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孤児院での暮らし・11歳

別れと旅立ち 1

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一頻り笑うと、ウルが真面目な表情かおでこちらを見たの。
そうしていると、本当にウルは賢者様や昨日見た王様みたいに威厳があるように見える。
私も慌てて姿勢を正したの。

でも、すぐには話し始めなかった。
ウルは、何を言おうか考えているようで、口を開いては閉じてを繰り返していたわ。

珍しいなと思った。
けど、邪魔しちゃいけない、待ちたいと思ったの。

するとウルは両頬をパチンと叩いて、それから1つ頷くと、私を真っ直ぐに見た。

「実は俺、正式な神官になるための寄宿学校に入ることになったんだ。」
「へ…?」

聞いて私は、すごく悲しくなった。
だって、これまでずっと一緒に過ごしていて、離れたことなんてないもの。
なのにウルは遠くへ行ってしまう。
会えなくなるのは悲しい。
でも、ウルが決めたなら私が何か言っても覆らない。

ウルが私に手を伸ばす。
私はつねられると思って、一瞬身構えた。

でも…

「そんな顔するなよ…」

ウルの手は、私の頬に優しく沿う。

「大丈夫だ。勉強が終われば、また帰って来られるんだから。」
「本当に?」
「あぁ、嘘はかない。」
「うん。ウルはいつも、嘘は吐かないもんね。」

ウルの親指が、私の目の下を撫で…
「ヤベ…」
ウルは慌てた様子で辺りを見回し、それから私がそのまま着てた白のワンピースの裾を掴んで私の頬をゴシゴシ擦った。
「これでヨシ!」

解放されたワンピースには、土色のウルの手形がくっきりと…
私のイライラは瞬時に沸点へ昇りつめた。

「ウル? コレは…」
「あ、ごめ…シスターには俺が謝るから!」
「もう! ちゃんと洗濯もしなさいよね!」
「わかった、わかったから、こんなところで立ち上がるな!!」

ウルに言われて初めて、自分たちが枝の上に居るのだと思い出した。
直後、バランスを崩す。

「ぎゃ!」

そこをウルに抱き留められ、その場に座り込んで落ち着いた。



「ハァ…ハァ…ハァ……」

私は今、ウルと暮らしている中で一番広い範囲でウルにくっついている。

同じような背丈だから体の前面同士がくっついてる訳だけど、お互いに抱きしめ合ってるような形で…
しかもウルの体は私のと全然違うって感じてしまった。
畑で鍬を使うし、多分私よりも筋肉がついてるんだと思う。
まぁ孤児だし。いつだってお腹いっぱい食べられる訳では無いけれど、骨っぽさは全然感じない。

ウルは私とは違う─男の子なんだって実感するのに足りる程だった。

それに、右耳同士が触れ合う位置に顔がある。

テンパってるせいか、お互い呼吸が荒くなってるのがわかる。
その時、
「良かったぁ~。」
ウルが呟きながら左耳が私の肩に触れるように、頭を傾かせた。

ブワッ

ウルの呼気が首を擽って、お腹がゾワゾワした。

「どうした? 全然喋らないのな。」

ウルが顔を上げ、私と顔が近付いた。

キスもできそうな距離…
「わ、ごめん!」
ウルは言うと慌てて体を離そうとしたけれど、私は固まってしまってすぐに腕を離せない。

「…出発は、いつなの?」
「今晩。」
「それじゃ、もうお別れだからもうちょっと…」
「わかった。」

私達はまだ抱き締め合った状態でいた。
まだ小さい頃に相撲をしたのを思い出す。

「ぷふふ…」
「何だ?」
「小さい頃は、私の方が背が高くて相撲も強かったのにって思って。」
「ん…俺は、早く大きくなりたい。」

ウルの声が私の体もびりびりと響かせる。
ウルは私の肩を押すようにして体を離すと、私の頬に手を伸ばして、
「泣かせてごめんな。」
と、目元を親指の腹で拭ってくれた。

「俺は、ちゃんとセアリアを守れるような男になりたいんだ。」

いつもより何倍も力強い深い青が、まっすぐに私を見た。

「だから、待ってて。必ず迎えに行くから。」
「ん? 私はここにずっと居るわよ?」
「居られないよ、セアリアは聖女になったんだから。」
「あ、そっか…」
「でもお陰で探しやすくなった。ほら、返事は?」
「……うん、わかった!」

すると、また両肩が引き寄せられ、ハグされた!

「ありがと、セアリア。俺、これからどんなに辛いことがあっても今のこの思い出だけで頑張れるよ。」

ハグされていれば見えないけど、ウルがニカッと笑っているのがわかる。
抱き締めてくる腕は力強いし、体温はすごく上がってるし、何より嬉しい時のトーンで話しているもの。

「会えなくても応援するね。うわっ…」

今度はまた体が離されて、

チュッ

ウルの顔が近付いたって思った瞬間、目元に柔らかなものが触れた。
……ってか、この音って!

離れて行くウルの顔が真っ赤で、こっちも追って同じ顔色に染まったの。


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