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~東への旅~
伝説の始まり
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防衛依頼の翌日、ユールは二度寝をして10時に目を覚ました。今日はテオたちは起こさない。昨日、今日は好きに寝ていい、と言ったから。
顔を洗って着替えて、熟睡している二人を起こさないように部屋から出る。
宿の朝食時間はとっくにすぎているが、お腹もそんなに空いていないから別に構わない。ユールは宿の裏庭にやってきた。
この宿には小さいけど庭がある。他の人を置いて街に行くわけにもいかないからここをぶらつこうと思ったのだ。
小さいけどかなり手入れの行き届いた庭で、あちこちの花壇でかわいい花が咲いていて、蝶々も飛んでいる。公爵邸の派手な庭よりこっちのほうがよっぽどいいかもしれない。
「ユール様」
一人庭を散策していると、後ろから声をかけられた。聞き慣れた声に振り向くと、そこにはなにやらすっきりとした表情を浮かべたウルズが立っていた。
「ウルズ、起きてたの」
「さっき起きたばかりです。窓から見下ろしたらユール様が庭で歩いているのを見つけたので追いかけてきました」
「…?何か用事?」
「はい。お伝えしたいことがあります」
真剣な顔でウルズはそう告げる。
「昨日妹たちともじっくり話し合った結果、私たちはユール様と一緒にヴァルハラに行くことにしました」
「……ここにいれば魔の森で危険を冒す必要はないよ?」
「構いません。危険がほとんどないことは昨日のユール様たちの戦闘で理解しました」
「…………」
「私たちも本当はわかっていたんです。この街にとどまっていても、いつかギャロルビルグと同じ状況に陥るんだって。私たちの魔力と力は、どこへ行ってもついてくるんです。そして私たちを追い回す教会もどこにでもある。だったらその息のかかった場所にいてもいずれ見つかると思います」
ウルズの緑色の瞳がまっすぐユールを射抜く。
「だったら、その息にかかっていない、誰もが帰らずの地だと言うヴァルハラまで逃げるのが一番の解決策です。今までは魔の森で死ぬのが怖かったんです。でもユール様と一緒なら生き残れることを私たちは確信したのです」
「……」
「だから、連れて行ってください。ユール様と一緒に、ヴァルハラに行かせてください」
「楽な道じゃないと思うけど?」
「ここに残っていたって一緒です。大変なのが今だけなのか、これからずっとかの違いです」
はっきり言い切るウルズに、ユールは無意識に口角を上げた。最初にギャロルビルグで出会った時は頑なで煮え切らない態度だったが、ここへ来て垢抜けたようだ。
「いいわ。その代わり楽はできないからね?」
「っ!はい!」
ユールとテオとノルンは大通りを歩いていた。12時の鐘が鳴って1時間ほど経過している。これもテオたちの睡眠が12時まで続いたからだ。ウルズは、未だに起きていなかった妹たちに付き添って宿にいる。
「好きに寝ていいとは言ったけど、まさか正午まで寝るなんて」
「それはユール様が悪いんですからね!昨日ユール様が5時に起こすからです!」
「……ごめんって」
その点についてはユールも多少は反省のようなものを抱いているので、細かい反論はしないでおく。
「ウルズたちは結局ついてくることになったんですね」
「ええ。彼女たちなりに決めたみたいだし」
「これからも賑やかになりますね!グラムとグズルーンにも紹介してあげたいです!」
ノルンがウキウキしながら言った。そういえばあの二人元気かな?ヴァルハラに到着したら真っ先に報告しに行こうかな?
