2 / 3
中
しおりを挟む俺は今、大事な手紙を探している。
婚約者…いや、元婚約者の兄から預かった、『確かに妹との婚約解消を認める』という内容の手紙だ。
アレがなければ、俺の婚約はきちんと解消されないだろう。
父に言われたのだ。
「あちらの当主が認めたのなら、こちらもお前の主張を聞いてやろう。」
と。
元婚約者の邸を出たのはまだ午前だった。
だが、俺の実家へ到着したのは翌日の午前の遅い時間。
俺は馬車からマリーをエスコートすると、意気揚々と実家のエントランスへ希望への1歩を踏み入れた。
執事がやって来る。
俺は執事にマリーを客間へ案内するよう伝えると、急ぎ当主の書斎へ向かった。
気が急いていて、ノックもそこそこに書斎の扉を開けた。
執務机に齧りついていた父は、その音に驚き顔を上げたが、
ケッ
という表情をして、また書類へ視線を落とした。
俺は、多少イラッとしながら、父の横へ回り込み、上着の内ポケットから手紙を出そうとして……
手紙がないことに気がついた。
俺は慌てる。
慌てて書斎を飛び出し、これまで通った場所、階段、エントランス、そして馬車の中まで目を皿のようにして探した。
けれど、とうとうあの手紙は出てこなかった。
私はマリー。
男爵家の次女であり、伯爵家のエレーナ様へ仕える侍女兼護衛だ。
ただ、エレーナ様はとてもお優しく、夜会などの時には私も実家に一度帰宅し、ドレスを着てから実家の馬車で会場で落ち合うことになっている。
この度、私はある特殊任務を仰せつかった。
エレーナお嬢様の婚約者である子爵家の3男の、身辺調査だ。
当主であるエレーナお嬢様のお兄様とは同窓で、成績優秀だったこの男を婿養子として家に迎えようと動く一方で、この男の自意識過剰や選民主義などの噂もあり、そのため私が派遣されたのだ。
その期間、お嬢様とは友人として過ごさせてもらって、子爵家子息に紹介してもらった私は、ある日その男と2人きりで会うことにする。
そして浮気心をくすぐってみて、こちらへ靡いたら婚約は解消すると決まった。
それからその数日後にはその男の父親である、子爵家当主からも依頼を受けた。
どうか息子を誘惑してくれないか、というものだった。
子爵家当主によると、その息子は使用人を下に見て若い下女には直ぐに手を出すし、若い下男からは金を巻き上げる。
しかもそれらの悪事をバレないように隠す頭の回転だけは良い。
このままでは伯爵様に申し訳ない。
だから、婚約解消のための理由付けと、この家から勘当するための理由作りとして息子を誘惑し、既成事実を偽装して子ができたことにして欲しいとのことだった。
結果的に、どちらの依頼も達成させることができて、私は大満足。
執事と共に客間を素通りして、丁度あの男とすれ違う形で、当主の書斎へ参上した次第だ。
伯爵家当主からの手紙を渡せば、依頼達成料として金貨の詰まった革袋を手渡された。
ついでに、あの男を勘当すると記した書類を王宮へ届けるという依頼も受け、私はお嬢様の婚約解消の届けとともに帰りの馬車で速やかに書類提出を行なった。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~
柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。
その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!
この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!?
※シリアス展開もわりとあります。
家庭の事情で歪んだ悪役令嬢に転生しましたが、溺愛されすぎて歪むはずがありません。
木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるエルミナ・サディードは、両親や兄弟から虐げられて育ってきた。
その結果、彼女の性格は最悪なものとなり、主人公であるメリーナを虐め抜くような悪役令嬢となったのである。
そんなエルミナに生まれ変わった私は困惑していた。
なぜなら、ゲームの中で明かされた彼女の過去とは異なり、両親も兄弟も私のことを溺愛していたからである。
私は、確かに彼女と同じ姿をしていた。
しかも、人生の中で出会う人々もゲームの中と同じだ。
それなのに、私の扱いだけはまったく違う。
どうやら、私が転生したこの世界は、ゲームと少しだけずれているようだ。
当然のことながら、そんな環境で歪むはずはなく、私はただの公爵令嬢として育つのだった。
10日後に婚約破棄される公爵令嬢
雨野六月(旧アカウント)
恋愛
公爵令嬢ミシェル・ローレンは、婚約者である第三王子が「卒業パーティでミシェルとの婚約を破棄するつもりだ」と話しているのを聞いてしまう。
「そんな目に遭わされてたまるもんですか。なんとかパーティまでに手を打って、婚約破棄を阻止してみせるわ!」「まあ頑張れよ。それはそれとして、課題はちゃんとやってきたんだろうな? ミシェル・ローレン」「先生ったら、今それどころじゃないって分からないの? どうしても提出してほしいなら先生も協力してちょうだい」
これは公爵令嬢ミシェル・ローレンが婚約破棄を阻止するために(なぜか学院教師エドガーを巻き込みながら)奮闘した10日間の備忘録である。
(完結)その『悪役令嬢』は幸せを恋い願う
玉響なつめ
恋愛
市井で流行っている物語に出てくる『悪役令嬢』のようだ――そんなふうに陰口を叩きながら、彼らはロレッタを嘲笑う。
それもこれも学生のうちの、ちょっとした悪い遊びのようなものだろう。
そんなふうに考えて公爵令嬢のロレッタは一つ下の婚約者である王太子の浮気も、その浮気相手を擁護し嫌味を言う義弟のことも大目に見てきた。
だがそれは唐突に、彼女を含め卒業をする生徒たちを送る会が開かれた、学校の講堂で起きたのだ。
「ロレッタ・ワーデンシュタイン! 貴様はこの僕、王太子アベリアンの婚約者、並びに公爵令嬢という立場にありながらここにいるカリナ・アトキンス男爵令嬢を冷遇し、周囲にもそれを強要した! そのような女性を未来の国母にするわけにはいかない。よってここに婚約破棄を申し渡す!」
望まぬ婚約から解き放たれた公爵令嬢は、彼らに語る。
これから何が必要で、何をすべきなのか。
そして幸せを願うのだ。
フランチェスカ王女の婿取り
わらびもち
恋愛
王女フランチェスカは近い将来、臣籍降下し女公爵となることが決まっている。
その婿として選ばれたのがヨーク公爵家子息のセレスタン。だがこの男、よりにもよってフランチェスカの侍女と不貞を働き、結婚後もその関係を続けようとする屑だった。
あることがきっかけでセレスタンの悍ましい計画を知ったフランチェスカは、不出来な婚約者と自分を裏切った侍女に鉄槌を下すべく動き出す……。
魔力なしと虐げられた令嬢は孤高の騎士団総長に甘やかされる
橋本彩里(Ayari)
恋愛
五歳で魔力なしと判定され魔力があって当たり前の貴族社会では恥ずかしいことだと蔑まれ、使用人のように扱われ物置部屋で生活をしていた伯爵家長女ミザリア。
十六歳になり、魔力なしの役立たずは出て行けと屋敷から追い出された。
途中騎士に助けられ、成り行きで王都騎士団寮、しかも総長のいる黒狼寮での家政婦として雇われることになった。
それぞれ訳ありの二人、総長とミザリアは周囲の助けもあってじわじわ距離が近づいていく。
命を狙われたり互いの事情やそれにまつわる事件が重なり、気づけば総長に過保護なほど甘やかされ溺愛され……。
孤高で寡黙な総長のまっすぐな甘やかしに溺れないようにとミザリアは今日も家政婦業に励みます!
※R15については暴力や血の出る表現が少々含まれますので保険としてつけています。
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる