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旦那様と私のはじまり
しおりを挟む私の家は、借金こそないけれど生活に余裕のない、貧乏男爵家。
家がちゃんとしていれば男爵令嬢な私は、伝手を辿って辿って辿りまくって、王都にある公爵家で、通常ならば学園へ通う12歳から侍女として働いている。
ちなみに現在3年目。
私は先日15歳になった。
私が旦那様と出会ったのは、私の職場である公爵家。とある昼下がりのことだった。
学園の最終学年になられたこの家の嫡男であらせられるシュレイザー様が、ある日、ご学友と帰宅されたのだ。
貴族が通う学園の、最終学年には次々成人となる18歳を迎えられる。
シュレイザー様は、先に18歳の成人を迎えられた、ご学友の侯爵家嫡男であるバルトル様(のちの、私の旦那様)に、成人お披露目パーティについての話を聞くべく、この日の午後のお茶の時間に招待をされたのだ。
「「「「「「「おかえりなさいませ、シュレイザー様。」」
いつものように早番のみんなと一緒にシュレイザー様を出迎え、シュレイザー様が通り過ぎて顔を上げた時だった。
何故か斜め後ろから視線を感じて振り返ると、ご学友のバルトル様と目が合ってしまった。
「失礼致しました。」
頭を下げてから持ち場に戻る。
そして、シュレイザー様のお着替えの手伝いの補佐の補佐をしている時だった。
「今日のお茶は、エリサにさせたい。」
とのご指名を頂戴し、お茶を淹れに行ったサロンにて、ご学友のバルトル様が私なんかの前へ跪かれ、
「美しい人、お名前は何と仰るのですか。」
と、手を握られてしまった。
バルトル様は、金に近い茶髪を首の後ろで縛った、青い瞳の、男性らしいハンサムな青年。
シュレイザー様が金髪碧眼で華奢な美人なので、お2人は私にはとても眩しかった。
私は、困ってシュレイザー様を見ると、シュレイザー様は苦笑い。
「エリサ。先月私のお使いで今日の誘いの手紙をバルトルの侯爵家へ届けて貰ったろう?
エリサは気付いていなかったみたいだけど、バルトルはそこでエリサを見初めたそうなんだ。
名前だけでも教えてやって構わないだろうか。」
私の頭の中へは大量の《?》で溢れてしまった。
けれど、返事はせねばならない。
「次期当主のご要望とあれば。」
私は頭を下げた。
「そうか、なら名前だけ。彼女は我が家の侍女であるエリサだよ。バルトル。
これ以上は私からは教えない。エリサの許しが出てからだよ。」
シュレイザー様はバルトル様へお伝えになった。
バルトル様は跪いたまま私を見上げ、乞うような視線を送ってくる。
しかし、私にとってお二人は眩しい存在。
完全に住まう世界の違う存在だ。
「ご容赦ください。」
私は一言捻り出して頭を下げると、
「お湯が冷めてしまいました。替えて参ります。」
そうしてワゴンと共に退室し、お茶は私の先輩侍女に代わってもらった。
それから3年…
私はいよいよ成人の誕生日を来月に控えていた。
15歳から今までも簡単に振り返る。
バルトル様が訪ねて来る時には私がお茶の用意に呼ばれたけれど、手を握られたり跪かれたりする度に何かしら理由をつけては退室し、先輩侍女に代わってもらって過ごした。
けれど、先輩から私の個人情報は少しずつ洩れていたらしい。
いつの間にか、私の年齢や誕生日、勤務予定、給料の殆どを実家に仕送りしていること、だから私服はワンピース1枚しか持っていないことはバレていた。
バルトル様からは、私の誕生日に服や立派すぎる花束が贈られたけれど、それらは全てシュレイザー様からお返し頂いた。
それでもお越しくださる度に、お菓子や1輪だけの花を《悪くなってしまうから》という理由で何度か受け取ってしまった。
その度に、女神に感謝の祈りを捧げるかのように嬉しそうにされるのを見て、何度か絆されてしまいそうになりはした。
けれど、その度に自分との住まう世界の違いを思い出し、気持ちを律するのだった。
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