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孤児院での暮らし・11歳

前の記憶と背中

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国で1番偉い王様から『歌姫聖女』に認定された私は、そのまま同じ馬車に揺られて慣れ親しんだ孤児院へと戻ってきた。

帰り道…? もちろん爆睡したわ。
初春薔薇のコンサートが終わってすぐに、馬車に揺られて夜遅くに城へ到着して歌って、そのまま待たされて夜が明け切らないほどの早朝に認定されてすぐに帰りの馬車に押し込められたような形で帰ってきたからね…

それに、聖女の力に目覚めてすぐの者は体力の消耗が激しくて、眠っている時間が長くなったりやたらに食べまくったりするらしい。

他で見つかった聖女たちはそのまま王城へ泊まってお披露目されたり、中央の神殿へ滞在して修行を始めるという子もいるみたい。
けれど私は孤児院育ちの孤児なので、やっぱりちょっと城の客間を使うには不潔だったみたいで、帰らされたの。



その帰り道の馬車で、私は不思議な夢を見たわ。

初春薔薇の庭園なんて比じゃないほどの大きなステージで、眩しいほどのスポットライトを浴びながら、たった一人で私が歌っているの。
私のことは、みんな『歌姫』と呼んでいたわ。
そこで私が歌うのは、どれもこれも今まで聞いたことのない歌だったの。

見下ろせば、とてもきらびやかな、体の曲線に沿うデザインのドレスがライトを反射していてきれいだった。

お胸が重くて立ち辛かったから、今じゃ絶対にお行儀悪いと言われるくらい足を開いて、ドレスの切れ目から膝が見えていたの。

客席に差し出した手は今の大きさじゃないし、髪も、今の直毛じゃなくておしゃれにくるくると跳ねていたわね。

私はそんな中、とても楽しく歌っていたわ。
感情を込め過ぎてこみ上げる感情のままに泣きながら歌ったり…歌の中ではたくさんの愛を囁いたわ。

けれど実生活では孤独で、帰る部屋は真っ暗だし、夜一緒に寝てくれる人も居ない。せっかく血の繋がった家族が居たのに一緒に暮らしてもいなかった。

朝起きて覗き込んだ鏡に映る大人の女性の姿を見て気付いたの。
これ、セアリアになる前の私だわって。
とにかく、見覚えしかないわたしだった。

前…前世?の私も、『歌姫』と呼ばれていてステージで歌っていたのだと思い出したから、『歌姫聖女』に認定されたことはストンと納得することができたの。

そうして目が覚めたらもうすっかり明るくて、見慣れた孤児院の天井だった。
私、眠ったまま帰ってきてたのね……





起き上がると同時にお腹が盛大に鳴った。
とにかくお腹が空いていて、私は食堂へ向かったの。

みんなはもう日課の畑仕事をしているみたいね。誰も居ないし豆のスープが私のだけ一皿分残ってた。すっかり冷えていたけれどとにかく食べると畑に向かった。

私は、とにかく早くウルに昨日のもろもろを話したかった。
だってたぶんウルのお陰だもの。
コンサートでも王様の前でも、あんなに臆することなく歌えたのは、ウルと歌って緊張がほぐれたからだと思うから。

この時間、孤児たち唯一の男児であるウルは畑に居るはず。
だから、畑へ急いだの。



春の聖女のおかけで雪がとけ、先週までよりも空気が穏やかな感じがしたわ。

あ、あの遠くで鍬を振るっているのがウルね。こちら側の畑は既に畝が作ってあって、小さい子たちが種を蒔いていた。
小さい子たちとウルとの間の女の子たちは、大きな石を拾ったり畝を作ったりを素手や小振りの板でやっている。

私も仕事をしながらウルのところまで行こうと考え、いつものように立て掛けてある鍬に手を掛け…

スカッ

掴めなくて鍬のあった方を見ると、そこには見上げるほどの大男がいた。

「聖女様の仕事ではございませぬよ。」
大男は、そう言って鍬を持ったまま私に背を向ける。

大男は、一孤児が見たことのないような制服を身に着けていた。
足元は、編み上げ部分の長い…安全靴?
畑という場に似合わない真っ白に金の縁取りのある、あの肩に乗せたフサフサは…河童用のカツラかしら。
胸にはたくさんの勲章が並ぶ。

──これって、もしかして軍服かしら。結婚式用の…

男の襟元から足元までを、上等なシーツみたいな布が覆っていて、それが春風に揺れ……

バァサッ
「うぷ!」

私の顔に当たりながら風に煽られて翻った。

大男の鍛え上げた背中が見えた途端、同じような背中を見た記憶があるって感じたのと同時に、この背中に好感を持ったの。


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