニを出る。

──今日は絶対に、顔を見て帰るんだ!

『右です。』

機械の女声に案内されながら、再び吉川の家を目指した。






到着した住所は、2階建てのアパートの1階だった。

最初はノックをした。
けれど無反応だった。

そこで、最初は躊躇ったけれどもう後悔はしたくなくて、合鍵を使った。

そっと扉を開き、

「吉川さん?」

声を掛けながら扉を閉める。

室内は真っ暗だ。

もし体調不良で眠ってしまっていたらと思うと、照明を点けて起こしてはいけないと、スマホを取り出して待ち受け画面の明るさだけで先へ進む。

入ってすぐはキッチン、向かいに洗濯機置き場とユニットバスがあり、その奥には襖があった。

──何だろう…すごく胸騒ぎがする。


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