ユールたちがあれよあれよと話しながら大通りを歩いているのを、道ゆく冒険者たちは様々な感情のこもった眼差しで見送っている。
「あの子たちか?昨日のワイバーン防衛の功績者って」
「ああ。なんでも3人でワイバーンの群れを3分の1以上を倒したんだとか」
「俺は半分って聞いたぞ?」
「確かランクCだっけ?」
「え?Bじゃねえの?」
「私はDって聞いたけど?」
「え!?あの子たちがパーティ"世界樹"?もっとがっしりした巨体の三人組だって聞いてたんだけど」
「僕は妖艶の美人だって聞いたよ?でもあれ、僕よりも若いよ」
昨日のワイバーン討伐作戦のことがもう噂になっているらしい。
それらを無視してギルドに向かうユールたち。
昼も余裕ですぎているこの時間、普段で荒れば冒険者なんていなくてガラ空きなんだが、今日に限ってなぜか人が溢れかえっていた。
そして、ユールたち3人がギルドに入ってきた途端、全ての視線が一瞬でこちらに注がれ、誰もがおしゃべりをやめた。
「パーティ"世界樹"です。昨日依頼した件についてはもう終わっていますか?」
「………はっ!はいぃぃぃ!!」
カウンターまで行き、何やらほうけている受付嬢に話しかける。昨日ユールたちは、防衛依頼後に討伐したワイバーンの半分ちょっとをギルドに代理解体を依頼していた。ワイバーンは一匹の大きさが大きすぎるので、20体近いワイバーンを一気に解体することはできないから、今すぐ残り数体の解体を依頼して、夕方にこれを受け取りにくる。
「こ、こ、こちらに用意できています!!」
「ありがとうございます」
テンパっている受付嬢に倉庫へ案内され、山のようなワイバーンの肉と素材とご対面。ワイバーンなどという希少なランクAモンスターの素材やら肉やらを、売るようなことはしていない。
「では残りも解体依頼に出していいですか?」
「えっと……10頭分ってことですか?」
「はい」
「わ、わかりました。このまま承ります」
残りのワイバーンも異次元収納から取り出す。受付嬢の顔が若干引きつっている気がするが、そこは気にしないということで。
そこへ白ヒゲのおじいちゃんがヨボヨボとやってきた。
「"世界樹"のみなさん、此度の依頼に尽力してくれて感謝するのじゃ」
「……?」
「えっと、ギルドマスターです」
首を傾げるユールに、受付嬢が説明する。なるほどギルマスね。ペコッと頭を下げる。
「えっと、ギルドマスターがなんでここに?」
「儂が直接報酬を渡したかったらじゃ」
「……ありがとうございます」
ギルドマスターが直接お出ましなんて、珍しいことじゃないかな?
「それしてもランクCのう……。お主らの実力ならAかSにはなれるじゃろう」
「買いかぶりです」
「そんなこたぁたい!ワイバーンをソロで無傷で倒せるその実力はSランクに匹敵するんじゃぞ」
ソロで倒したのはユールだけだけど。テオとノルンは二人協力で倒したんだけど、情報が間違って伝わってないだろうか?
「若いっていいのう。儂も若い頃には雪山を走り回っておったわい」
「なんとも元気な青年時代ですね」
「今でも時々やっているぞ」
「………老体には堪えるのでは?」
「儂を年寄り扱いすんじゃない!!これでも現役時代はピチピチのSランクだったんじゃぞ!!」
マジか。この白ヒゲじいちゃん、Sランクだったんだ。どっからどう見てもご老人であるというツッコミ事実は心にしまっておいた。
その後、ギルマスの白ヒゲじいちゃんから虹金貨2枚と光金貨5枚の報酬を受け取り、じいちゃんに請われる雑談を繰り広げた。
じいちゃんはこの街に長くとどまっていたから他の街の様子をあまり詳しく知らないらしく、ユールのドライな語りも興味津々、面白そうに聞いていた。
しばらく雑談を続け、やがて仕事があるから、と言ってじいちゃんは帰って行った。ユールたちも夕方にワイバーンを受け取りにくる約束を受付で取り付け、一回宿に引き上げた。
ウルズと、さすがにもう起きているヴェルザンディとスクルドを連れて再び街に出たユールたちは、約束の時間が来るまでセッスニルの街の観光を思いっきり堪能した。
「あの、ギルドマスター。言わなくてよかったんですか?」
