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元治2年/慶応元年

幕間:ほむろの推測

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 初めてその気配を感じた時、どういうことだ?と疑問に思った。

 あの夜池田屋で、妾はそこにいるはずのない力を感じた。京の都から遠く離れた北端の地にいるはずの奴の力が、なぜここにいるのか?

 力を追いかけて二階に上がって、妾は彼の姿を見た。

 見た瞬間わかった。この男は、雫と同じだと。

 この男もまた、妖狐の力を自らの体に取り込んだ、妖狐の依り代だ。でないとあの人間離れした腕力はあり得ない。

 男に力を提供した妖狐は池田屋では見当たらなかったが、おそらく力の源は四尾だろう。

 雫と違って、男は何も失っていない。六以下の妖狐の依り代は、妖狐の力がそこまで強力ではないため手に入れた代償がない。だから代償を支払っている雫が彼と戦うのは不利だ。

 依り代同士であれば、己の力を察知し合うことはできない。彼が雫のことに気づいていないことを、祈るばかりだった。




 あの日から5ヶ月、あの男は、今度は四尾を連れて再び雫の前に姿を見せた。しかも、雫が九尾の依り代だと知った状態で。

 どういうことだ?ただの依り代ならば、雫が九尾の依り代だとは気づかないはず。依り代を看破できるのは、妖狐と里長だけだから。

 なら、この男はどこかの里の長なのだろうか?妾は全ての里の長を知っている。しかし彼のことは、見たことがない。

 彼は、この時代の人間とはどこか違う雰囲気と顔を持っていた。見た目の特徴は日本人のそれだが、どこかこの時代の人間じゃない感じがする。初めて雫を見た時の感覚に似ている。

 そんな人間が長になっているのなら、わからないはずないのだが………。

 待て………?一つだけあるぞ。彼が長であってもおかしくない里が。

 蝦夷地にある薬奈だ。四尾の狐を祀る、薬奈くすなの里だ。奴が四尾の依り代だとわかった時に気づくべきだった。盲点だった。

 薬奈の里は、4年ほど前から他の里との連絡が一切途絶えていた。

 こちらから出向こうにも、四尾は隠密に特化された妖狐だ。それを祀る薬奈の里も、妾にすらわからないほど隠密性の高い場所にあるから見つけることすらできなかった。

 この空白の4年間で、長が代替わりしたと考えるのが妥当だろう。

 久々に見た四尾はずいぶんと変わった。最後に会ったのは500年ほど前だった気がする。四尾は確か、妾を除く妖狐の中で、最も長寿だったはず。

 現に四尾には尻尾が一本しか残されていなかった。残りの3本は、老衰ですでに落ちてしまっているのだ。

 しかし彼らの言う"望み"とはなんであろうか?彼の口ぶりからして、日本制圧ではないように思える。入山の者とつながってはいないと考えて良いのだろうか?

 それでもなんとなく、彼の望みは叶えてはならないようなものに思えた。全てを呪い殺しそうなほど冷たい眼差しで語られる望みなど、ろくなものだとは思えない。

 沖田や斎藤、藤堂が来て奴らは引いたが、また必ず雫を奪いにくるだろう。

 その時、雫は彼らとともに行くだろうか?




 四尾がまだ生きているうちに、あの男と雫の力を合わせれば、雫は元の時代に帰れるのだから。
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