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第2章 チート街道驀進(不本意)

あのサブタイトルはあながち間違ってない (2)

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勇者のクリストファーは、仲間と合流するまでの間ここに住むことになった。

まあ、問題ない。うちには3人分の食料も寝床も余裕である。本来なら問題ない。なんの問題もないはずなのだ。なのに、我が家ではこの勇者が大問題になっている。

ノルにとってだけではない。私にとっても、だ。

「今日も美しいね!一目見た時からわかっていたよ!流れるような黒髪、知性的な瞳、その全てが美しい!!そうっ!あなたこそ僕の女神だって!」
「文句が長い!!そしてしつこい!!」

何がきっかけでスイッチが入っちゃったのかは全くわからないが、どうやらクリストファーはストーカーと化したようだ。昼夜問わず私を追い回して求婚するようになってしまったのだ!!

「愛しいオーレリアよー!!僕と結婚してくれ!!!」
「誰だよそれ!!全力でお断りだよちくしょうめーーー!!」

そして当然私に結婚の予定なんて一切ない。私はまだまだ異世界でスローライフを楽しみたいのだ!スローライフじゃなくても普通の異世界生活を楽しみたいのだ!!

だから朝から始まる勇者の猛アピールに、私はいつも朝から家中を逃げ回っているのだ。部屋を駆け回り、二階から飛び降り、壁を走り、天井を使って背後に逃げ…ここ数日、家の中ではアクション映画以上に壮絶なバトルが繰り広げられているのです。

壮絶すぎて、この異世界に来てはじめてチートステータスに感謝してしまったくらいだよ!!

そんな家主と勇者が縦横無尽鬼ごっこ状態の家では、ノルがついに部屋に完全に引きこもってしまった。私にはもうノルを部屋から引きずり出すような余裕はない。自分の身に大いなる危機が迫ってるのでね!!

まあ、この状態だから回復薬ポーション作りなんて夢のまた夢。ノルが狩りに出る必要とかないからいいけど。

一日の間に、唯一勇者がおとなしいのは、食事の時間と寝ている時間とお風呂。この時間だけはものすごく静か。最低限の礼儀はわきまえていると信じ……たい!!

そしてこの時間がすぎると、鬼ごっこは問答無用で再開される。誰か助けてーーー!!

しかも!クリストファーはしつこいのだ!何度か追いかけてくるクリストファーを殴り飛ばしたり、蹴っ飛ばしている。もちろん最大限手加減をしてるが。

毎度毎度綺麗に吹っ飛んで行くんだが、そのたびにゾンビのようなデタラメな生命力で立ち上がってはまた追いかけてくる。この前など、HP0になってるのに逆に加速してきたもん!!

この世界ではステータスプレートが壊れないと死なないので。

もうね、はっきりいってホラーですよホラー!?これはノルがトラウマになるはずだ!!私でもトラウマになるもん!!!

今では私の扉には鍵がついてる。扉を閉じて鍵を閉めれば、ストーカーは追いかけてこなくなるのだ。その辺の律儀はわきまえてくれてありがとう。

「待ってくれ!愛しいオーレリア!!」
「ぎゃぁぁぁ!!!来ーるーなーー!!!」

でもやっぱり辛い!!

勇者ストーカーの仲間たちよ!!早くこのボンクラを引き取りにきてください!一生のお願い!!


◇ ◇ ◇

というのが3日前の出来事。

私がストーカーに追いかけ回されて、ノルが引きこもっている現状は相も変わらず変わっていない。

この日も、朝食のあとから私は家の一階部分を縦横無尽に駆けずり回っている。子供がはしゃぐよう……な可愛い理由などない。後ろから追いかけてくるストーカーから全力で逃げるためだ。

逃げやすい状況を作るため、ストーカーが寝ている間に自室などの一部の部屋を前回状態で固定しておいた。逃げてる最中に扉なんていちいち開けてたらストーカーに捕まるもん。実際音といる捕まったし!

最近では逃げる時のコツがつかめてきて、ほんの少しだけ逃走が楽になったが、それでもしんどいものはしんどい!!

ちょうど私が玄関ホールでストーカーの顔面にゲンコツを食らわせたタイミングで、ピーンポーン、という軽快なチャイム音が響いた。

我が家の玄関横のくぼみでくるくる回っている銀色のキューブ。持ち主である私が回すと家を畳めるがその他の人が回すとインターホンの代わりになるそれを、誰かが回したのだ。

誰だろう?

ストーカー勇者が後ろに吹っ飛んでいくのを横目に、私は玄関際に向かう。

ここで決して、来客はあのストーカーの仲間かしら?とか思ってはいけない。そう思った時ほど違う人が来てるもにだって、小説ではよくあるテンプレ展開!!

「はい、どちら様でしょうか?」

玄関の扉を開け、私は顔を覗かせる。

「すみません、こちらにクリストファー・ルミナスという男性はいらっしゃいませんか?」

そこには一人の聖女っぽい女性と、一人のエルフ風弓使いの男性と、魔法使いと思われる男女の双子(12歳?)の4人組が立っていた。
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