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ちゃぽんっ…

目が覚めたのは、水音で、だ。
いや、正確には目は開けていない。
頭がはっきりして、暫くは目は閉じたままで辺りを探ることにしているんだ。

だから今も、目は閉じたままで気配を探った。
すると、僕は湯の中で何かの上に乗っていることがわかった。

湯から出ている髪に湿気を感じるし、顔は火照っている感じがあるから風呂かもしれない。

その時、僕の下で何かが動いた。
そこでやっと人肌を感じて…

──え? 僕、誰かの上に…?

そこでやっと瞼を上げたんだ。

最初に見えたのはその場所の天井で、洞窟のようなゴツゴツでガタガタの岩が丸出しの状態だった。

それで今度は少し視線を落とせば、アップにした髪とはぐれた一房の薄い草色………

慌てて立ち上がろうとしたものの、透き通るエメラルドは瞼の向こうに隠れ、規則正しい寝息が聞こえてきて、僕が下敷きにしている人物が眠っているのだとわかって動くのをやめた。

──アレン…と言ったか。

顔はエメラルドが隠れていても美しいし、首や肩、素肌も艷やかで美しい。
それに、湯で温まってほんのり淡桃に染まった頬が色っぽく…

変な気持ちになりそうになって、慌てて頭を逆へ向けた。



「うわぁ…」

結構気を付けていたのに思わず声が出てしまうほど、すごい場所に僕は居た。

天井も床も自然の作り出したゴツゴツとした岩が、天井には何箇所も氷柱つららのように垂れ下がったところが青白くなっていて、その他は小さな穴がたくさん空いたバケツを覗き込んだようにキラキラと草色に発光している。

──ヒカリゴケだ。

壁もゴツゴツとした岩肌のまま、けれど光源はヒカリゴケしかない程に暗く、正直どこまでが壁なのかよくわからない。

床は天井から垂れた何かが固まったのか幾つも青白い突起があったものの、今自分の居る湯の中には誰かの手が入ったようでタイル敷きになっていた。

湯の溜まる場所はそこまで大きくはないものの、この空間自体は大きな鍾乳洞だったのだ。

「…ん……」

その時、僕の下で彼が目を覚ましたようだ。
瞼が上がり、エメラルドが光ると……

「うわぁ…来るな!!」

彼は僕を振り払うようにして立ち上がると、跳んで退くように湯から出た。
寝ぼけているのか、『やめろ』とか『来るな』とかと呟きながら、何かを払うように両手を振り回している。

僕は湯の中で彼を観察しながら立ち尽くすしかない。

「いやだ! やめろ! 俺は…」

僕に背を向けた彼は言いながら膝から崩れると、そのまま膝を抱きしめるように小さく縮こまる。

それからガタガタと震えながら僕に草色の魔力を強く当てると、

「ぁ…」

一声で気を失ったのか、彼の体が傾いた。
下は岩だ。
──危ない!

僕は駆け出し、間一髪で彼を抱き留めた。

瞬間上げていた髪が解けてしまい、その中から上の方が尖った耳が顔を出した。

──エルフ?

その時、

「マスターーーー!!!」

遠くからあの《おっさん》─ピャリ─と言ったか?の声が近付いて来た。

「またお前か! この《ちんちくりん》が!」

僕に食って掛かろうとして、僕の腕の中のアレンをひったくるように取り上げた。
そして僕を一度振り返ると、

「ついて来い!」

あっという間に現れた方へ戻るように走って行ってしまった。
僕も慌てて追い掛ける。

あんな棒切れみたいな手足をしているのに、アレンを抱えていても信じられないスピードで《おっさん》は走る。

僕は《おっさん》の背中よりもアレンの髪を目印に、見失わないように《おっさん》を追った。


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