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~出会い~
クリステル渓谷
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さらに3ヶ月が経過、その日もユールとノルンの姿はギルドにあった。ちなみに本日の朝食には鳥粥を食べた。調理道具で自炊を始めているので、この頃公爵家が出してくる粗末すぎる食事がお口直しになりつつある二人です。
そんな二人は、今揃って手に持っている依頼書を見ていた。
「ユール様としてはラッキーではありません?」
「そうね」
1ヶ月前にDランクアップ試験に合格し、今ではDランク用の依頼が張り出されているボードを見ているユールは、今日ボードに面白い依頼が張り出されているのを見た。
依頼ランクはCであるが、内容はヒットグラスという薬草を20束、レプロの花を35輪、マナキノコを10個納品する、いわゆる収集依頼だった。報酬も白金貨2枚というお得過ぎる一件。
しかしなぜか誰もその依頼を受けようとしなかった。その依頼書を見た人は最初期待して依頼書を読むが、決まって収集対象を見て諦めて行くのだ。
理由は至って簡単。収集対象は、クリステル渓谷にしか自生していないからだ。クリステル渓谷はこのギンヌンガガプのすぐ近くにあるが、聖獣の住む森であるがゆえに人を寄せ付けない。今まで何人もの冒険者がクリステル渓谷に立ち入ろうとしたが、魔力という名の強力な圧力に押し戻され、誰もクリステル渓谷には入れないのだ。
聖獣は人を嫌っているゆえ、人が絶対に近づけない濃い魔力が集まる森に住み着く。ヒッポグリフの住む古の森も同じ原理が作動しているが、ユールがなぜ立ち入れたのかというと、それはユールが濃縮された森の魔力と拮抗するほど規格外の魔力を持っていたからだ。同等の量の魔力があれば、魔力による圧力を押し返せるが、それほど膨大な魔力を持つ人間は今まで一人もいなかった。ユールより前のニーベルングの指輪の持ち主たちもそうだった。
「この服着てきてよかった」
「なぜ、ですか?」
今日のユールは、ポッポたちが飾り付けてくれたドレスを着ている。可愛らしく色とりどりの小さな花に飾られた薄い黄緑色のドレス。ユールが魔力の糸で縫って、ポッポたちがデコレーションしてくれたものだ。
「なんでもないわ。これ、受けにいくよ」
「やっぱり受けるんですか…」
ため息をついているノルンは無視して、ユールは依頼書を持ってカウンターに行く。
「これをお願いします」
「はい、こちら……ですか?」
途中で口調を変えた受付のお姉さんに首を傾げる。
「やめておいたほうがいいと思いますが……」
やっぱり言われた。
「クリステル渓谷は人が立ち入れない場所です。あそこに挑もうとした冒険者がどれだ……」
「大丈夫です」
お姉さんの話を遮り、断言する。
「え……ですが……」
「大丈夫です」
「…………」
ユールが引かないのを見て、お姉さんは諦めたらしく、どうなっても知りませんからね、と受注を処理してくれた。
「依頼に失敗した場合、ハンデとして大金貨5枚を払ってもらうことになりますからね」
「はい」
そんなこと知ってるので、話だけ聞いてさっさとカウンターから離れる。入り口前で待機していたノルンと合流し、一緒に街の外に向かう。
いよいよスフィンクスにお目にかかれそうです。
「ねえ、ユール様……」
「ん?」
「私たち、依頼をこなしにきたんですよね?」
「そうだよ」
「なのになんでこんなところにいるんでしょう?」
ノルンが青い顔をしながら、ユールに視線を注いでいた。
「なんでって、クリステル渓谷に行くためよ」
「それはわかってますが、なぜここなのです?」
ユールとノルンの前には、深い深い谷底に続く、長い長い大地の亀裂が走っていた。言うまでもなく、この下がクリステル渓谷である。
「だって、こっちの方が手っ取り早いから」
「クリステル渓谷に行くのなら正面の正規ルートを通ればいいじゃないですか」
「面倒。遠い」
確かにクリステル渓谷には入り口が存在するが、そこからギンヌンガガプまでは結構距離があったし、そんな面倒なことはしたくないユールであった。
「で、でも……ここでどうするんです?」
「どうって」
ノルンを振り返り、事もなさげにユールは告げる。
「飛び降りる」
ノルンの口から魂魄が飛び出たように見えた。
「正気ですか……あ、いや、本気ですよね……ユール様は冗談とか言いませんよね……ハハハハ……」
なんだかノルンの目がどんどん遠くなっている。
ずっとここにいるはじれったいので、ユールは問答無用でノルンの手を掴み、数m先にある亀裂に向かって走る。
