上 下
31 / 32

  31

しおりを挟む

「ねぇ…本当に行かなくちゃダメ?」
「んー…ダ、メ、だね。」
「とりあえず、一周まわったら帰っても大丈夫だから、頑張りなさい…」
「うー…」

──私は今、超の何個もつく高級パーティに潜入するべく…

「いや、ただ招待されて参加するだけだぞ?」
「だって! ミッションだとでも思わないと、正気を保っていられませんよ!!」
「スカちゃんはかわいいから、安心して腹をくくんなさい!」
「んうぅ……」

私はやっと腹をくく…いや、やっぱり難しくて、気合いで乗り切ることにした。

「姫…御手を。」
「ハァ…はい。」
「顔が強張ってるよ?」

チュッ
「んぎ」
チュウゥゥッ

エスコート役の島津のキスを、唯一メイクも整髪料もない素肌のままの首筋に受けて、奇声を発しそうなところを口を塞ぐために唇にもキスを受け、周囲からの視線にいたたまれなくなってギブアップの意味も込めて島津の胸を叩いた。

パーティ会場へ入ってから気合を入れるのに約30分。やっと出発となり、とりあえず時計回りに動くことになった。

エスコートする島津が外見に見合った好感度MAXの挨拶をする横で自然に見える笑顔を作
「ひゃん!」 
れていない時には腰を撫でられ奇声を発しながら、顔と名前と肩書きを頭の中のメモにインプットしていく。






時計の針でいう7の位置まで来た時だった。
ふと、葉巻が薫ったような気がしてそちらを見ると、

「名前だけはかわいいボクの友人、そちらがお前の最愛のスカイさんか?」

見た目ハイスペックイケメンな男性と目が合うと、ツカツカとこちらへやって来るなり私に言った。

島津は私を守るように背中に庇う。
背が高い島津の後ろなんて、正直何も見えない。

「こんなところに居るってことは…」
「あぁ。一通り調教も済んだ…」

良く聞こえない不穏な会話が続いていると、ひときわ葉巻が濃く薫った。

「早速、明日どうだ?」
「生憎だが明日はスカイを愛でる日だ。」
「そうか、残念だ。」

葉巻の香りが会場の匂いと交ざる。
どうやら先程の彼が離れたようだ。

──あぁ…見たかった! ハイスペックイケメン達の戯れ…

たぶん気が急いていたのだろう。少しだけ島津の背後から顔を覗かせることができ…

「ぁあああーー! お前はスカ! 憎き…島津スカ……」

葉巻の彼の横から、香水臭い人影が私に向かって来…

「きゃ…」
「うおぉぉぉぉーーー!!!!」

「ステイ…」
ドサッ

恐怖に顔を庇っていたら、もろもろ終わっていたみたい。
再び顔を上げてみれば、靴の先に手を伸ばした着飾った女性が床に這いつくばっていた。

「?」
「あぁ、もう安心して良い。」

葉巻の男性が手首をクイッと引くと、まるで見えない首輪でもあるように、逆回転するみたいに女性が立ち上がった。

それから、海外の古い映画みたいに華麗にカーテシーを決める。
私の耳元に島津が囁く。

「アイツ、魔法使いなんだよ。」

夫に言い寄るハイスペックイケメンが魔法使い…
リアルBLに心躍ってしまったのは、仕方ないことだと思う。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

私は何人とヤれば解放されるんですか?

ヘロディア
恋愛
初恋の人を探して貴族に仕えることを選んだ主人公。しかし、彼女に与えられた仕事とは、貴族たちの夜中の相手だった…

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

処理中です...