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元治2年/慶応元年

瓦解の始まり、かな?(参)

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この日の夜、私は屯所から脱走しようとしていた山南さんを見つけた。

『本当にお主の言ったように脱走しようとしていたな』

ほむろがそんなことを言っている。私はその場にしゃがんで、地面に文字を書いた。

"ここを、出ていかれるつもりなんですか"

それを読んだ山南さんは穏やかに微笑んだ。どこか寂しげな笑顔だった。

「君には、全てわかってしまうのですね」

私は山南さんの答えを待ちながら彼の横顔を見上げる。

「私の役目は、もう終わったのです」

夜空の月を見上げながら、山南さんはつぶやく。

「伊東さんと私は、面識がありました」

そういえば、山南さんって伊東さんと同じ北辰一刀流だったっけ。

「伊東さんは、私以上に弁舌に優れ、剣術にも秀でた人です。私が持っていないような知識も持っています」

伊東さんを褒めているのに、山南さんの目には明るさがない。

「同じ役割を持つ人間は、二人も必要ないのです。もしそういう人物が二人いれば、より優れた方を選ぶ、これが普通です」
「………」
「近藤さんも土方くんも、確かに私にはよくしてくれます。ですが私には、それが同情や哀れみのように思えてならないのです」

山南さんは、誇りが高い人だ。そんな人が、他人に同情されることを良しとするはずはないのだろう。

山南さんの誇りが、ここに居続けることを拒んでいるんだ。

「新選組は変わりました。ともに過ごしてきた仲間たちが、山南 敬助を見てくれなくなったのです」

そこまで言って、山南さんは言葉を切った。長い間、沈黙があった。

「新選組には……もう……私の居場所はないのです」

この一言を絞り出すのに、山南さんはどれほど苦しんだのだろうか。

江戸から遠路はるばる上京してきて、近藤さんや土方さんたちと一緒に新選組を作り、ここまで導いてきたこの人が、新選組での居場所を失ったと気づいてしまって、どれほど苦しかっただろうか。

気づいてしまったからこそ、近藤さんや土方さんの心遣いが受け入れられないのだろう。今までと同じように見てくれないのが、悲しいのだろう。

山南さんの気持ちは、なんとなくわかってしまう。大切に思う存在に同情されればされるだけ、惨めになるから。

「正式に土方くんや近藤さんに言って離隊すべきなのでしょうけど、あの人たちはきっと許可してくれないでしょう」
"でも見つかってしまったら、切腹なんですよね"
「そうですね。脱走は認められていません。だから、できるだけ見つからないように頑張りますよ」
"やり残したこととか、本当にないのですか"
「やり残したこと、ですか。しいていうなら、もっと医学の研究をしたかったですね」
"それをやろうとは思わないのですか"
「思いますよ。ですが、それはうまく江戸まで逃げ延びたあとの話です」
"その方法を、私は一つだけ知っていますよ"

それを地面に示すと、山南さんが沈黙した。

そう。一つだけ、私は方法を知っている。新選組に捕まらず、安全に江戸まで落ち延びる方法を。

しかしそれは、山南さんがこちら側の世界に来なければいけないことを意味する。これを受け入れた場合、山南さんはもう気軽に人の世には出てこれない。

「君は……私に何を示してくれるというのですか?」

私は彼に答える。
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