「え!え!え!!え、ちょっ、ユ、ユール様!?え?まさ、まさかぁぁぁぁぁあ!!!!」
盛大にテンパっているノルンは無視して、ユールはためらいもなく深い深い谷底へダイブする。なんの魔法もまだ使っていない。自由落下である。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!!」
大絶叫しているノルンのことは無視する。この近くに狩場はないし、声が響くのもこの渓谷だけ。渓谷にはスフィンクスや動物たちしかいないから聞かれても困らない。むしろ音に誘われて早く出てきてくれるかもしれない。
案の定、谷底まで高度があと半分のところで、眼下の森から淡い黄色の何かがこっちに迫ってきた。遠視の魔法で、ユールはそれがスフィンクスであることを確認する。
「ユール様ユール様ユール様スフィンクススフィンクススフィンクス!!」
落下の衝撃から未だ立ち直れていないノルンだったが、人嫌いで有名なスフィンクスがこっちに迫っているのに気づくと今度は緊張で声を裏返らせた。完全に気が動転している。
ノルンを落とさないように手を握り直し、飛行魔法を発動させて空中で停止する。向こうが一瞬ひるんだ気がする。
『止まれ、侵入者。我の森に何の用だ』
「あなたに会いにきました」
堂々とユールは告げる。
『我に会いにきただと?』
「はい。ポッポ……ヒッポグリフの紹介で来ました」
そう言って左腕にはめた腕輪を掲げてみせる。
『それは……ヒッポグリフの腕輪!』
腕輪のことは流石に知っているっぽい。
『というと、お主がヒッポグリフの言っていた人間の友か?』
そしてユールのこともなんか聞いてるっぽい。
「ポッポから聞いたの?」
『ポッポ……?』
「あ……私がヒッポグリフにつけたあだ名です」
『聖獣に名をつけるなど……』
「ポッポは大丈夫と言ってたけど……?」
『当然だろう。でないとお主がそれを呼んでいるはずがない』
なんか、思ってた展開と比べてだいぶソフトだ。もう少し緊迫した展開になると思っていたのに。
「警戒しないの?」
『警戒していたさ。だがそれもバカバカしくなった』
「?」
『人間の絶叫を聞いて、森から飛び出してみれば上から人間が降ってくるのだぞ?我の森を荒らそうとする不届き者か、と警戒したに決まっている』
「じゃあどうして?」
『我の森の魔力をも弾くほどの圧倒的に膨大な魔力、聖獣ヒッポグリフの腕輪。どれをとってもお主は我に仇成す存在ではないことを示しておる』
「嘘をついているとは思わないの?」
『聖獣を甘く見るなよ、娘。我らが同胞の忠誠の証を見間違えるようなへまをするはずがないであろう』
なんだかあっさり信じてもらえちゃった。まあ、納得してくれるまで修羅場を繰り広げるのよりは圧倒的にマシだけど。
『して、娘よ』
「はい?」
『なぜ上空からダイブしてきたのだ?』
やはりスフィンクスとしては疑問に思った。このクリステル渓谷にはちゃんとした正面入り口がある。今までここに立ち入ろうとした人間も、全員が正面から挑んできた。それなのにこの少女は、まさかの上空から飛び降りてきた。いくら著しく人間嫌いなスフィンクスでも、これには度肝を抜かされた。
「なぜって……手っ取り早いから」
『手っ取り早い?谷底へダイブすることがか?』
「だって正面入り口に回るのは遠いし、何より面倒臭いから」
その返答を聞いて、スフィンクスは少女に興味を持った。
莫大な魔力、圧倒的な魔法の才能、ヒッポグリフのこと。聞いてみたいことは山ほどある。彼女は自分が知っている人間とは大きく異なっているから。
それに、彼女は普通の人と違う考え方を持つようだ。かつてヒッポグリフに彼の友人のことを聞かされた時、その友人は人の世に情を持たず、客観的に世界を語ると言われた。出会ってまだ間もないこの少女は、確かに人の世に生きる人ならざる者のような雰囲気を持っている。この少女となら、確かに接していて不快感はない。
『お主のような人間であれば、あやつのようにうまく付き合えるのだろうな』
そう言ってスフィンクスは背中を空ける。この金髪の……いや、姿を偽っているな。実年齢はかなり幼い。こうもあっさり偽装魔法を使いこなすとは。スフィンクスの少女への興味はますます高まって行くのだった。
乗ってくれと意思表示してくれたスフィンクスに素直に感謝し、魔法でスフィンクスの背に移動する。ノルンはきちんと横にして安静させておく。
『そちらのおなごは大丈夫なのか?』
「大丈夫……のはず」
スフィンクスがノルンの死にそうな雰囲気を感じて声をかけてきたが、今はそっとしておくしかないので諦めていただく。
