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元治元年

新生活スタート(壱)

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 翌日、私は日の出とともに目を覚ました。

 なんだかずいぶんと早起きしちゃったらしい。昨日のあれで目が冴えちゃったのかな?

(ほむろー、起きてる?)
『起きておるぞ。おはよう、雫』
(おはよう、ほむろ)

 どうやら私に睡眠が戻ってきたのに伴い、ほむろは休息を必要としない体に戻ったようだ。

 何やら申し訳ないような気がしたが、ほむろはまったくもって気にしていないらしい。

『妾は千年の間を眠らずに生きてきたのだぞ?これぐらい慣れておる』

 ほむろはそう言っていた。いや、確かに納得できる理由ではあるけど。やっぱりなんか申し訳ない。

(どうしようね)
『松本を探すのではないのか?』
(どう探そうか、ってことよ)

 松本 良順って、確か幕府並びに新選組お抱えの蘭方医じゃなかったかな?屯所に診察に来たりするんだろうか?

(定期的に診察に来てるんなら話は早いんだけど)
『それを尋ねる手段はあるのか?』
(ないね)

 ほむろに字を書いてもらって伝達する方法は、ここではできれば使いたくない。

 だって使ったら、私とほむろの情報が外に流れてしまうかもしれない。

 私たちを追っている入山の里の追っ手に余計な情報をくれてやることになる可能性もある。

 康順先生とお涼さんの二人を相手にしていた時とは違う。今のこの屯所には20人ぐらいは人がいる。

 情報はそれこそどこから広まってしまうかわからないから、変な勘ぐりはされないに越したことはない。

 幹部たちも、私がここへ来た経緯は誰にも言わないらしいし、あとは私が男装を続けていれば世間も納得してくれるだろう。たぶん。

 え?この顔?こればっかりはどうしようもない。できるだけ部屋に引きこもってるよ。

(でも松本先生に会えても、康順先生が書いてくれた手紙はもう血で汚れて読めないからなぁ………)
『そうじゃのう………』

 昨晩、浪士に心臓を刺されたとき、胸元に入れていた康順先生の手紙も傷がついて、さらに傷口から溢れた血で手紙は真っ赤になってしまい、とてもじゃないが読めない。

『康順は松本の家にに手紙を一筆書いて届けると言っていたが………』
(それがいつ届くのか、松本先生がそれを読んだのか気づいたのか、の問題だよね)

 万事休す、ってな。

(新選組の人に、松本先生について聞ければ早いんだけど………)
『お主には伝達方法がない』
(地面に文字を書いて伝えられないかな?今の私なら目が見えてるから、遠近感はわかるよ?)
『成功するかどうかはわからぬが、それしかないじゃろうな』

 というわけで、中庭の地面に文字を書くチャレンジが発生しました。

 その前にまず着替えないと。

 目が見えるようになったので、もう妖術を使って着替えを手伝ってもらう必要はない。

 ああ……!なんて素晴らしい!半年ぶりに自力で着替えをすることができるよ!

『雫、ご機嫌じゃな』
(そりゃご機嫌だよ!!だって!ようやく!自力で!着替えることが!できるんだよ!!)
『昨晩も着替えたじゃろうが』
(昨日は眠かったし、しんみりしちゃったし、喜ぶ精神的余裕がなかったの!)

 私は慎重に着替えを進めていく。視力は戻ったけど、触覚はないから気を抜くことはできないのです!

 妖術を使えば3分で終わる着替えだが、自力でやると5分ぐらいかかった。だが私が楽しかったから別にいい!

 いやね、目が見えるって素晴らしいんですよ、ほんと。

(この刀ずっと差してるけど、私、剣術できないから意味ないんじゃないかな?)
『だがお主は男子ってことで通っておるのじゃろう?男子たるもの、腰に何もぶら下げぬわけにもいかんだろ』
(うーん………そんなもんなのかな?)

 まあ、それが幕末の常識だってんなら仕方ない。刀を腰に戻す。

 そういえばこの刀の名前知らないけど……たいした問題じゃないか。

(よし!準備万端!中庭に向けて出発だ!)
『すぐ目の前だけどな』




 ほむろちゃん、そうやって人のやる気を削がないの。
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