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婚姻式前日
しおりを挟む婚姻式前日の明け方、俺は妹のシャノンの寝室に忍び込んだ。
シャノンは朝食後に王宮へ向かい、翌日の婚姻式の準備をすることになる。
だから、俺とシャノンが会うのは……これを逃せば、最初の子を出産してからということになる。
王族はその純血を尊び、妃となる者の純潔を重んじる。
だから、たとえ血を分けた兄であっても、婚姻してしまえば異性は会うことが叶わないのだ。
俺は寝室へと移動し、シャノンを起こす。
「もう! お兄ぃったら何よ!」
機嫌はすこぶる悪い。
だが、俺は古ぼけたノートを妹に差し出した。
「シャノン! 実はこれを急いで読んで欲しい。」
「はぁ? 何よこの汚いノート!!」
「これはな…聞いて驚け。俺達の運命が記されたノートだ。この1番最後をよく読むんだ。」
俺がシャノンに開いて見せると、
「……!!」
シャノンは文字を追うなり息を飲んだ。
「これって……お兄ぃ!」
「そう。シャノン、お前婚姻で幸せにはなれないみたいだ。」
「…………は?」
「だから………だから、今からお前は領地へ行け! 俺が代わる。
ジュード!!」
「はっ!」
「え? でも! お兄ぃ!!」
「さぁ、シャノン様、こちらへ…」
「ちょ…ダメだってば、ジュード! 離して!! お兄ぃ!!」
俺は、側近兼護衛のジュードへ命じて妹のシャノンを担いで連れ出させた。
──ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!!!
私シャノンは、私の初恋の相手である、兄付きのジュードに抱え上げられ揺られながら、今のこの状況を整理しようとしていた。
小さい頃、額に傷を作る怪我をした私は、前世というものを思い出した。
その世界では、なぜか今の私や兄のことがお話になっていた。
ジャンルは私の大好物のBL。
自分が悪役令嬢だったことに愕然としながらも、前世持ちなことにドキワクしてテンションの上がったまま、1冊のノートに記憶の限りを書き留めた。
で、当時かなり幼かったせいもあって、今の今までそのノートの存在を忘れていたのだ。
──ヤバイヤバイヤバイヤバイ……
悪役令嬢であるシャノンは、婚姻後に殿下の性癖を知り、ノルマである子を1人出産すると自害してしまう。
元々兄のことが好きだった殿下はその後、兄を呼び出して力ずくで挿入…
兄は男性を終える術を掛け、以降は女性として過ごすことで、男色の殿下の執着から逃れる……という話だ。
──あのノートが、まさか兄のところにあったなんて!
私は腐女子だから、兄と殿下のチョメチョメ見ながら娘と2人楽しく生きるなんて、パラダイスだったのに……
私は、ジュードの肩で揺られながらだんだん小さくなって行く屋敷の灯りを見ながら、兄の無事を願ったのだった。
「はい。殿下と共に歩み、支え合い、その生涯を終えるまで愛し続けることを、誓います。」
なぜか巧いこと追い出されることなく婚姻式当日を迎えた俺は、心持ち高めの声を意識して、殿下への愛を誓ってみた。
婚姻式の終盤、俺は殿下の方へ体を向ける。
殿下が1歩前へ出るのと同時に俺はかがみ、ドレスに括られた宝石の欠片の数を数え始める。
そうでもしないと緊張で耐えられない。
ヴェールを上げられ、至近距離で殿下に顔を見られればきっとバレる。
そうなれば、王家を謀ったとして我が家はお取り潰しになるかもしれない。
だから冷静でいなければならない。
どんな言いがかりも、全部尤もらしく言い返してやる。
今頃は、俺の手筈通りなら、隣国でシャノンとジュードも婚姻式をしているはずだ。
妹と家族の幸せのために、俺は耐えるんだ!
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