スフィンクスは何か言いたげだったが、あとで聞こうと振り切り、谷底に向かって下降していく。やがて肉眼でも地上が見える高さまできて、自分がいつもくつろいでいる広場を見つけてそこに着地する。
ノルンを地上におろし、ユールも地面に足をつける。
『娘、名はなんだ?』
「ユグドラシル。ユールって呼んでもらえれば」
『なるほど、ユールか。良い名だな。して、ユールよ』
「ん?」
『本当の姿を見せてはくれないか?』
「あ、やっぱりバレるよね」
スフィンクス相手にごまかしきれるとは毛頭思っていなかったので、ユールはあっさりとパレードを解除する。魔法を解除すると、ユールは銀髪オッドアイの姿に戻った。
『オッドアイか、珍しい。見るのは初めてだが、なんとも神秘的だな』
「気味悪くないの?」
『我を人間と同じにするな。瞳に魂が宿るなど、人間の信じるものには疑問しか感じぬ。努力もせずに神にすがろうとするだけの愚か者の集まりだ』
少しだけ話をして、スフィンクスはものすごく人間が嫌いだということがよくわかった。噂通り人嫌いナンバーワンのようだ。
『魂とは心に宿るものだろう。なぜオッドアイを邪見する。それを唱える教会こそ怪しいであろう』
「奇遇。私もそう思う」
そんな風に人間界の腐敗を言い合う会話が長々と続く。人嫌いのスフィンクスはともかく、ユールもまた育った環境ゆえにかなりドライな性格なので、人の世の弁論などどうでもいい。間違っていることは間違っているのだから。
『お主は人の世を批判されているのに、反論せぬのだな』
「間違ってるから当然でしょ。人の世の理とか関係ない。正しい批判なんだから私もそれに一票入れるわ」
『ククク……やはりお主は面白い人間のようだ』
それからしばらくの間、人間界の批判話が飛び交った。お互い今の人の世を腐っていると思っているので、話題は次々と降って出る。ポッポは人間嫌いというより人間に無関心だったが、スフィンクスの場合はがっつり人嫌いなので、話が合う同志に巡り合った気分だ。
『して、他にも何か目的があるのではないか?』
「うん。ヒットグラス20、レプロの花35、マナキノコ10の採集依頼でね」
『なるほど……霊薬の材料か』
「霊薬?」
スフィンクスの話から推測すると、この3種類の薬草は霊薬と呼ばれる薬の材料らしい。霊薬とは一種の回復薬で、飲むと完全回復プラス身体強化が付与されるとか。
『最上級の錬金素材や薬草は、ここにしかないものが多い。誰も立ち入れないから諦めたと思っていたが、まだそれらを狙う輩はいるのか』
「………受けたのはまずかったかな?」
『いや、今回の一回だけならば問題はないだろう。その代わり周りに気をつけなければならなくなるだろうな』
当たり前だろう。この依頼の成功は、前人未到のクリステル渓谷に踏み込むことに成功したことを意味する。それが大々的に広まってしまえば、ユールはその当事者としていろんな人に追いかけ回されることになるだろう。その中には貴族も含まれるだろうし、もしかしたらリーヴ公爵もいるかもしれない。
「じゃあ依頼成功後にこのことを忘れさせるよ」
『忘却魔法も使えるのか……魔法の常識知らずだな』
スフィンクスは呆れたように嘆息するが、やがてこっちを振り向く。ちなみにノルンは未だ返事のない、ただの屍のようになっている。
『薬草を採取するのならこやつを道案内につけよう』
『みみっ!』
かわいい鳴き声と共にスフィンクスの影から現れたのは、白と水色を混ぜたような、いかにも雪を連想させる色をした小さな手のひらサイズのうさぎだった。
「あ、この子、雪うさぎ?」
『そうだ。Sランクモンスターの雪うさぎだ』
この雪うさぎは、雪属性の魔法を使うから分類上魔物に振り分けられているが、見てもわかる通りまったく魔物っていう見た目をしていない。真っ白で丸っこくって、目は紅色。完全に小動物だ。
『主の求める素材が、一番よく取れる場所を案内するよう言いつけてある』
「私も霊薬が気になるから、この依頼書の量より多めにもらってもいいかな?」
『構わない。余分の薬草は人の世に売らないと約束してもらえれば』
「売らない。私が使う」
『なら許可する。ただし摘みすぎないでくれたまえ』
「わかった、トト」
ポロリと口から出てしまう。しまった、と思ったが、すでにスフィンクスは聞いてしまっていた。
『トト?それは我のことか?』
「うん。古代言語で"賢い"っていう意味なんだけど……」
ダメ?と首を傾げると、なんとスフィンクスが私の肩に鼻を載せた。
『悪くない。ユールにならそう呼ばれてもいいな』
「いいの?」
『ああ。ユールはこれから我のことをトトと呼ぶがいい。ただ他の者はダメだからな』
「ん」
それから一言二言会話を交わし、ユールは雪うさぎのあとをついていく。スフィンクスもといトトは、すでに丸まって昼寝に突入している。
『みみっ!み~』
「あ、もしかしてあれがヒットグラス?」
『みっ!』
しばらく歩くと、一本の茎にギザギザと丸い葉っぱが交互に生えているような草がたくさんある場所に出た。依頼を受けた時、図鑑を見せてもらったのでこれがヒットグラスだとわかった。依頼用の20本と、自分用に10本摘んでいく。
雪うさぎの案内でそこからしばらく歩いたところへ向かうと、今度は一面お花畑だ。あたり一面同じ花が咲いているので、ここはレプロの花が集団で生えているのだろう。七枚の花びらは全部違う色で、中心にはクリスタルのような宝石がついている花だ。確かサラダにして食べると美味しいと図鑑に書いてあったので、依頼用自分用含めて65輪摘んでいく。
雪うさぎの案内でやってきた最後の場所は、崖の麓だった。岩壁にはキラキラと光り輝いているキノコがまだらに生えている。こちらはトータルで15個もらっていく。
簡単すぎるほどすんなり素材を手に入れてユールがトトのところに戻ると、そこには片目だけ開いているトトと覚醒したノルン。しかしノルンはなぜかガチゴチで正座している。パレードも解除しているようだ。
「ただいま、トト」
『戻ったか。薬草は手に入ったか?』
「うん。あとは調合方がわかれば霊薬が作れる」
『ならマックールに作り方を伝授するよう伝えておこう』
このマックールというのは、非常に賢い猿の魔物だ。調合や錬金を得意とし、おとなしい上に人懐っこいので魔物とは思えないが、怒らせると怖いAランクモンスターである。
「いいの?」
『ああ。そもそも霊薬の作り方を知っているのは古参の錬金術師か精霊族、もしくはマックールぐらいだぞ?』
「そういえばそうね」
あとは古い時代の錬金書にしか作り方は載ってないだろう。
「ところで何をしたの?」
『何、とは?』
「ノルンの怯え方が尋常じゃないんだけど」
『我と一緒に置き去りにされて恐怖しているらしい。この娘はお主と違って人の世に生きる人間だからな』
人間嫌いであるが、ノルンのことは嫌ってないようだ。
「ゆ、ゆーるさまぁ………」
「うん、とりあえずごめん」
ギギギと軋みそうな感じでノルンの首がこっちを向く。ノーマルであるノルンにとって、目の前で聖獣と一緒にいることはやっぱり恐怖らしい。
雪うさぎと一緒のなだめているうちに調子を取り戻したノルンが、今度はめちゃくちゃな理論を掲げて説教して、トトが大爆笑してその笑い声にまた固まったり、そんなことがあったのはもう少し先のこと。
「もう日暮れね」
森でトトや動物たちと昼食をとったり、一緒に遊んだりしていれば、太陽はすでに西に傾きつつあった。
『戻るのか?』
「ええ。やることもあるから」
「楽しかったです。スフィンクス様も思ったより温和な方だったし」
『怯えまくっていたが?』
「う………つ、次は怯えませんから!」
トトとノルンがじゃれあってる。案外この二人は息が合うのかもしれない。
『そうだ、これも持っていくといい』
トトがそう言った瞬間、何もない広場に山のような物資が現れた。そのうち3分の1ほどが食材である。
「これは?」
予想はついているが、それでも聞いてみる。
『人間どもが置いていく、迷惑な貢物だ』
やっぱり。
『食べ物に関しては捨てるのも勿体無いから可能な限り食しているが、こういった類のものはどうしても使い道がない』
「わかるよ。ポッポのところにもなぜか食器の類が貢がれてたし」
『それは意味がわからないな』
曰く、友人の好で引き取ってはくれないか、と。どうせいくらもらっても困らないのだからもらう。トトに友達として認めてももらえたし!
『……なんだ。ユールもそんな笑みを浮かべるのだな』
「?」
『いや、気にするな』
渡された貢物を異次元収納に収納する。食材の中には最近貢がれた新鮮なものや、昔のものだが変わらずみずみずしいものがあり、聞くとそれは時たま渓谷を訪れてくれるポッポが、魔法をかけたものだとか。
『それと、これはユールがよければだが……』
トトが気まずそうに切り出すと、トトの前足の影から、道案内をしてくれた雪うさぎが顔をのぞかせた。
『こやつを連れて行ってはもらえないか?』
とてとてと寄ってきて、ユールの足に体を擦り付ける雪うさぎ。ひんやりしていてものすごくかわいい。
「いいの?この子連れてって」
『ああ。本人もそれを望んでおるのでな』
『みみみみっ!』
そっと雪うさぎを抱き上げると、嬉しそうにドヤ顔をしてくる。ものすごくかわいいです、この子!
「ありがと!これからよろしくね、雪うさぎちゃん!」
『みっ、み~』
どうしよう…すっごくかわいい!
