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孤児院での暮らし・11歳

私が聖女になった日 1

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「今日はとうとう、『初春コンサート』の当日です。また今年もたくさんの薔薇が綺麗に咲きました。みんなの歌声をたくさん聞かせてあげましょうね。」
「「「「「はーい!」」」」」

孤児院のシスターの声掛けに、子どもたちが答える。

春の聖女によってもたらされた芽吹きの翌日である今日は、この孤児院の名物になっている時期外れの『初春薔薇』と、孤児院の子どもたちの合唱を聞かせて貴族や中央の神殿の偉い人達から寄付を募る日だ。

この日は好き。
まず歌が好きだし、みすぼらし過ぎに見えないようにお揃いの真っ白のワンピースを着て、フケが目立たないように白の帽子を被れるから。
それに、この領地を治める伯爵様の奥様が焼いたクッキーが貰えるから嬉しいの。まぁ、私の取り分は小さい子達にあげちゃうんだけど。

この孤児院には、3歳2人と、5歳6歳7歳が1人ずつ、9歳3人と、10歳が5人と、11歳が私ともう1人暮らしてる。
13歳からは奉公に出て住み込みで働いて、3年間の修行を終えて《見習い》になって、そのまた2年後には《下っ端》に。そこでやっと1人の大人として認められた頃には成人を迎える。
大抵の子は適性を見るとかで奉公の前年からお試しであちこちに短期で通いの奉公に出される。
だから私は夏の誕生日までに、この孤児院がくっついてる小さな神殿の神官長のオジサンが私に合った最初の奉公先を見つけてきてくれることになる。

だから、今回の参加が最後なんだよね。
さみしいけど、最後だし頑張って歌うんだ。



「それじゃ、そろそろ着替えてください。」
「「「「「はーい!」」」」」

シスターの声に返事をすると、子どもたちが衣装のある隣の部屋へと動き出す。
最年少の2人はシスターが右手と左手に1人ずつ連れて、後は年の順に続く。

今、この孤児院には3歳から10歳までの女子と、私と同じ11歳の男子が……

「あれ? シスター、ウルが居ないわ。」

私は、先頭のシスターに聞こえるように訊ねる。

「ウルは出ないそうよ。」
「えー? 私たち今年が最後なのよ?」
「なら、ウルに直接言ったらどうかしら。」
「わかった。ちょっと話してくる。」
「いいわ。5分よ。」
「はーい!」

私は最後尾を離れると、ウルが昼寝場所にしている木によじ登った。

案の定、物心つく頃から私と一緒に暮らしているウルは、その大振りな木の枝と枝が捻れるようにできたくぼみの上で、こちらを頭にスヤスヤ眠りこけている。
下は貴族の馬車の音なんかでそれなりに煩いというのに、周りの音なんて全く耳に入っていないように気持ち良さそうな寝顔で、私はちょっとイラッと来て…
でも急に起こして驚かせないように、極めて静かに彼の急所を突く。

──昔から、左耳が弱いのよね…

ウルの左の耳朶に指を伸ばす。
ウルの、サラサラの金髪を掻き分けて行き、少し狙いが外れて耳の穴に近い方へ触れてしまうと、作り物の人形みたいにカッとウルの目が開いた。
少し呼吸が荒い。
私はウルを落ち着かせようと、額の真ん中を指先でくるくると撫でた。
するとウルは私のその手をギュッと掴み、その手のひらを自分の顔に…

「ぎゃ!」
ウルの柔らかな唇が私の手のひらに触れ、私は慌てて手を引っ込めた。
「ぷくくくく…」
引っ掛かったとでも言うように笑いながら身を起こすと、ウルは宝石みたいな深い青の瞳で私の背中をバシバシと叩いた。

「全くもう…キャーとかカワイイ声出せないのかよ。」
「だってウルが急に…!」

ウルはまだ下を向いて肩を震わせている。
恥ずかしくて真っ赤になった頬が熱いけれど、私はそこでここに来た用件を思い出した。

「ウル、どうしてコンサートに出ないの?」

ウルはピタリと笑うのを止めると、顔を上げた時には真面目な表情になっていた。


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