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もろもろあって、最後の1年
聖女の御業と騒動
しおりを挟む「不敬だ!」
「乱心だ!」
「王子、立てますか?」
室内は急に騒がしくなったの。
「ひどい。まだ挨拶も受けてないのに…」
側近のような人物に支えてもらって、目の前の男は立ち上がる。
「戦でもするか? それとも、全ての責任を取って吾の手を取るか? どうする?」
どうやったらそんな顔ができるのかと不思議な程に醜悪な表情で、男は言う。
私はもちろん、覚悟はできている。
「えぇ、もちろん。私は全ての責任を取って…」
私はその場に膝を付き、祈りの姿勢を取ると、『祈りの歌』に気持ちを乗せたの。
──女神様…
せっかく貴女にお力を戴いたのに、私は不実を働きました。
どうか裁きをお与えください。
「ゔあああああぁぁぁぁーーーーー!!!!!」
急に、目の前で叫び声が上がったの。
でも私は歌の途中だし、祈りを中断することはできない。
「王子、いかが…あああああァァーーー…頭が割れるぅぅぅーーー!」
「王子? おう…バ、バババケモノォォーーーーー」
「ひぃぁあああーーーお助けぇ!!!」
何があっても、祈りの中断は…
「ぐおぉぉぉーーー…ぎぎぎぎぎぎぎ…ゔだびべぇ…」
ササーーーーーーーッ…
『ありがとう。《歌姫聖女》の御業が、悪霊を滅しました。』
『祈りの歌』を終えて瞼を上げれば、目の前にはあの男と同じ色合いながら似ても似つかない見た目の王子が、申し訳無さそうな表情で私を見ていた。
「ぼくは、子ども時分にあの悪霊に取り憑かれて以来、体も心も乗っ取られていたのです。それが貴女の歌で、やっと解放されました。
ありがとう。御礼に貴女の願いを全て叶えます。ぼくの身も捧げましょう。どうか、この手を取ってください。」
ずんぐりむっくりした王子は言うと、片膝をつき、私の右手を掬うように持ち上げた。
──この手を取ってくださいと言いながら、もう取られてしまっているわね…どうしたら…?
そう考えていると、
「貴女を幸せにすると誓います。」
言いながら私の右手に顔を近付けてくる。
手を引き抜きたくても抜けない。
断る訳にはいかないの?
どうしたらいいのよ!!!!
右手以外の体も頭もが退き始めていた。
悪霊だったと言うアイツのような気持ち悪さはない。
ないけど!
こちらもこちらで、好きとは言えないタイプだった。
その時だった。
「お待ち下さい!!」
いつも私と国王との連絡係をしている王子が駆け込んで来た。
「お待ち下さい。こちらの聖女は…」
やって来た王子が私と隣国の王子との間に割って入ってくださり、やっと右手共々退くことができた。
「こちらの聖女は、我が国としてもとても大事な聖女でして…」
自国の王子は、言葉に詰まりながらも必死に話す。
「春の芽吹きには、どうしても必要な聖女でして…」
「しかし我が国としても、王族の受けた恩は返さねば母女王に叱られてしまうぞ。カッカッカッ…」
隣国の王子はしぶとく、何度も手を伸ばして私の腕を引こうとする。
だから私も何度も自国の王子の後ろに隠れて顔を伏せる。
でも、王子の背中は背の高さの割に薄く小さく、非常に頼りない。
対して隣国の王子はドスコイ体型で迫ってくる。
あまりのの押しの強さに、いつ自国の王子が負けてしまうのかと、ハラハラしながら見守ることしかできなかった。
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