散々雪うさぎと戯れてから、次くる約束を取り付けてトトの魔法で地上へ返してもらう。トトの力は、対象を自由な場所に転移させるものだ。大変便利ですが使い方によっては最凶の魔法になりそうですね。
地上に戻った二人が、ギルドで成功報告をして受付のお姉さんに驚愕され、報酬を受け取った瞬間ギルドにいる全員に忘却魔法をかけるのはもう少し先のことです。
そんな二人は、今揃って手に持っている依頼書を見ていた。
「ユール様としてはラッキーではありません?」
「そうね」
1ヶ月前にDランクアップ試験に合格し、今ではDランク用の依頼が張り出されているボードを見ているユールは、今日ボードに面白い依頼が張り出されているのを見た。
依頼ランクはCであるが、内容はヒットグラスという薬草を20束、レプロの花を35輪、マナキノコを10個納品する、いわゆる収集依頼だった。報酬も白金貨2枚というお得過ぎる一件。
しかしなぜか誰もその依頼を受けようとしなかった。その依頼書を見た人は最初期待して依頼書を読むが、決まって収集対象を見て諦めて行くのだ。
理由は至って簡単。収集対象は、クリステル渓谷にしか自生していないからだ。クリステル渓谷はこのギンヌンガガプのすぐ近くにあるが、聖獣の住む森であるがゆえに人を寄せ付けない。今まで何人もの冒険者がクリステル渓谷に立ち入ろうとしたが、魔力という名の強力な圧力に押し戻され、誰もクリステル渓谷には入れないのだ。
聖獣は人を嫌っているゆえ、人が絶対に近づけない濃い魔力が集まる森に住み着く。ヒッポグリフの住む古の森も同じ原理が作動しているが、ユールがなぜ立ち入れたのかというと、それはユールが濃縮された森の魔力と拮抗するほど規格外の魔力を持っていたからだ。同等の量の魔力があれば、魔力による圧力を押し返せるが、それほど膨大な魔力を持つ人間は今まで一人もいなかった。ユールより前のニーベルングの指輪の持ち主たちもそうだった。
「この服着てきてよかった」
「なぜ、ですか?」
今日のユールは、ポッポたちが飾り付けてくれたドレスを着ている。可愛らしく色とりどりの小さな花に飾られた薄い黄緑色のドレス。ユールが魔力の糸で縫って、ポッポたちがデコレーションしてくれたものだ。
「なんでもないわ。これ、受けにいくよ」
「やっぱり受けるんですか…」
ため息をついているノルンは無視して、ユールは依頼書を持ってカウンターに行く。
「これをお願いします」
「はい、こちら……ですか?」
途中で口調を変えた受付のお姉さんに首を傾げる。
「やめておいたほうがいいと思いますが……」
やっぱり言われた。
「クリステル渓谷は人が立ち入れない場所です。あそこに挑もうとした冒険者がどれだ……」
「大丈夫です」
お姉さんの話を遮り、断言する。
「え……ですが……」
「大丈夫です」
「…………」
ユールが引かないのを見て、お姉さんは諦めたらしく、どうなっても知りませんからね、と受注を処理してくれた。
「依頼に失敗した場合、ハンデとして大金貨5枚を払ってもらうことになりますからね」
「はい」
そんなこと知ってるので、話だけ聞いてさっさとカウンターから離れる。入り口前で待機していたノルンと合流し、一緒に街の外に向かう。
いよいよスフィンクスにお目にかかれそうです。
「ねえ、ユール様……」
「ん?」
「私たち、依頼をこなしにきたんですよね?」
「そうだよ」
「なのになんでこんなところにいるんでしょう?」
ノルンが青い顔をしながら、ユールに視線を注いでいた。
「なんでって、クリステル渓谷に行くためよ」
「それはわかってますが、なぜここなのです?」
ユールとノルンの前には、深い深い谷底に続く、長い長い大地の亀裂が走っていた。言うまでもなく、この下がクリステル渓谷である。
「だって、こっちの方が手っ取り早いから」
「クリステル渓谷に行くのなら正面の正規ルートを通ればいいじゃないですか」
「面倒。遠い」
確かにクリステル渓谷には入り口が存在するが、そこからギンヌンガガプまでは結構距離があったし、そんな面倒なことはしたくないユールであった。
「で、でも……ここでどうするんです?」
「どうって」
ノルンを振り返り、事もなさげにユールは告げる。
「飛び降りる」
ノルンの口から魂魄が飛び出たように見えた。
「正気ですか……あ、いや、本気ですよね……ユール様は冗談とか言いませんよね……ハハハハ……」
なんだかノルンの目がどんどん遠くなっている。
ずっとここにいるはじれったいので、ユールは問答無用でノルンの手を掴み、数m先にある亀裂に向かって走る。
「え!え!え!!え、ちょっ、ユ、ユール様!?え?まさ、まさかぁぁぁぁぁあ!!!!」
盛大にテンパっているノルンは無視して、ユールはためらいもなく深い深い谷底へダイブする。なんの魔法もまだ使っていない。自由落下である。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!!」
大絶叫しているノルンのことは無視する。この近くに狩場はないし、声が響くのもこの渓谷だけ。渓谷にはスフィンクスや動物たちしかいないから聞かれても困らない。むしろ音に誘われて早く出てきてくれるかもしれない。
案の定、谷底まで高度があと半分のところで、眼下の森から淡い黄色の何かがこっちに迫ってきた。遠視の魔法で、ユールはそれがスフィンクスであることを確認する。
「ユール様ユール様ユール様スフィンクススフィンクススフィンクス!!」
落下の衝撃から未だ立ち直れていないノルンだったが、人嫌いで有名なスフィンクスがこっちに迫っているのに気づくと今度は緊張で声を裏返らせた。完全に気が動転している。
ノルンを落とさないように手を握り直し、飛行魔法を発動させて空中で停止する。向こうが一瞬ひるんだ気がする。
『止まれ、侵入者。我の森に何の用だ』
「あなたに会いにきました」
堂々とユールは告げる。
『我に会いにきただと?』
「はい。ポッポ……ヒッポグリフの紹介で来ました」
そう言って左腕にはめた腕輪を掲げてみせる。
『それは……ヒッポグリフの腕輪!』
腕輪のことは流石に知っているっぽい。
『というと、お主がヒッポグリフの言っていた人間の友か?』
そしてユールのこともなんか聞いてるっぽい。
「ポッポから聞いたの?」
『ポッポ……?』
「あ……私がヒッポグリフにつけたあだ名です」
『聖獣に名をつけるなど……』
「ポッポは大丈夫と言ってたけど……?」
『当然だろう。でないとお主がそれを呼んでいるはずがない』
なんか、思ってた展開と比べてだいぶソフトだ。もう少し緊迫した展開になると思っていたのに。
「警戒しないの?」
『警戒していたさ。だがそれもバカバカしくなった』
「?」
『人間の絶叫を聞いて、森から飛び出してみれば上から人間が降ってくるのだぞ?我の森を荒らそうとする不届き者か、と警戒したに決まっている』
「じゃあどうして?」
『我の森の魔力をも弾くほどの圧倒的に膨大な魔力、聖獣ヒッポグリフの腕輪。どれをとってもお主は我に仇成す存在ではないことを示しておる』
「嘘をついているとは思わないの?」
『聖獣を甘く見るなよ、娘。我らが同胞の忠誠の証を見間違えるようなへまをするはずがないであろう』
なんだかあっさり信じてもらえちゃった。まあ、納得してくれるまで修羅場を繰り広げるのよりは圧倒的にマシだけど。
『して、娘よ』
「はい?」
『なぜ上空からダイブしてきたのだ?』
やはりスフィンクスとしては疑問に思った。このクリステル渓谷にはちゃんとした正面入り口がある。今までここに立ち入ろうとした人間も、全員が正面から挑んできた。それなのにこの少女は、まさかの上空から飛び降りてきた。いくら著しく人間嫌いなスフィンクスでも、これには度肝を抜かされた。
「なぜって……手っ取り早いから」
『手っ取り早い?谷底へダイブすることがか?』
「だって正面入り口に回るのは遠いし、何より面倒臭いから」
その返答を聞いて、スフィンクスは少女に興味を持った。
莫大な魔力、圧倒的な魔法の才能、ヒッポグリフのこと。聞いてみたいことは山ほどある。彼女は自分が知っている人間とは大きく異なっているから。
それに、彼女は普通の人と違う考え方を持つようだ。かつてヒッポグリフに彼の友人のことを聞かされた時、その友人は人の世に情を持たず、客観的に世界を語ると言われた。出会ってまだ間もないこの少女は、確かに人の世に生きる人ならざる者のような雰囲気を持っている。この少女となら、確かに接していて不快感はない。
『お主のような人間であれば、あやつのようにうまく付き合えるのだろうな』
そう言ってスフィンクスは背中を空ける。この金髪の……いや、姿を偽っているな。実年齢はかなり幼い。こうもあっさり偽装魔法を使いこなすとは。スフィンクスの少女への興味はますます高まって行くのだった。
乗ってくれと意思表示してくれたスフィンクスに素直に感謝し、魔法でスフィンクスの背に移動する。ノルンはきちんと横にして安静させておく。
『そちらのおなごは大丈夫なのか?』
「大丈夫……のはず」
スフィンクスがノルンの死にそうな雰囲気を感じて声をかけてきたが、今はそっとしておくしかないので諦めていただく。
スフィンクスは何か言いたげだったが、あとで聞こうと振り切り、谷底に向かって下降していく。やがて肉眼でも地上が見える高さまできて、自分がいつもくつろいでいる広場を見つけてそこに着地する。
ノルンを地上におろし、ユールも地面に足をつける。
『娘、名はなんだ?』
「ユグドラシル。ユールって呼んでもらえれば」
