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けれどその時、僕の頭の中で悪魔が囁いた。

《既成事実》と。

そうだ。僕と彼女がもう既に恋人関係になっていれば、母上だって文句は言わないだろう。

僕はこの状況を利用させてもらうことにした。



侍女やギャラリーが行ってしまえば、まずは彼女を安心させなくてはなるまいと、不自然に思われないであろうギリギリの線を狙ってのパフォーマンスを始めた。

僕は彼女の足元に跪くと、

「すまない。わたしの軽率な行動で……」

彼女に縋り付いてお詫びした。

だから僕は彼女へ取り繕うのに忙しく、背後への警戒を怠ったのだ。

なぜか彼女が足を暴れさせたので、咄嗟に片足を掴む。

そこからは、まるでスローモーションだった。

あろうことか、彼女は大きく開脚させ彼女の下着が丸見えになる。

捲れ上がったドレスのスカート部分が僕の頭の上に被さり、幾重にもなるペティコートの重みで押されて、彼女の左足を抱いたままズロース越しに彼女の太腿に顔を埋めてしまった。


完全なる偶然だけれど、父王と母王妃は、初恋を拗らせた僕が我慢に耐えかねて強行突破しようとしたと認識したらしい。

これは、早く希望を通してやらないとなるまいと、彼女の誕生日である今日の夕方には、王族のお手振りバルコニーにて、王都在住の貴族や王都民に向けてのお披露目が行われるようになった。

ラッキー!


挨拶のためバルコニーに立てば、眼下には僕の婚約者候補の面々が、般若の形相でアネットを見ている。

マリエッタ達は既に領地の片隅の屋敷に移ってはいるけれど、それは彼らをスムーズに移動させるための言葉の綾で、実際に領地経営を継ぐのはアネット、僕はその補佐につく。

父王と母王妃、舅のスカーリー侯爵と、ここに来る直前に話して、僕の誕生日には略式の婚姻式をして、その足で領地へ向かう許可を得ることができた。

この国では成人が16歳、
王族が婚約できる期間は17歳から、
王族の婚姻は18歳からと決まっている。

僕の誕生日は10日後。

一般に僕の年齢は、1歳マイナスの16歳だと思われているから……

眼下の般若達の実家から、明日から僕の誕生日まで抗議が来そうだな。

もろもろ考えて面倒くさくなった僕は、少々流されやすい彼女と一緒に、熱愛アピールすることにした。

「仲のいいのをアピールする習わしだから、ここでキスしないといけない。
王太子である兄上もしていたよ。」

彼女に話せば……
彼女は真っ赤になりながらもまぶたを閉じた。

《キス》の言葉だけでもこんなに真っ赤になるなんて、可愛すぎる!

僕は彼女の唇に唇で触れた。

キスの直前はもっと深いキスにしようと考えていたけれど、唇と唇で触れ合った瞬間、感無量と言うのか、すっかり心が満たされてしまった。

唇が触れた瞬間には、ギャラリーから歓声とも悲鳴とも取れる声が上がる。

これでもう、あの般若達も何も言わないだろう。

そうしてキスを終えて顔を正面に向けると、何と般若の内の半数が、まだ般若のままだった。

そこで、今度は彼女を後ろから抱きしめた。

再び上がる歓声と悲鳴の入り交じったもの。
般若はそこで更に数を減らした。

だが、最後までマリエッタと死闘を繰り広げていた香水臭い女がおそろしい形相のままこちらを睨み付けている。

どうしたものか。
よりによって、1番相手にしたくない奴が残ってしまった。

僕が彼女を安全に守るとしたら、どうしたら良いのかと考えるが、何も浮かばない。

その時、春先の冷たい風が彼女の着ていたケープの裾を捲ったので直してやり…
そこへ侍従が、
「そろそろ終わってください。」
と言うので、僕は最後のアピールにと彼女をエスコートして室内に戻った。


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