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「ホラ、行って来い!」

地面か床に足がついた瞬間に、僕は背中を押されて1つの薄暗い部屋の中へと足を踏み入れた。

「《先生》、連れて来ました。お探しのシュヴァルですよ。」

先輩は僕と扉の間に立っているようで、後ろから声が聞こえる。

「あぁ…待ちに待ったシュヴァルだぁ。」

《先生》は僕の前方、闇の中から声がする。

「暫く見ないうちに少しふっくらしたんじゃないか?
まぁ、抱き心地は良くなったみたいで良いか。」
「《先生》、ちゃんとオレの相手ができるくらいに、シュヴァルの体力残しておいてくださいよ?」
「わかった。それじゃ、来週来い。」
「長っ!」
「思い出せ。本来のシナリオではひと月は団員たちの間で回すが、そんなのは体を作ってからだろう?
しっかり仕込んでやらないと、怪我して痛い思いをするのはシュヴァルなんだ。
お前は、私が呼ぶまでこの部屋へは入室禁止だ。」
「わかりましたよ!」

僕を挟んだ前後での会話は、そうして終わった。



闇の中から、蝋燭1本分の灯りを提げた《先生》が、裸体に腰に巻いたシーツ1枚で現れた。
 
「シュヴァル、こちらへ。」

《先生》はドカッとソファに掛ける。
膝を肩幅に開いて座るのはいつもの《先生》の座り方だけど、裸体なこともあって普段は服に包まれている筋肉が丸見えで、……………何だか気持ち悪い。

《先生》に呼ばれた僕は、《先生》の掛けるソファの向かいの席へ掛ける。

目の前にはお茶が1杯置かれている。

「それで、国外追放された後、どこへ行ってたんだい?」
「はい。実は…」

僕はところどころ、シェミリエ様を《通り掛かりの令嬢》みたいに名前を伏せながら、かいつまんで話して聞かせた。

《先生》は、どこから取り出したのか煙草を1本出すと、灯りから火を貰ってふかす。

僕は煙を吸ってしまって少し咽る。

《先生》は右足首を左膝に乗せるように足を組んで、僕の話を頷きながら聞いていた。

「そうか、大変だったな。」

《先生》はそう言っているけれど、全然そういう風には見えない。

それどころか、中が暑いのかシーツの股間の辺りを魔法で持ち上げているせいで、僕の位置からだと《先生》の足の間が見えそうになっているのが、何だか気持ち悪かった。

僕の話が終わると、今度は先生が、傭兵団へやって来たことや、そこで何をしたのかを話してくれた。

正直なところあまり興味はないし、僕はそれよりも何だか暑くなってきた。

シャツの上に着ていた革のベストを脱いで、畳んで自分の横へ置いた時だった。

全裸で目の血走った《先生》が、何故か僕に襲いかかってきた。

僕は、とりあえず横へ跳んで受け身を取る。
けれど着地した時には《先生》がこちらへ跳んでいるところだった。
慌てて前転して《先生》の股を抜くと、扉のあった方へ走る。
けれど、突き当たった場所はどこまでも壁。どうやら隠し扉のようになっているみたいだけど、少しの隙間もない壁だった。

「シュヴァル! 君のハジメテは私が貰ってやる。私は経験豊富だから、全然痛くないぞ。安心して抱かれなさぁい。」

《先生》はそんなことを言いながら向かってくる。

騎士学校時代にはしっかりと乗った筋肉に憧れていた時期もあったけれど、今となってはセリフも肉体も気持ち悪くて仕様がない。

壁を叩いてでもどの壁も特に反応はない。
角を曲がって、気付けばソファの後ろの壁まで来てしまったけれど、それでも壁に継ぎ目や扉は見つからない。

──ん? 先ほどはしなかった、甘ったるいような変な匂いがする?

すると急に足に力が入らなくなり、しゃがみ込んでしまった。

「はぁ、やっと香が効いて来たんだな。」

《先生》は、僕を抱き上げるとソファの奥の、最初に《先生》が出て来た方へと移動を始める。

ソファの近くも臭かったけれど、《先生》が進む毎に匂いが濃くなっているように感じた。


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