2 / 6
2
しおりを挟む「クラウス! 私の側近からはずれるとは本気か?」
幼馴染であるウィルの真正面からの言葉に、俺は俯く。
「本気も何も、父と国王陛下の決定だ。断ることなどできない。」
「そんな! だが、私が望めば…」
「いや。幼馴染だからこそ、俺が足を引っ張る訳にはいかない。俺は辺境の傭兵団に入るつもりだ。ここへは今まで世話になった挨拶だけと思って寄らせてもらっただけだ。」
最後くらいはとウィルに笑顔を向ける。
たとえ平民になって生涯会えないとしても、万が一俺を思い出す事があるならそれは笑顔の俺がいい。
少しキザだがそう考えてのことだった。
けれどウィルの表情は冴えない。
俯きがちにブツブツ言いながら執務机の引き出しをあさると、握りしめた右手を俺の胸へ突き出した。
手のひらを上にして両手を差し出せばウィルの右手が開かれ、ころりとしたものが俺の手のひらへ落とされる。
ウィルの右手が去るのを少し名残り惜しく見つめれば、俺の手のひらには小指の先程の宝石の嵌った指輪が乗っていた。
ウィルの顔を見れば、俺から視線を逸らして
「餞別だ。このくらいの方が、換金しやすいだろう。」
と。
「わかった。生涯大事にする。ありがとな。」
俺は、実家で母がこっそり渡してくれたネックレスに指輪を通すと、ウィルに一礼して王太子の執務室を出る。
振り返らずに城門を目指し、城下を通り抜け、国内のあちこちへ向かう乗合馬車の発着所へ向かった。
国の南に位置する辺境の町への馬車は、発着所の一番はずれにあった。
俺と同じように傭兵団へ入るつもりの一文無しやごろつき、瞳の輝きを失ったような男らが馬車の出発準備を待っている。
御者へ料金を払うと、座席で待って構わないと言われて乗り込む。
中央の通路に向かう長椅子には、片側だけで騎士なら6人、平民の出稼ぎなら8人は掛けられるようになっている。
盗られて困るものなどないが、着替えの入った肩掛け鞄を抱えると、1番後ろの外が見られる席へ掛けた。
それから俺の後ろから2人の男が乗り込むと、俺の隣と向かいに腰を下ろした。
──他の乗客はまだ外。場所はいくらでも空いているのに…
すると、隣に座った男がこちらへ手を伸ばしてきた。
「よぉ、兄弟!」
ガシリと肩を抱くように掴まれる。
「旅は道連れって言うだろォ? どうせ同じ場所へ向かうんだ、仲良く行こうぜ! な?」
掴まれた肩から肘まで擦られた。
「そうだぜぃ!」
今度は向かいの男がこちらへ身を乗り出しながら言う。
「辺境までは馬車でも5日はかかる。何か楽しみがないと耐えられねぇ!」
向かいの男は更にずいっと身を乗り出し、男の膝が俺の足の間へ差し込まれた。
「兄ちゃん、綺麗な髪じゃねぇか!」
肩を撫でていた男の手が、無造作に束ねた俺の後ろ髪を掴むと耳の下へ男が鼻をねじ込む。
「お、首から何を下げてんだ?」
向かいの男が俺のシャツの襟ぐりを引っ張り、ボタンが2つ飛んだ。
隣の男の右手が右膝から内腿を撫で、耳朶を甘咬みされ…
俺は耐えられなくなって立ち上がると、隣の男の手を振り払い、向かいの男に鞄を押し付けるようにして、幌の間から飛び出した。
一目散に、ひたすら走って別の行き先の馬車に並走するように門を抜けた。
「馬鹿野郎! 轢かれたいのか!!」
国の西へ向かう馬車の御者が、怒鳴りながら馬の頭を右へ向けて鞭を打ち、通り過ぎて行く。
「待ちやがれ!」
声がして振り返れば、まだ遥か後ろではあるが男の1人が追い掛けてくるのが見える。
だから御者に怒鳴られたくらいで止まる訳にはいかない。
「早く! 急いで門を閉めてくれ!!」
門兵に声を掛けて、追ってくる男がやって来る前に門を閉めてもらう。
「待てコラ!!」
「いやだ!」
ドーーーン……
ひと声返したところで門が閉まる。
──に、逃げられた!
