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離・婚前旅行 3日目 午前

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ガタゴトガタゴト……

私達の乗る馬車は、先を急ぐために下町を抜け、次の領境の門を抜けていました。

とは言え、こちらの領でも王都以外へ向けた小麦の栽培が盛んだそうで、車窓だけではどの領かの判別は難しそうです。

バルトルに確認すると、現在地は単騎で約半日の距離だということで…えっと、馬車に換算すると……?

「馬車で、一日の距離だ。」
「へ?」
「その……ゆっくりとエリサを愛でたくて。」

私は溜め息をつくと、

「仕方ないですね。この先は予定通り、二日後に公爵領へ到着されるなら許します。
その代わり、ご実家へはきちんと報告してくださいね。皆様心配されますから。」

人差し指を立てながらお説教モードで話しました。

「わかったよ、愛しい人。」
チュッ

バルトルは私の人差し指の腹にキスをした。

馬車は飛ばしているけれど、乗る私達は通常運転らしい。

今日はバルトルの膝に座っている私は、少し牽制のためバルトルを睨み付けるけれど、効き目なく今度は額にキスを落とされた。

「かわいい。」
「かわいくありません。」

チュッ
今度は目尻にキスを落とされる。

「旦那様、や・く・そ・くぅ!」
「すまない、エリサ…」

やっとキスから解放されました。

今日の移動中は道が悪いからと、《何にもしないから》と私を膝に乗せたのです。

「でも、こんなに急いでは馬車が壊れてしまいませんか?」

私がバルトルを見上げた時でした。

ガタッ

馬車の右側が跳ねたと思ったら、急速に左へ傾いて行きます。

「きゃ…」

悲鳴を上げようとしたのに、私は直後にキスをされました。

「こんなと…んっ……」

睨み付けて意見しようとすれば、またキスをされます。

「頼むエリサ。少しだけ奥歯を噛み締めていて。」

頷く前にバルトルはほとんど真上になる馬車の右扉を蹴り壊し、呆然とすればまたキスされました。

「さぁ、早く!」

奥歯を噛み締めて頷けば、バルトルは私を抱き上げたそのまま、馬車から離れるように扉から外へと身を投じます。

咄嗟に目を閉じバルトルの胸に縋り付けば、ギュッと抱き締められました。
それからゴロゴロと転がるような衝撃を暫し感じた後、バルトルを下敷きにしたまま俯せで止まりました。

身動ぐと、ぎゅっと抱き締めていたはずのバルトルの腕から簡単に抜け出すことができます。

地面に両手をついて上体を持ち上げてみるけれど、特に違和感や痛いところはありません。

──バルトルが守ってくれたおかげだわ。

しかしバルトルに視線を移して呆然としてしまいました。

俯せになった彼は、服地をボロボロにしてあちこちに擦り傷を作って血を滲ませ、意識を失っていたのです。

一瞬コト切れているかと慌てて裏返すと、呼吸のため胸が上下しているのが見えました。

「…………………………バル……?」

掌で彼の頬を叩き、彼に跨って胸を叩き、涙声で名を呼びながら、バルトルの意識が戻るように働きかけます。

「……………ん…」

バルトルに反応があったことを神へ祈ると、立ち上がって辺りを見回しました。

ここは小麦畑のど真ん中のようですが、残念ながら近くで作業をしている人間は見当たりません。
馬車を探せば、こぶし大に見えるくらい離れた道に、横転した馬車が見えました。
走って行けば馭者が、足は引き摺っているものの無事なようで、荷物や馬の状態を確認していました。
私が声を掛けると馭者は砂利道の上に土下座し、諸々あって納得してもらい立ち上がると、馬の一頭を馬車から外し、救助要請をするため近くの民家を目指して出立しました。

馭者に安心して出発して貰うため、

「若旦那様は?」
に対して、
「大丈夫よ。」
と曖昧に笑っておきました。

私は、バラバラになった荷物から覆いにしていた大布を肩に担ぎます。

直してもらった元浴槽だった桶を残った馬一頭の前に置くと、そちらへ餌を入れました。
馭者台に馬へ水を飲ませるための桶を見つけ、宿で貰ってきた水を入れてやりました。
馭者と相棒の馬が行ってしまって少し心細そうにしていたけれど、水の入った桶に鼻を近付けているよう。これでひと安心です。

私はそれを見届けると、大布を担いだままバルトルの元へ急ぎました。



バルトルの元へ戻っても、彼に動きはありません。

私は急いでバルトルの体の横へ大布を広げると、反対側からバルトルの体を押して何度か転がして大布の上に怪我の酷い背中側を上にして寝かせました。


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