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女神を追う者 バルトル視点

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「リリサからの報告はまだか?」

俺は苛つきながらレレキに掴みかかろうとして失敗した両手を宙に泳がせたのを誤魔化すように、頭髪を掻き混ぜた。

「はい、申し訳ありません。」

作戦本部である騎士隊の詰め所へ到着したのが夕刻。
現在はすっかり夜という時間帯だった。

「エリサは、確かに伯爵邸に運ばれたのだな? ならば今から俺が行って奪還してくる!」
「しかしバルトル様。エリサ様が邸のどこへ運ばれたのかはわかっておりません。」
「お前が女神を名前で呼ぶな! 減る!!」
「申し訳ありません。」

八つ当たりをしているのはわかっている。
しかし、今晩はエリサを抱き締めて安心して眠れると思っていた俺は、この不満をどこかにぶつけてしまいたかったのだ。

「バルトル様、とにかく明日には事態は確実に動きます。明日に備えて、もうお休みください。」
「………………」

俺は返事をしないまま、立ち上がって窓の方へ向かった。
窓辺に立てば、ずっと滞在していた宿屋が見える。
あの部屋のベッドでエリサを抱いた感触や彼女の匂いを思い出せば、言いようのない不安が胸の中を占めた。

「もう、エリサなしに俺は生きて行けない……」
呟けば、
「でしたら、バル様亡き後はわたくしが精一杯エリサ様をお慰め致しますのでご安心ください。」
「何だと? レレキなんかにエリサは渡さない!」
「でしたら、まずはしっかりとお休みください。明日はエリサ様を迎えに行きますからね。」
「無事だろうか。」
「無事ですよ。」
「………………」

まただ。不安に押し潰されそうだ。
エリサは…女神のように美しいのだぞ? それを、他の男が放っておくだろうか。

目を閉じれば、嫌がるエリサの服をビリビリと剥く見知らぬ男。
破れた服からエリサの双丘がふるりと露わになる。
男に背を向けるエリサ。
しかし男は力づくで…

しかし、俺の悪い妄想はそこで止まる。

「エリサ様に《カッコいい》と言われなくて良いのですか?」

レレキからの声が聞こえたからだ。

「ダメだ。」
「颯爽と、助けるのでしょう?」
「もちろんだ!」
「ならば、休める時にはしっかり休まねば!」
「そうだな。エリサには眠る暇など与えないようにしっかりと愛を伝えねばなるまい。
わかった。眠る。」

騎士隊用の水しか出ないシャワーを浴びながら、明日はどう愛してやろうかと考えた瞬間に反応してしまった己の滾りを落ち着かせるように、頭から暫く水を浴びた。

ベッドへ横になれば、頭は冴えていたが体は疲れていたようで、すぐに眠りが訪れた。






「奥様…奥様ぁ…」

私は伯爵邸の外壁を走りながら、バルトル様の最愛である奥様のエリサ様を探した。
しかし、気配すら察することができなかった。

「ヤバイヤバイヤバイ…」

元はと言えば、久々に姉たちに会ったことで任務を疎かにした自分のせいである。
現在仕事のパートナーである父に指摘されるまで、奥様が部屋にいらっしゃらないことに気付かなかった。

不審な馬車に父が気付いて途中まで追い掛けた先には伯爵邸のみ。
しかし、本来バルトル様の護衛である父は対象者であるバルトル様の元を長時間離れることは許されない。
伯爵邸のどこにエリサ様が連れて行かれたのか探るのは、元々奥様の護衛をしていた私の仕事となった。

「ヤバイヤバイヤバイ…見つからない! クビになっちゃうのはイヤ!!」



けれど、夜明け間近に神が私に味方してくれた。
奥様が、大きな洗濯かごを背負って出てきたのだ。

私は奥様の居場所が洗濯婦の元だと父に報告しに作戦本部へ向かい、再び戻れば洗濯場は空。
それから再び奥様を探して、今度は侍女服を着て邸の中を彷徨いた。

東の廊下で伯爵に手籠めにされそうになったけれど何とか逃がれれば、西の廊下で伯爵邸の医務室長のイザベラとすれ違った。

「ヤバイヤバイヤバイ…クビになりたくない! 奥様と共に在りたい。」

私はそれからまた、奥様の居場所を探すべく邸内を徘徊するのだった。


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