安心したのも束の間。息を整え顔を上げて愕然とする。
眼前に広がるのは、人っ子一人居ない広大な荒れ地だけだった。
10
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
週末とろとろ流されせっくす
辻河
BL
・社会人カップルが週末にかこつけて金曜夜からいちゃいちゃとろとろセックスする話
・愛重めの後輩(廣瀬/ひろせ)×流されやすい先輩(出海/いずみ)
・♡喘ぎ、濁点喘ぎ、淫語、ローター責め、結腸責めの要素が含まれます。
くまさんのマッサージ♡
はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。
2024.03.06
閲覧、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。
2024.03.10
完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m
今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。
2024.03.19
https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy
イベントページになります。
25日0時より開始です!
※補足
サークルスペースが確定いたしました。
一次創作2: え5
にて出展させていただいてます!
2024.10.28
11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。
2024.11.01
https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2
本日22時より、イベントが開催されます。
よろしければ遊びに来てください。
くっころ勇者は魔王の子供を産むことになりました
あさきりゆうた
BL
BLで「最終決戦に負けた勇者」「くっころ」、「俺、この闘いが終わったら彼女と結婚するんだ」をやってみたかった。
一話でやりたいことをやりつくした感がありますが、時間があれば続きも書きたいと考えています。
21.03.10
ついHな気分になったので、加筆修正と新作を書きました。大体R18です。
21.05.06
なぜか性欲が唐突にたぎり久々に書きました。ちなみに作者人生初の触手プレイを書きました。そして小説タイトルも変更。
21.05.19
最終話を書きました。産卵プレイ、出産表現等、初めて表現しました。色々とマニアックなR18プレイになって読者ついていけねえよな(^_^;)と思いました。
最終回になりますが、補足エピソードネタ思いつけば番外編でまた書くかもしれません。
最後に魔王と勇者の幸せを祈ってもらえたらと思います。
23.08.16
適当な表紙をつけました
エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!
たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった!
せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。
失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。
「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」
アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。
でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。
ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!?
完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ!
※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※
pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。
https://www.pixiv.net/artworks/105819552
いつもは我慢してるのにきもちよすぎて♡喘ぎしちゃう話
Laxia
BL
いつもはセックスの時声を我慢してる受けが、気持ち良すぎて♡喘ぎしちゃう話。こんな声だしたことなくて嫌われないかなって思いながらもめちゃくちゃ喘ぎます。
1話完結です。
よかったら、R-18のBL連載してますのでそちらも見てくださるととっても嬉しいです!
君が好き過ぎてレイプした
眠りん
BL
ぼくは大柄で力は強いけれど、かなりの小心者です。好きな人に告白なんて絶対出来ません。
放課後の教室で……ぼくの好きな湊也君が一人、席に座って眠っていました。
これはチャンスです。
目隠しをして、体を押え付ければ小柄な湊也君は抵抗出来ません。
どうせ恋人同士になんてなれません。
この先の長い人生、君の隣にいられないのなら、たった一度少しの時間でいい。君とセックスがしたいのです。
それで君への恋心は忘れます。
でも、翌日湊也君がぼくを呼び出しました。犯人がぼくだとバレてしまったのでしょうか?
不安に思いましたが、そんな事はありませんでした。
「犯人が誰か分からないんだ。ねぇ、柚月。しばらく俺と一緒にいて。俺の事守ってよ」
ぼくはガタイが良いだけで弱い人間です。小心者だし、人を守るなんて出来ません。
その時、湊也君が衝撃発言をしました。
「柚月の事……本当はずっと好きだったから」
なんと告白されたのです。
ぼくと湊也君は両思いだったのです。
このままレイプ事件の事はなかった事にしたいと思います。
※誤字脱字があったらすみません
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる