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文久3年

奈良の大仏無事ですかーーーーー!(弐)

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(ほむろ――。あとどのくらいで街に着きそうなの?)
『もうすぐじゃ。お主の前方には夕暮れの町並みが広がっておるぞ。妾たちは、今街道沿いの丘におるからのう』
(それって、京の都?)
『違う。あれは大坂の街じゃ』
(大阪!?)

 ※この時代の表記はまだ"大坂"。




 それは、天下の台所である大阪!?

(おいしいものがいっぱいあるのかな?)
『お主………食い意地が張ってるのう』
(ねえ、ほむろ。ちょっと大坂に滞在して、それから京の都に行ってもいい?)
『どうせ止めても滞在するのじゃろう?』
(もちろん!)
『自信満々に言うな!』

 よし!これでしばらく大坂にいられる!

 この時期って、大坂はまだ"天下の台所"って呼ばれてるはずだから、二十一世紀の大阪にはないような食べ物があるかもしれない。

(しかしどうやって金を稼ごう)
『そんなことを妾に聞くでない。妾は人間界で金を稼いだことなどないのじゃから。なんせ必要なものは里の者が貢いでくれたからのう』
(…………)

 なんか今、無性にイラついた。

『な、なんじゃお主!よ、よさぬか!殺気立つな!』
(はぁ………でもどうやってお金を稼ごう。お金がないと何もできないよ)
『雫、雫』
(?)
『街道で誰か倒れておるぞ』

 おや?行き倒れか?目が見えない私にはそこんとこの真偽は確かめられないけど。

(倒れてるのって、どんな人?)
『そうじゃのう……年若い細身の青年じゃ。頭には編笠をかぶっておって、紫系統の着物と袴を着ておる。服は良質のものじゃ。それと……薬箱をしょっておる』
(薬箱?)

 服の質がいいってことは金がある人間かな?薬箱持ちだから、つまりその行き倒れ青年は薬売りの行商人か、あるいは医者ってこと?

(行商人と医者のどっちに見える?)
『医者じゃな。あれは行商人にしては荷物が少なすぎる。今のご時世、患者を探してあちこちをぶらつく医者は多いと聞く』
(よし、じゃあ助ける)
『む?なぜじゃ?』
(恩を売って、医療界で働き口を紹介してもらう。行商人にものを売るより、医療界で働いた方が儲かりそうだもん。薬学の知識ならこの時代の誰にも負けない自信があるし)
『………お主、なかなかひどいのう』

 うん、自分でも言っておいて感じ悪いって自覚してる。

 自分に得がなければ人助けはしない。今の私はそういう人間になってしまっているようだ。

 素直に他人を心配できなくなってる自分が辛いぜ。これも一概に、"人への思いやりや優しさ"が失われているせいだろうけど。

(誰かさんの力のせいだよ)
『妾のせいだと言うのか!?あれは妾の力を吸収したお主が原因じゃ!』
(だから不可抗力だって!)

 思わず、心の中で怒鳴ってしまった。

(私は九尾の狐の力なんて欲しかったわけじゃない!)
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