「ふーむ……言う機会を逃してしまったのう」
「雑談よりこっちを伝えるべきだったでしょうに」
「ちょいとミスってしまったのう」
「今回のあの子たちの人外的な活躍が国の方に伝わって、国王があの子たちをSランク認定したんですよ?我が国のSランクが一気に3人増えてしまったんですよ?」
「これで我が国のSランク冒険者は4人か……」
「それに、後方支援をしていた三人の少女も、ギルドに所属してはいないが名誉Aランクとして認めたではありませんか」
「ほっほ。それにハンコを押したのは儂じゃからのう」
「帝国からマークされますよ、絶対」
「まっ、あの子らならなんとかなるじゃろう!」
「ギルドマスターはいつもお気楽なことで……」
三人のSランク冒険者と三人の名誉Aランクの少女がセッスニルを出た数日後、"世界樹"は最強の代名詞として街中に広まった。
顔を洗って着替えて、熟睡している二人を起こさないように部屋から出る。
宿の朝食時間はとっくにすぎているが、お腹もそんなに空いていないから別に構わない。ユールは宿の裏庭にやってきた。
この宿には小さいけど庭がある。他の人を置いて街に行くわけにもいかないからここをぶらつこうと思ったのだ。
小さいけどかなり手入れの行き届いた庭で、あちこちの花壇でかわいい花が咲いていて、蝶々も飛んでいる。公爵邸の派手な庭よりこっちのほうがよっぽどいいかもしれない。
「ユール様」
一人庭を散策していると、後ろから声をかけられた。聞き慣れた声に振り向くと、そこにはなにやらすっきりとした表情を浮かべたウルズが立っていた。
「ウルズ、起きてたの」
「さっき起きたばかりです。窓から見下ろしたらユール様が庭で歩いているのを見つけたので追いかけてきました」
「…?何か用事?」
「はい。お伝えしたいことがあります」
真剣な顔でウルズはそう告げる。
「昨日妹たちともじっくり話し合った結果、私たちはユール様と一緒にヴァルハラに行くことにしました」
「……ここにいれば魔の森で危険を冒す必要はないよ?」
「構いません。危険がほとんどないことは昨日のユール様たちの戦闘で理解しました」
「…………」
「私たちも本当はわかっていたんです。この街にとどまっていても、いつかギャロルビルグと同じ状況に陥るんだって。私たちの魔力と力は、どこへ行ってもついてくるんです。そして私たちを追い回す教会もどこにでもある。だったらその息のかかった場所にいてもいずれ見つかると思います」
ウルズの緑色の瞳がまっすぐユールを射抜く。
「だったら、その息にかかっていない、誰もが帰らずの地だと言うヴァルハラまで逃げるのが一番の解決策です。今までは魔の森で死ぬのが怖かったんです。でもユール様と一緒なら生き残れることを私たちは確信したのです」
「……」
「だから、連れて行ってください。ユール様と一緒に、ヴァルハラに行かせてください」
「楽な道じゃないと思うけど?」
「ここに残っていたって一緒です。大変なのが今だけなのか、これからずっとかの違いです」
はっきり言い切るウルズに、ユールは無意識に口角を上げた。最初にギャロルビルグで出会った時は頑なで煮え切らない態度だったが、ここへ来て垢抜けたようだ。
「いいわ。その代わり楽はできないからね?」
「っ!はい!」
ユールとテオとノルンは大通りを歩いていた。12時の鐘が鳴って1時間ほど経過している。これもテオたちの睡眠が12時まで続いたからだ。ウルズは、未だに起きていなかった妹たちに付き添って宿にいる。
「好きに寝ていいとは言ったけど、まさか正午まで寝るなんて」
「それはユール様が悪いんですからね!昨日ユール様が5時に起こすからです!」
「……ごめんって」
その点についてはユールも多少は反省のようなものを抱いているので、細かい反論はしないでおく。
「ウルズたちは結局ついてくることになったんですね」
「ええ。彼女たちなりに決めたみたいだし」
「これからも賑やかになりますね!グラムとグズルーンにも紹介してあげたいです!」
ノルンがウキウキしながら言った。そういえばあの二人元気かな?ヴァルハラに到着したら真っ先に報告しに行こうかな?
