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互いの誤解

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「《離縁》? そんなこと…」
「いいえ。確かに仰られましたよ。
『俺はもう、エリサといられなくなってしまった。申し訳ないが、明日の朝食後、ヴィーと一緒に荷物をまとめてこの邸を出て欲しい。』と。
これって、三行半ですよね?」
「え……」

バルトル様、今度は固まってしまわれました。

「何て顔されているのです? ご自分の発言なのに。」
「いや……俺は、そんなつもりは!」
「それに、昨晩は同衾さえ拒否されて……」
「くあ!」
「これは《離縁》だと。それでわたくし、サインをしたのですわ。」

バルトル様の左手の中の、変わり果てた姿の《離婚届》に目を落として言えば、やっと動き出したバルトル様は、視線を泳がせ、うろたえ始めました。

「あれは違っ……エリ、本当なんだ。俺に《離縁》なんて意志は……」
「ですが、仰いました。」
「く! だが違うんだ。エリサのナカには、ヴィーの弟か妹が、来て、だな…」
「え……」
「だから、エリサと《おやや》の命が大事だから……
だから、またヴィーの時のように実家で過ごしてもらおうと。」
「では、《離婚》は?」
「ナシに決まってる!!! 頼むから、もう俺を捨てないでくれ!! 俺をバルって呼んでくれ!!!」

バルトル様は私の膝に縋り付くようにして、本気泣きです。
少し、意地悪く攻めすぎましたかね…
私は少し反省しつつ、バルトル様の髪を指で梳きます。
この髪の手触りが結構好きなのです。
こうしてると、まるでお子様ですね。

「エリ…俺を捨てないでくれるか?」
「バルトル様こそ、私は不要ではありませんの?」
「俺には、エリが必要だよ。」
「わたくし…私は、バルト…バルのこと、お慕いしておりま…わわっ」

言い終わらないうちに、私はバルに抱きつかれました。
ぎゅーぎゅーと、背骨がやられる程です。

「俺もだ。俺だって、いや、俺の方がエリサのことが大好きだ!!」

宣言するとバルは、

「……んんっ……………………………………………………………ん~~~~~……」

長くて深いキスを私に贈りました。



バルは侯爵邸からはここまで走って来たようで、結局侯爵家まで、2人で手を繋いで歩いて戻りました。

侯爵家の皆様は、私達の誤解からの《離縁》や《離婚》の諸々には気付いていないのか、気付かないふりをしているのか、優しく見守ってくださいました。




バルは以来、週末ごとに侯爵邸に遊びに来ては私の手を握りながらお喋りをして、ヴィーと遊んで寝かしつけてから自邸に帰って行くという生活を送っています。

こんなに穏やかならば私もヴィーも伯爵邸で過ごしても良いのではと思いますが、レレキさんによると私達に会う前後の時間は荒々しくて大変なことになっているそうです。

特に帰宅後の入浴時間が長いとか。
わかります! 伯爵家のお風呂も気持ちいいですものね。
のぼせるほど顔を真っ赤にして浴室を出ると、そのまま倒れるようにベッドで眠っているそうで……

レレキさん、いつもありがとうございます。




そうこうしているうちに月日は流れ、今回はバルが駆け付ける途中でスルリと出産しました。
バルの髪色に私の色の瞳、顔立ちはバル寄りのかわいい男の子でした。

出産直後に侯爵邸に辿り着いたバルに、アルヴィンと名付けられ、ヴィーの時と同様に最初のパン粥を食べた頃に、兄のヴィーと共に侯爵家に預けられました。



そして私は……


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