『なるほど、ユールか。良い名だな。して、ユールよ』
「ん?」
『本当の姿を見せてはくれないか?』
「あ、やっぱりバレるよね」
スフィンクス相手にごまかしきれるとは毛頭思っていなかったので、ユールはあっさりとパレードを解除する。魔法を解除すると、ユールは銀髪オッドアイの姿に戻った。
『オッドアイか、珍しい。見るのは初めてだが、なんとも神秘的だな』
「気味悪くないの?」
『我を人間と同じにするな。瞳に魂が宿るなど、人間の信じるものには疑問しか感じぬ。努力もせずに神にすがろうとするだけの愚か者の集まりだ』
少しだけ話をして、スフィンクスはものすごく人間が嫌いだということがよくわかった。噂通り人嫌いナンバーワンのようだ。
『魂とは心に宿るものだろう。なぜオッドアイを邪見する。それを唱える教会こそ怪しいであろう』
「奇遇。私もそう思う」
そんな風に人間界の腐敗を言い合う会話が長々と続く。人嫌いのスフィンクスはともかく、ユールもまた育った環境ゆえにかなりドライな性格なので、人の世の弁論などどうでもいい。間違っていることは間違っているのだから。
『お主は人の世を批判されているのに、反論せぬのだな』
「間違ってるから当然でしょ。人の世の理とか関係ない。正しい批判なんだから私もそれに一票入れるわ」
『ククク……やはりお主は面白い人間のようだ』
それからしばらくの間、人間界の批判話が飛び交った。お互い今の人の世を腐っていると思っているので、話題は次々と降って出る。ポッポは人間嫌いというより人間に無関心だったが、スフィンクスの場合はがっつり人嫌いなので、話が合う同志に巡り合った気分だ。
『して、他にも何か目的があるのではないか?』
「うん。ヒットグラス20、レプロの花35、マナキノコ10の採集依頼でね」
『なるほど……霊薬の材料か』
「霊薬?」
スフィンクスの話から推測すると、この3種類の薬草は霊薬と呼ばれる薬の材料らしい。霊薬とは一種の回復薬で、飲むと完全回復プラス身体強化が付与されるとか。
『最上級の錬金素材や薬草は、ここにしかないものが多い。誰も立ち入れないから諦めたと思っていたが、まだそれらを狙う輩はいるのか』
「………受けたのはまずかったかな?」
『いや、今回の一回だけならば問題はないだろう。その代わり周りに気をつけなければならなくなるだろうな』
当たり前だろう。この依頼の成功は、前人未到のクリステル渓谷に踏み込むことに成功したことを意味する。それが大々的に広まってしまえば、ユールはその当事者としていろんな人に追いかけ回されることになるだろう。その中には貴族も含まれるだろうし、もしかしたらリーヴ公爵もいるかもしれない。
「じゃあ依頼成功後にこのことを忘れさせるよ」
『忘却魔法も使えるのか……魔法の常識知らずだな』
スフィンクスは呆れたように嘆息するが、やがてこっちを振り向く。ちなみにノルンは未だ返事のない、ただの屍のようになっている。
『薬草を採取するのならこやつを道案内につけよう』
『みみっ!』
かわいい鳴き声と共にスフィンクスの影から現れたのは、白と水色を混ぜたような、いかにも雪を連想させる色をした小さな手のひらサイズのうさぎだった。
「あ、この子、雪うさぎ?」
『そうだ。Sランクモンスターの雪うさぎだ』
この雪うさぎは、雪属性の魔法を使うから分類上魔物に振り分けられているが、見てもわかる通りまったく魔物っていう見た目をしていない。真っ白で丸っこくって、目は紅色。完全に小動物だ。
『主の求める素材が、一番よく取れる場所を案内するよう言いつけてある』
「私も霊薬が気になるから、この依頼書の量より多めにもらってもいいかな?」
『構わない。余分の薬草は人の世に売らないと約束してもらえれば』
「売らない。私が使う」
『なら許可する。ただし摘みすぎないでくれたまえ』
「わかった、トト」
ポロリと口から出てしまう。しまった、と思ったが、すでにスフィンクスは聞いてしまっていた。
『トト?それは我のことか?』
「うん。古代言語で"賢い"っていう意味なんだけど……」
ダメ?と首を傾げると、なんとスフィンクスが私の肩に鼻を載せた。
『悪くない。ユールにならそう呼ばれてもいいな』
「いいの?」
『ああ。ユールはこれから我のことをトトと呼ぶがいい。ただ他の者はダメだからな』
「ん」
それから一言二言会話を交わし、ユールは雪うさぎのあとをついていく。スフィンクスもといトトは、すでに丸まって昼寝に突入している。
『みみっ!み~』
「あ、もしかしてあれがヒットグラス?」
『みっ!』
しばらく歩くと、一本の茎にギザギザと丸い葉っぱが交互に生えているような草がたくさんある場所に出た。依頼を受けた時、図鑑を見せてもらったのでこれがヒットグラスだとわかった。依頼用の20本と、自分用に10本摘んでいく。
