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1人暮らしを決意していた、18歳頃

王子様の話

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女神への歌を終えると、その場で振り返る。

そこかしこで緑色の光が生まれている。
《癒しの聖女》が到着したようで、ベンチのあちこちで《聖女の御業》による治療が行われているのだ。

ウルは怪我をした聖騎士の包帯を替えてあげていて…

──え?聖騎士?

よく見ればベンチに村人らの姿は既になく、横たわっているすべてが聖騎士の正装の上着を脱いだ、白のスラックス姿になっている。

「いるはずのない水系の巨大魚が、大雨でできた溜め池に発生したらしい。
そこで聖騎士に出動の命令が出て、やられて、巨大魚に魔物の反応が出たから《浄化の聖女》が呼ばれたんだ。」

私の横で解説しているのは…

「王子殿下。そろそろ王城へお戻りになりませんと。」
「わかった。しかし私は《歌姫聖女》に用事があるのだ。」
「ハッ!
それではわたくしは、ここに控えております。」

王子様と呼ばれたのは、『春花祭』の日にちょろりと会ったことのある明るい金髪の優男だった。
控える男に1つ頷くと私の方へ向き直った。

「ここは再び、国全体の救護所となった。ここには《女神のドーム》がある。安心して彼らを預けられる。以前のように、また物資を送ることにする。受け取るようにここの魔法聖騎士に伝えてくれ。」

言った王子様は、ウルや横たわる聖騎士達を眺めている。

「ここを、宜しく頼む。」

王子様は私に人の良さそうな微笑みを見せると、控える男を連れて転移陣のある部屋へ向かった。

その笑顔が誰かに似ているような気がしたのだけれど、誰だったのかしら。
すぐには思い出せなかった。





そうして、朝に夕に女神へ歌を捧げて過ごしているうちに《浄化の女神》がお伴の魔法師に抱えられて戻り、《癒しの聖女》の施術を終えると中央の神殿へ帰って行った。

怪我をした聖騎士さん達が中央の神殿への転移陣に乗って本来の仕事に戻り、再び王子がやって来て視察してまた戻ると、国王による安全宣言が出され、私達はまた元の生活へと戻った。



そうしてまた5年ほど経過し、夏の誕生日を迎える頃、ギリアン爺が中央神殿から戻って来た。
先々代の聖女と一緒に戻って来たギリアン爺はまた少し体が小さくなったようだった。
心配ではあるけれど、私とウルはほぼ入れ替わるように中央の神殿へ向かうことになる。

国王の命令で国内のあちこちに出向いて『芽吹きの歌』を歌ったり《女神のドーム》と呼ばれる結界を張ったり、中央へ戻って様々な儀式や祭やコンサートに出たりしたわ。

その度にウルは老若男女にモテモテだし、老若問わず告白されるしプロポーズされていたわね。
私は私で好みの背中の様々な職業の人にお付き合いを前提に話し掛けたり告白したりしながらふられたり、まぁまぁ充実した毎日だったの。


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