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コンコンコンッ

背中の向こうのドアがノックに少し振動し、緊張が走る。
なんだろう。島津にしては叩き方が軽いと言うか…ちょっとイメージとズレている。

『また2度寝したの~?』

聞こえたのは女声。

──やっぱり…

島津の家に入ってきたということは、合鍵を持っているのだろう。
そんな関係の女性が居たということは…私、遊ばれていたのかな。

これまでも何度かそういうことがあった。
スカイはいつも《罰ゲームで男子に告白される系女子》だったから。

『ねぇ、昨日のことだけど! アタシ嫌だからね。アタシから大事な人を奪って行かないで!!』

島津は、別れ話でもしたのだろうか。
それとも、ここに空が居ることを知っていての、空へ向けた島津関係の言葉なのかもしれない。

あかり~? 居ないの? 返事くらい…キャ、何すんのよ! 放しなさいよ! っていうかちゃんと話し合いましょ…』

女声がだんだん遠くなって行く。
もしかしたら島津がやってきて話し合いが始まるのかもしれない。



好きって言ってくれた。
《あかり》って、名前で呼ばないと不機嫌になって運転が荒くなったり、近付くと赤くなってくれて…

──告白されてからまだ数時間だけど、私、もう島津のことが好きになっていたの?

空は鼻の奥がツーンとして、瞼が熱くなっていて…

「っすん…く……」

気付けば涙が止まらなくなっていた。

こんなに好きにさせてから、やっぱり遊びだったなんて……
空はドアの内側で膝を抱え、声を出さずに静かに泣いた。






「姉貴がちゃんと宣言したんだろ! 山代さんと結婚する。もうここには戻らないって。
ここはもう俺とスカイが住むんだぞ。叔父さんにも了承得てるんだから! マリッジブルーだが何だか知らないけどさ、もう勘弁してくれよ!!」

「だってアイツ、また江藤ちゃんと2人で飲みに行ってたのを隠してたのよ! もう男なんて信じらんない!!
それとは別に、スカちゃんのことよ。総務にはもうちゃんとした人材が居ないんだから、アタシから貴重な人材を奪わないでよ! お願い!!」

「いやだ。俺は本当に怒ってるんだ。俺と同期だからって、何でスカイが嫌がらせなんて……
それに婚活パーティーだってそうだ。強引にスカイの参加を決めたの、姉ちゃんだって言うじゃないか!」

「だってぇ…もうさ、いい加減、雅くんと美弥さんを一緒に暮らさせてあげたかったのよ。」

「まさか、だから山代さんと…?」

「……んー…まぁね。でも、やっぱり彼とは別れるわ。やっぱり彼は、江藤ちゃんが好きなんだと思うのよ。だから…」

「とにかく、ここにはもう戻って来ないでくれ。部屋なら借りる金ぐらいあるだろ?」

「……んー、わかったわよ。かわいい弟の幸せの為だもの。でも荷造りくらいはさせて。その時間くらいちょうだいよ。」

「わかった。それじゃ昼までに出て行けよな!」

「はいはい。」



ドアホンは、スカイの荷物だった。
叔父の話ではスカイの荷物はほぼ本だそうで梱包は意外とラクだったらしい。

その荷物が全て運び込まれた直後、結婚式の日取りまで決まっていた姉がスーツケースを手に帰ってきた。

俺は今日からスカイと2人きりでイチャイチャする予定だったのに、《2人きり》じゃなければスカイは俺を《あかり》とすら呼んでくれないじゃないか。

「ハァ…」

溜め息を吐くと幸せが逃げると言うけれど、俺は大きな溜め息を吐くと、スカイの元へ向かった。


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