雪うさぎの案内でそこからしばらく歩いたところへ向かうと、今度は一面お花畑だ。あたり一面同じ花が咲いているので、ここはレプロの花が集団で生えているのだろう。七枚の花びらは全部違う色で、中心にはクリスタルのような宝石がついている花だ。確かサラダにして食べると美味しいと図鑑に書いてあったので、依頼用自分用含めて65輪摘んでいく。
雪うさぎの案内でやってきた最後の場所は、崖の麓だった。岩壁にはキラキラと光り輝いているキノコがまだらに生えている。こちらはトータルで15個もらっていく。
簡単すぎるほどすんなり素材を手に入れてユールがトトのところに戻ると、そこには片目だけ開いているトトと覚醒したノルン。しかしノルンはなぜかガチゴチで正座している。パレードも解除しているようだ。
「ただいま、トト」
『戻ったか。薬草は手に入ったか?』
「うん。あとは調合方がわかれば霊薬が作れる」
『ならマックールに作り方を伝授するよう伝えておこう』
このマックールというのは、非常に賢い猿の魔物だ。調合や錬金を得意とし、おとなしい上に人懐っこいので魔物とは思えないが、怒らせると怖いAランクモンスターである。
「いいの?」
『ああ。そもそも霊薬の作り方を知っているのは古参の錬金術師か精霊族、もしくはマックールぐらいだぞ?』
「そういえばそうね」
あとは古い時代の錬金書にしか作り方は載ってないだろう。
「ところで何をしたの?」
『何、とは?』
「ノルンの怯え方が尋常じゃないんだけど」
『我と一緒に置き去りにされて恐怖しているらしい。この娘はお主と違って人の世に生きる人間だからな』
人間嫌いであるが、ノルンのことは嫌ってないようだ。
「ゆ、ゆーるさまぁ………」
「うん、とりあえずごめん」
ギギギと軋みそうな感じでノルンの首がこっちを向く。ノーマルであるノルンにとって、目の前で聖獣と一緒にいることはやっぱり恐怖らしい。
雪うさぎと一緒のなだめているうちに調子を取り戻したノルンが、今度はめちゃくちゃな理論を掲げて説教して、トトが大爆笑してその笑い声にまた固まったり、そんなことがあったのはもう少し先のこと。
「もう日暮れね」
森でトトや動物たちと昼食をとったり、一緒に遊んだりしていれば、太陽はすでに西に傾きつつあった。
『戻るのか?』
「ええ。やることもあるから」
「楽しかったです。スフィンクス様も思ったより温和な方だったし」
『怯えまくっていたが?』
「う………つ、次は怯えませんから!」
トトとノルンがじゃれあってる。案外この二人は息が合うのかもしれない。
『そうだ、これも持っていくといい』
トトがそう言った瞬間、何もない広場に山のような物資が現れた。そのうち3分の1ほどが食材である。
「これは?」
予想はついているが、それでも聞いてみる。
『人間どもが置いていく、迷惑な貢物だ』
やっぱり。
『食べ物に関しては捨てるのも勿体無いから可能な限り食しているが、こういった類のものはどうしても使い道がない』
「わかるよ。ポッポのところにもなぜか食器の類が貢がれてたし」
『それは意味がわからないな』
曰く、友人の好で引き取ってはくれないか、と。どうせいくらもらっても困らないのだからもらう。トトに友達として認めてももらえたし!
『……なんだ。ユールもそんな笑みを浮かべるのだな』
「?」
『いや、気にするな』
渡された貢物を異次元収納に収納する。食材の中には最近貢がれた新鮮なものや、昔のものだが変わらずみずみずしいものがあり、聞くとそれは時たま渓谷を訪れてくれるポッポが、魔法をかけたものだとか。
『それと、これはユールがよければだが……』
トトが気まずそうに切り出すと、トトの前足の影から、道案内をしてくれた雪うさぎが顔をのぞかせた。
『こやつを連れて行ってはもらえないか?』
とてとてと寄ってきて、ユールの足に体を擦り付ける雪うさぎ。ひんやりしていてものすごくかわいい。
「いいの?この子連れてって」
『ああ。本人もそれを望んでおるのでな』
『みみみみっ!』
そっと雪うさぎを抱き上げると、嬉しそうにドヤ顔をしてくる。ものすごくかわいいです、この子!
「ありがと!これからよろしくね、雪うさぎちゃん!」
『みっ、み~』
どうしよう…すっごくかわいい!
散々雪うさぎと戯れてから、次くる約束を取り付けてトトの魔法で地上へ返してもらう。トトの力は、対象を自由な場所に転移させるものだ。大変便利ですが使い方によっては最凶の魔法になりそうですね。
地上に戻った二人が、ギルドで成功報告をして受付のお姉さんに驚愕され、報酬を受け取った瞬間ギルドにいる全員に忘却魔法をかけるのはもう少し先のことです。
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