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「診療所に出ているアレンは、アレンの本体ではない。
アレンの魂が弱ってしまったので補強として加えた、別世界の魂だ。」

「え? 《おっさん》…?」

「《おっさ…》この体の、ピャリのことかいの?」

僕は静かに頷く。

「儂はこの世界のとある種族の神の一人でのぅ。」
「神?」
「あぁ。《人族の》でないことだけは話しておこう。だから、お前さんの願いは聞き入れられない。」

驚いたけれど、とりあえず話が進まないので頷いた。

「今は、相性のいいピャリの体を借りておるのだ。」
「それで。」

今度は《おっさん》?いや、人族ではない神が頷いて話を続ける。

「アレンの母親は、エルフ族の長の娘でな。それは美しい娘だった。
それがある日、人族の王により拐われたのじゃ。腹には既にアレンとその双子の妹がおってのぅ。生まれた時にはアレンの母は寵妃として何番目かの妃になっておって、だからアレンもその妹も、生まれてすぐから王子と王女という肩書を持っておったのじゃ。」
「では、アレンと現在の国王との血の繋がりは…」
「ない。」
「だから、王位継承権を捨てたのか。」
「まぁ他にも理由はあるがの。」

僕はまた頷く。

「あれは、アレンの10とおの誕生日。庭で兄妹で遊んでいる時だった。あの娘に会うた。」
「あの娘?」
「何番目かの妃の姪で、人族の…シェ…シュ…? シェ…?」
「もしかして、シェミリエ?」
「そうじゃそうじゃ。まだ赤ん坊に毛が生えたような幼子でな、その娘が言ったんじゃ。
『この世界は、この子が主人公のゲームの世界よ。私はマリーのファンなのだけど、マリーは絶対に普通に幸せになるべきだって思ってたわ。だからね、今から私と逃げましょう。』とな。」

「それってどういう…?」

「あの子らも今のお前さんと同じような表情だったが、あの娘が続けて言ったんじゃ。
『きっと、私の話を急には信じられませんよね。
でも今日は貴方達の10の誕生日でしょう?
今日、貴方達のお母様は亡くなりますよ。』と。」
「……」

「子らは抗議した。けれど、あの娘は言った。
『今日、貴方達のお母様は貴方達の弟を出産しますよね。でもそのまま、2人共、空へ旅立ってしまうのです。』と。
実際、2人はなぜ誕生日に外に出されていたのかと言えば、母親の出産のためだった。
そうして、マリーが様子を見に行ったのだ。その間に、あの娘はアレンに言った。
『マリーは、15の誕生日に国王によって処女を奪われてしまうの。それがゲームの、お話の始まりよ。
その前までに、私は絶対にマリーを連れて行きたいのです。』と。」

「それで、お母様は…?」

「マリーは顔面蒼白になって戻って来た。聞けば、つい今しがた、空へ旅立ってしまったと。
それでアレンを呼びに来たのだと。
あの娘は言った。
『これで、信じてもらえましたよね。私はマリーに幸せになってもらいたいのです。今晩、月が上る頃、この場所で貴方達を待ちます。私なら、マリーを守って逃がしてあげることができる。待ってますよ。』と。」

「だから、アレンの妹のマリーさんはシェミリエ様の侍女をしているんですね。
それでアレンは…? いつから《今のアレン》になったのですか?」

《おっさん》は魔法でお茶を出すと一気に飲み干し、再び僕と視線を合わせる。

「それはな…」


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