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しおりを挟む隣国に到着した長距離馬車は、この国の王都へ向かうらしい。
紹介状の宛先の最初の文言は《王都》なので、丁度良い。
降車の際に御者にでも訊ねてみよう。
そうして、とうとう終点に辿り着いた。
「おじさん、ありがとうございました。」
おじさんが馬車停めに馬車を入れ、馬たちを係留したところで声を掛けた。
「おうよ。お嬢ちゃんは観光かい? この国はオレの生まれ育った国だ。
楽しんでくれるとありがたい。」
「……いいえ。私、この街には働きに来たんです。
それで、この紹介状にある番地なんですけど、どう行ったら良いのでしょうか?」
「どれどれ……」
御者に手渡そうたした瞬間のこと。
急に背中からぶつかられて、紹介状と手持ちの荷物を奪われてしまった。
「きゃっ」
けれど私が慌てて立ち上がった時には、既に犯人も持ち去られた荷物も紹介状も、跡形もなく消えてしまう。
それどころか御者の姿もない。どうやら犯人と御者のおじさんはグルだったようだ。
幸い、貴重品と着替えなどお泊まりセットは腰に縛り付けていたマジックバッグの中に入っている。
とは言え、隣国へ到着した途端の洗礼に、私は心が折れそうになってしまった。
「到着はまだか?」
王都の一等地にある1軒のお屋敷では、アリーやジュークと年の変わらない若い男が、エントランスをイライラしながらウロウロと歩き回っていた。
「ハイドライジンガー様。そんなにウロウロオロオロされても、待ち人はいらっしゃいませんよ。」
彼に声を掛けたのは、初老の男性。
執事らの着る服を美しく着こなし、姿勢は正しくとも椅子に掛けている。
「しかしジェームズ。確かにジュークから、彼女がこの国の王都行きの長距離馬車へ乗車したことは連絡があったのだな?」
「はい。ハイドライジンガー様。
それに、昼過ぎにかの女性が確かに王都へ入ったこと、王都の門番が確認しております。」
「昼過ぎだと?
もう夕刻を過ぎる頃合いだぞ? ならばなぜ来ない?
ジュークは確かに、僕宛の手紙を渡したと言ったのだな?」
「はい。仰っておりました。」
「ならばなぜ……遅すぎるではないか。」
「やっぱり、胡散臭すぎたのではないでしょうか。
この街に住んでいて、この番地が王太子の住まいであると、知らない者はおらんでしょう。」
「そんな……しかし僕は、彼女のことを考えて、屋敷まで購入したと言うのに……」
「けれど来ない。それが答えではないですか?」
「僕は…彼女を囲うチャンスも与えられないまま、フラれたんだろうか。」
「そうでしょうね。
しかし、初恋は叶わないものと言います。」
「…………………………アリー嬢。
もう僕は、君の瞳に映ることは叶わないと言うのか。」
若い男─この国の王太子、ハイドライジンガー─は、その場に膝をつき泣き崩れた。
「ハイド王子、今晩は飲み明かしましょう。この爺がお付き合い致しましょうぞ。」
「爺や、ありがとう。」
けれど、翌朝9時に訪ねてきた1人の女によって、王太子の初恋は継続されることとなるのだった。
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