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治療院にて バルトル視点

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「バルトル様。リリサからの報告がありました。奥様を治療院へお連れするとのことです。」
「………………」

レレキからの報告に、俺は静かに涙を流すことで応えた。

エリサが無事だった。
エリサに会える。

昨晩はすっかり眠ってしまい、しかし頭も体も軽い。

「この度は、部下の失態申し訳ありませんでした。」
「まぁ仕方あるまい。リリサはまだ見習いだろう?」
「…………そうです。ただ、アレの姉らは同じ期間で既に一人前の仕事をしておりました。末の娘というのは甘えたに育ってしまいまして…」
「そうか。俺も気を付けよう。エリサとの間に子ができたら、末の子どもには…いや、誰が末になるのか、見極められるだろうか。」

俺は頬杖をつきながらまぁ真剣に考える。
だって、俺はいつまでもエリサに全身で愛を伝えるのだ。
ならば、子は何人でもできるに違いない。

「はいはい。惚気はほどほどでお願い致しますよ。」

俺はニヤニヤしてしまう顔を引き締めながら、目と鼻の先になるが治療院へと移動してエリサを待つことにした。






治療院では、旅の馭者のヨセフが泊まりで治療中だった。

ただし、他にそういった者は居ない。
いくら平民向けの治療院とは言え、連続して治療を受けること、しかも泊まりでとなればどうしても高額になる。

そして、ヨセフの横には看病と世話をする看世人のベスという妙齢の女性が居る。

数日前まではそうだった。
しかし現在は…

「エリザベス…エリザ……頼む! 一緒に帰ろう。」

ベスは侯爵領からやって来た治療師に追われていた。
いや、《追われる》というのは少し違うかもしれない。
追いかけ回されていた。


この侯爵領からやって来た治療師。
彼は元々、侯爵領の向こうの辺境伯領の嫡男だった。
婚約者も居た。
しかし、治療師になりたいと言って、家と婚約者を捨てて隣国へ行ってしまった。

父は領地が隣同士ということもあって、当時の辺境伯とは友人同士だった。

そこで、隣国で無事に念願の治療師になって国に戻ってきたこの男を、侯爵領の治療師としたのだった。
まぁその時には既に家名は持てず、ただのガルフェードだったのだが。

この男の婚約者は王都に大きな邸宅を持つ某高位貴族の、現在の当主の歳の離れた妹だった。
確か名前は、エリザベス。

そうか。この男とこの看世人は元婚約者同士。
看世人をしているのだ、もしかしたらこの男に未練が…

「ガル、私はもう、あなたには何の感情もないわ。ヨセフさんのお世話の邪魔になるから、早くここから立ち去って。」

「君は、ここで僕の帰りを待っていてくれたんじゃないか? ほら、僕は君の前に帰ってきたよ。さぁ、僕と一緒に侯爵領へ行こう!」

「……ったく! 本当に貴方は私の話を聞かないわね。違うわよ? 私は貴方を待つために看世人になったのではないわ。」
「ならばなぜ!」
「まぁ、ある意味貴方のせいではあるわ。婚姻式直前に婚約者に捨てられた女の行く末、貴方は考えて隣国へ発ったの?」
「…………!…いや。」
「やっぱりね。
貴方に捨てられて、王都では人目がありすぎて暮らせなくなった。だからと言ってあまりに辺境になれぱ貴方の実家だもの。私は父に勘当してもらって、この伯爵領へ流れ着いた。
伯爵邸で小さなレディのマナー講師になって、当主に襲われて身ごもって、当主夫人にバレて追い出されて、お腹の子を失って、この治療院に出入りしていた医師に治療してもらって、以来ここで働いているの。
だから貴方は関係ない!!」

「エリザ……!」

ベスと名乗る女に縋る男ガル。
何故か女神に縋る少し前の自分に見える。
《エリザ》が《エリサ》に聞こえてくる。
ベスがエリザに見えてくる。
拒絶されるガルが、自分だと感じて俺自身の心が傷付く。

──俺はエリサに捨てられる……?


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