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離・婚前旅行 4日目は宿に引きこもる
しおりを挟む気付いた時にはバルトルに横抱きにされて馬車に揺られていました。
「お姫様、目が覚めましたか?」
そのままキスを落としてきます。
「大丈夫なの?」
見上げると、
「確かめる?」
バルトルは自分のシャツのボタンに手を掛けながら、反対の手では私の頬を撫でました。
多少、指先がガサガサしている他は普段の触れ方と同じだったので、何だか安心して私はその手に自分の手を重ね、バルトルの手に頬を擦り寄せました。
「エリサ……」
バルトルの顔が再び近付いて来た時でした。
「イテテ……」
バルトルが顔を歪めて姿勢を正す。
どうやら、背中の傷はまだ完全に癒えていない様子。
「やっぱり。傷が治るまではオアズケですわね、バルトル様。」
私は自力で上体を起こすと、バルトルの頬に口付けて対面の席へ移動しました。
昼前には次の街の高級宿に到着し、医者を手配してもらってきちんと治療されると、私も隣のベッドに横になります。
寝室の隣の部屋であるダイニングには軽食や冷めても美味しく食べられるものが置かれ、その向こう側にある浴室にも温かいお湯が張られているそうです。
私は久々の足を伸ばせるお風呂にお一人様しに向かうことにしました。
簡易なワンピースには、ところどころバルトルの血や私の汗染みが浮き出ており、早く着替えたかったのでした。
ちゃぷ…
広々としたバスタブは、私より体の大きいバルトルでも寝そべって入れるほどのサイズでした。
体も髪もしっかりと洗って頭にタオルを巻き、それをバスタブの縁に引っ掛けて目を閉じると、この旅の間の出来事が次々浮かんできます。
まぁ、いつでもサカっている旦那様ではありますが、恋人繋ぎして下町の市を見て回ったり、肉串を分け合って食べたり、ベッドと馬車以外での思い出もでき、とても楽しかったのです。
けれど…………
私にはこの旅の終着地である侯爵家の本邸でしなければいけないことがあります。
《旦那様に離縁してもらうこと》
現状、バルトルとの旅は楽しいものであり、愛されていると強く感じてはいます。
けれど、嫡男である旦那様に子を望めない妻は不要だと思うのです。
まだ、バルトルには何も告げてはいません。
だから、このまま流されてしまっても良いかと思う自分もいます。
あちらとこちら、真逆であるそれらに私の天秤はまだ落ち着きません。
どうしたら良いのでしょうか。
「エリサ! 何をしているんだ!!」
私は、気付くとバルトルにバスタブから抱き上げられていました。
「君も疲れているんだ。ただでさえ大きなバスタブなんだ。1人で入るなんて危ないじゃないか!!」
「え…わたし………」
「俺はもう、エリサという最愛なくしてこの世界には1秒たりとも居られない。
俺を…1人にしないでくれ!」
「あ………それは…」
「即答は、してくれないのか。やっぱり君は…
いや、今は構わない。君が、エリサが無事だっただけで……」
「はぁ……」
そこで頭がハッキリした私は、
「バルトル、傷に障ります。」
「それじゃ、エリサも一緒に寝よう。」
「まさか…」
「いや。本当は、どれだけ俺が君を愛しているかを示したい。
でも、流石に今日は無理だ。
君との交わりでできた爪の痕なら、いくらでも我慢できるのだがな。」
彼の表情は、不甲斐なさでいっぱいに見えました。
「わかりました。眠るには寝間着を着て、髪を乾かさないとなりません。ですからベッドでお待ち下さい。」
「ベッドで…
ぁああ…俺が元気なら、絶対にギンギンになる一言なのに…怪我をしてしまった己を呪わずにはいられない。」
「あら。バルトルのおかげで私は無傷なのですが、私、怪我をした方が良かったですかね?」
「むむむ…」
結局、バルトルに見守られながら寝る支度を済ませ、ベッドに入ってからは俯せのバルトルと仰向けの私とで手を繋いで眠りました。
朝起きると、バルトルの胸に顔を埋めており、とても恥ずかしい目覚めとなりました。
バルトルの背中の怪我は擦り傷ですが、私の掌大のサイズです。
かさぶたになるまでは大事を取ってこの宿でお世話になることになりました。
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