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   出会い

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僕はこの国の第2王子のカイル。
世間的には8歳だけれど、本当は9歳。

原因不明の虚弱体質の僕は、この国の医療としては難病、けれど、僕はその原因を知ってる。
原因は『魔力過多』だ。

もう、かれこれ1年も闘病生活として部屋のベッドから動けないでいる。

魔力は余っているけれど、本来、この国に魔法は存在しない。
だから、魔力過多なのはこの国の中で僕だけ。

──こんなハズじゃなかったのになぁ……

僕は9歳にして、自分の人生にガッカリしていた。



なぜ、僕だけが魔力持ち…しかも魔力過多かと言えば、理由がある。

それは、僕が転生者だからだ。

僕は、転生する異世界は絶対に剣と魔法の世界だと信じ切っていた。
だって、前世時代、生前の僕の愛読書はソレだったんだぜ。

だから、膨大な魔力量をチートとして望んでしまったのだ。

……この世界は魔法がないと言うのに! トホホ。

その時、神は言った。

『魔力を欲するか。ほほう。どう使うか見ものだのぅ。
ただし、使えない場合は短命も有り得る。
転生先は王子じゃ。民のために使うことだ。』
と。

──あー! このままじゃ短命路線まっしぐらじゃねぇかぁ!!

……っといけない。《まっしぐらですね。》だった。

けれど、この国は平和だし、地震も雷も火事もないし、災害級の大雨だって、水不足だって嵐だって吹雪だって、魔物が出てくる訳でもない。

犯罪者や野盗にしても、僕は城の居室から出られないので何の情報も得られない。
何も問題なく、とにかく平和だった。

でも何もなければ、僕の寿命は尽きる。

頭を抱えていた、そんなある日のこと。
僕がいつものようにベッドで天井だけを見ていると、城の庭園で女の子が泣いていた。

魔法の探知に引っ掛かったのだ。

ただ、僕の部屋の真下にある庭とは言え、ここは3階だし、僕はベッドの住人だから、傍に行くどころかバルコニーから見下ろすことさえできない。

いや、できないと思っていた。

けれど、女の子の泣き声に集中したら行けた。

まぁ、正確には僕じゃない。
僕の部屋に赤ちゃん時代からある、白いテディベアに僕の意識を乗せて、転移したんだ。

泣きじゃくる女の子は、たぶん僕よりちょっと年下かな?と思う。

「お嬢さん、どうしたのかな?」

テディベアとして話し掛ければ、オレンジに近い温かみのある金髪が揺れて、女の子は顔を上げた。

頭をあちこち動かして、声の主を探しているようなので、

「こっちですよ、こっち。今話したのは僕で~す。」

アピールしてみれば、彼女の目が、それこそ目玉が飛び出そうな大きさになった。

彼女の瞳は翠で、宝石みたいにきれいだった。

「え? もしかしてクマさん?」
「えぇ、そうですよ。僕はクマのテディです。」
僕が答えると、彼女は僕を抱き…いや、テディを抱き上げた。

意識だけが入り込んでいるのではなく、何と僕は彼女の手の温かさも感じることができた。

「重くない?」
テディとして念の為確認してみると、
「大丈夫。」
彼女は答える。

「それじゃ、どうして泣いていたのか教えて。」
テディが話せば、
「あのね、迷子になっちゃったの。」
彼女は答えた。

テディはぬいぐるみなので首をひねることはできない。

僕は少しだけテディから意識を離して、上の視点から彼女とテディを見下ろす。

するとそこは、野薔薇の生け垣で作った迷路だとわかった。

そこで再びテディに意識を戻すと、
「大丈夫。僕が案内してあげる。」
と言った。

彼女は首を傾げている。

──かわいい。

「ねぇ、君の好きな色は何色?」
「ピンク。」

僕は生け垣のピンク色の薔薇の花を、順路に沿って咲かせた。

「さぁ、お花が咲いている方へ進んで。」
「はい!」

そうして、彼女にテディを抱いて連れて行って貰いつつ、僕は無事に彼女を案内することに成功した。

「わぁ、外だ! ありがとう♪」

彼女はやっと笑ってくれた。

──笑顔かわいい!!

僕はその瞬間、何だか胸がキュンッとした。


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