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離・婚前旅行 8日目は馬車に軟禁

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「んーっ!」

朝です。
只今、バルトルの腕の中から脱出したところです。

昨晩は話半分にしか聞いていなかったのですが、サイドテーブルに《影》の肩からの手紙が残っていたのできちんと読み、どうやら今日の昼前には迎えの馬車がこちらへ到着しそうだということがわかりました。

顔を洗うとクローゼットに広げた自分の服を鞄に詰め込み、帰り支度をします。
それから着替えて髪を整えると、今度はまだ目覚めないバルトルの荷造りを進めました。
数日の滞在とは言え、バルトルはそのほとんどをベッドで過ごしていたため出してある衣類がそこまで多くなく、荷造りは比較的簡単に終わりました。

寝室以外の部屋の荷物がいくつかの旅行鞄のみになったところで、私は手拭いをお湯で絞ってバルトルの枕元に向かいました。
優しく顔を拭うとゆっくりと瞼を上げ、バルトルの青の瞳が煌めいてやっと目が覚めたようです。

「さぁ、バルトル。じきに迎えが来ますわ。支度と食事を摂っておきませんと。」
「ん…あぁ。」

浴室へと動き出したバルトルの背中を見送りながら、私は窓の外に広がる街を見ていました。
すると、侯爵領の方向から1台の馬車がこちらへ向かっていることに気付きました。

この国の貴族の馬車には凡て、屋根に家紋が彫られています。

「あれは!」

その馬車にはしっかりと侯爵領の家紋が彫られ、それが確認できるほど近付いていることに気付きました。

「バルトル! 大変よ。もう迎えが来たわ!!」

それからバルトルが着替え、部屋を引き払えるように整えて扉を開いた時点で、扉の目の前には今にもノックをしようと腕を振り上げた使用人と目が合いました。

私を見て少々怪訝な表情をした初老の彼は、私の後ろにバルトルを見付けると仰々しくお辞儀をした。

「お待たせ致しました、バル坊ちゃま。じぃがお迎えに上がりました。」

それからはあれよあれよという間に私は先程上から見えた馬車に乗せられ、荷物も馬車へと運び込まれたり縛り付けられたりしました。

バルトルが乗り込もうとした時、

「坊っちゃまはまだです。馭者のヨセフのいる治療院へ一緒に向かっていただきませんと。」

《じぃ》なる使用人はバルトルの背中をむんずと掴んで馬車から降ろすと、馬車の扉を

バーンッ!!!

激しく閉めると、外側から施錠し、2人分の足音はあっという間に遠ざかって行ってしまったのでした。



私は、こうして侯爵領へ向かうための侯爵家の馬車にとうとう乗ってしまいました。

──旅の終わりは、もう目の前なのだわ。

これまでの旅を思い出しながら、少しニヤニヤとしてしまいます。

──私、大変だったけれど楽しかったのね。

いろいろなバルトルに出会って、正直なところ愛が重すぎるところもあるけれど、何だかとても愛しいと思った。

でもだからこそ、きちんとお役に立ちたかった。
バルトルの《おやや》が欲しかった。



旅に出ることになって、毎晩のように抱かれて、私の中にバルトルの子種は何度も注がれました。
翌日、起き上がることもままならなかった日もある。
でも、全然辛いとか迷惑だなんて思わなかった。
寧ろ嬉しかったわ。

私、やっぱりバルトルを愛している。
たとえ始まりが借金のカタに売られた身であっても、《おやや》ができなくても、私はバルトルと一緒に居たい。

侯爵領、当主である義父にお会いしたら、離婚を願い出ようと思って始まった旅でした。
でも、私は離縁したくない気持ちの方が大きい。

──今のところ、《離婚》については私の頭の中だけのことだわ。

私が言い出さなければ、バルトルとの婚姻関係は続けられると、その時は、そう安易に考えていました。






何も口に入れていないまま乗車してしまったせいで喉も渇きお腹も減ったけれど、主人であるバルトルよりも先にお弁当に手を出しては示しがつかないため、我慢しました。

馬車の窓には洒落たカーテンがかけてあって、しかし外側から雨戸のような立派な鎧戸が嵌め込まれており、隙間から風や陽の光は入っても外の様子を見ることは叶いませんでした。

その時、はたと気付きました。

──これってもしかして、罪人用の護送馬車?

バルトルはまだ戻りません。

──もしかしたら、侯爵家側から離縁されてしまう?



ガタリッ

暫くして、バルトルが戻らないまま馬車は動き出しました。


けれどその時の私はウトウトとしていて、馬車がバルトルなしで動いたことにさえ、気付かないでいたのでした。


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