ユールたちがあれよあれよと話しながら大通りを歩いているのを、道ゆく冒険者たちは様々な感情のこもった眼差しで見送っている。
「あの子たちか?昨日のワイバーン防衛の功績者って」
「ああ。なんでも3人でワイバーンの群れを3分の1以上を倒したんだとか」
「俺は半分って聞いたぞ?」
「確かランクCだっけ?」
「え?Bじゃねえの?」
「私はDって聞いたけど?」
「え!?あの子たちがパーティ"世界樹"?もっとがっしりした巨体の三人組だって聞いてたんだけど」
「僕は妖艶の美人だって聞いたよ?でもあれ、僕よりも若いよ」
昨日のワイバーン討伐作戦のことがもう噂になっているらしい。
それらを無視してギルドに向かうユールたち。
昼も余裕ですぎているこの時間、普段で荒れば冒険者なんていなくてガラ空きなんだが、今日に限ってなぜか人が溢れかえっていた。
そして、ユールたち3人がギルドに入ってきた途端、全ての視線が一瞬でこちらに注がれ、誰もがおしゃべりをやめた。
「パーティ"世界樹"です。昨日依頼した件についてはもう終わっていますか?」
「………はっ!はいぃぃぃ!!」
カウンターまで行き、何やらほうけている受付嬢に話しかける。昨日ユールたちは、防衛依頼後に討伐したワイバーンの半分ちょっとをギルドに代理解体を依頼していた。ワイバーンは一匹の大きさが大きすぎるので、20体近いワイバーンを一気に解体することはできないから、今すぐ残り数体の解体を依頼して、夕方にこれを受け取りにくる。
「こ、こ、こちらに用意できています!!」
「ありがとうございます」
テンパっている受付嬢に倉庫へ案内され、山のようなワイバーンの肉と素材とご対面。ワイバーンなどという希少なランクAモンスターの素材やら肉やらを、売るようなことはしていない。
「では残りも解体依頼に出していいですか?」
「えっと……10頭分ってことですか?」
「はい」
「わ、わかりました。このまま承ります」
残りのワイバーンも異次元収納から取り出す。受付嬢の顔が若干引きつっている気がするが、そこは気にしないということで。
そこへ白ヒゲのおじいちゃんがヨボヨボとやってきた。
「"世界樹"のみなさん、此度の依頼に尽力してくれて感謝するのじゃ」
「……?」
「えっと、ギルドマスターです」
首を傾げるユールに、受付嬢が説明する。なるほどギルマスね。ペコッと頭を下げる。
「えっと、ギルドマスターがなんでここに?」
「儂が直接報酬を渡したかったらじゃ」
「……ありがとうございます」
ギルドマスターが直接お出ましなんて、珍しいことじゃないかな?
「それしてもランクCのう……。お主らの実力ならAかSにはなれるじゃろう」
「買いかぶりです」
「そんなこたぁたい!ワイバーンをソロで無傷で倒せるその実力はSランクに匹敵するんじゃぞ」
ソロで倒したのはユールだけだけど。テオとノルンは二人協力で倒したんだけど、情報が間違って伝わってないだろうか?
「若いっていいのう。儂も若い頃には雪山を走り回っておったわい」
「なんとも元気な青年時代ですね」
「今でも時々やっているぞ」
「………老体には堪えるのでは?」
「儂を年寄り扱いすんじゃない!!これでも現役時代はピチピチのSランクだったんじゃぞ!!」
マジか。この白ヒゲじいちゃん、Sランクだったんだ。どっからどう見てもご老人であるというツッコミ事実は心にしまっておいた。
その後、ギルマスの白ヒゲじいちゃんから虹金貨2枚と光金貨5枚の報酬を受け取り、じいちゃんに請われる雑談を繰り広げた。
じいちゃんはこの街に長くとどまっていたから他の街の様子をあまり詳しく知らないらしく、ユールのドライな語りも興味津々、面白そうに聞いていた。
しばらく雑談を続け、やがて仕事があるから、と言ってじいちゃんは帰って行った。ユールたちも夕方にワイバーンを受け取りにくる約束を受付で取り付け、一回宿に引き上げた。
ウルズと、さすがにもう起きているヴェルザンディとスクルドを連れて再び街に出たユールたちは、約束の時間が来るまでセッスニルの街の観光を思いっきり堪能した。
「あの、ギルドマスター。言わなくてよかったんですか?」
「ふーむ……言う機会を逃してしまったのう」
「雑談よりこっちを伝えるべきだったでしょうに」
「ちょいとミスってしまったのう」
「今回のあの子たちの人外的な活躍が国の方に伝わって、国王があの子たちをSランク認定したんですよ?我が国のSランクが一気に3人増えてしまったんですよ?」
「これで我が国のSランク冒険者は4人か……」
「それに、後方支援をしていた三人の少女も、ギルドに所属してはいないが名誉Aランクとして認めたではありませんか」
「ほっほ。それにハンコを押したのは儂じゃからのう」
「帝国からマークされますよ、絶対」
「まっ、あの子らならなんとかなるじゃろう!」
「ギルドマスターはいつもお気楽なことで……」
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