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エピローグ
エピローグ 2【完結】
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「紫子さんが辿りつきたいと言っていた秘密、明らかになりましたね。仕事のモチベーションは下がらないんですか?」
紫子さんが追い続けていた、お父さんの死の謎。そのために、どんな小さな秘密も暴いてみせるんだと豪語していた。
「下がるわけないじゃない。世の中の秘密は、すべて私が暴く」
ポンと鞄を叩いた。その中には父親の形見のカメラが入っているはずだ。
もしかすると、父親への誓いのようになっているのかもしれない。
「ボヤオこそ、この仕事はどうなのよ。泣きごとばっかり言ってたけど」
「そうでした?」
俺は苦笑した。
慣れなくて、失敗ばかりで、逃げ出したくなった時もあったけど。
俺にしかできない報道というものを掴めそうな気がしてきたから。
「もっと勉強して、腕を上げたいです」
紫子さんは半眼になった。
「つまらない男ね。三十点」
「ええっ」
勝手に低い点数をつけられた上に、つまらないとまで言われてしまった。
「ターゲット、出てきたよ」
「はい、わかってます」
二度とよそ見をするなんて凡ミスはしない。俺はカメラを構えてシャッターを切る。
「上も撮れてる?」
「上? あっ」
二階のベランダに俳優がいた。マンションの出口にはアイドルがいて、二人は笑顔で手を振りあっている。
「ひと画面に収めるの、ギリギリですね。この角度なら、なんとか」
一枚ですべてのシチュエーションがわかる写真と、二画面になるのとでは、インパクトがまるで違う。
俺は運転席の窓から身を乗り出して撮影した。おっ、アイドルが投げキスなんてしてる。いい絵が撮れたんじゃないだろうか。
「……あれ」
アイドルがこっちを指さしている。二階にいる俳優も俺たちに気付いたようで、怒りだした。
「やばっ、撤収ですね」
「あの俳優、なんか投げてる。潰れた空き缶……は軽いから全然届かないね。次は瓶を持った」
「えっ、ちょっ」
投げられた瓶は、ヴェルファイアの手前で音を立てて割れた。
「いいね、あの俳優。ボヤオ、もう少し前に出て、瓶を車で受けなさいよ。このボンネットの凹みは、俳優に瓶を投げつけられたものです、って書くから」
「嫌ですよ。まだ買ったばかりなんですから」
「なんでよ。だからつまらない男だって言われるのよ」
「そう言ってるの、紫子さんだけですからねっ」
俺は慌ててバックして、方向転換して逃げた。
「車を犠牲にしなくったって、もう撮れ高充分ですよね?」
「まあねえ」
紫子さんは不服そうだが、絶対におもしろがっていただけだ。
現在はお昼前くらいだ。時間的には、今日もう一本仕事ができそうだけど……。
「特に面白いネタもないし。久しぶりに家でのんびりしよっか」
「ネタ探しをしなくていいんですか?」
時間が余った時はパトロールといって、街中に車を走らせて芸能人を探すことがある。
「今日は結果を出してるし、たまにはいいわ。逃げたお詫びに、美味しいご飯を作って」
お詫びなんて関係なく、紫子さんが食べたいだけだろう。
「いいですけど、手伝ってもらいますよ」
「仕方がないなあ」
紫子さんは嬉しそうに膝を抱えて、足をパタパタと揺らしている。ポメラニアンが尻尾を振っているみたいだ。
紫子さんの表情が最近、柔らかくなったように感じる。なぜかと考えたら、よく笑うようになったからだ。だから俺も、つられて笑うことが多くなった。
なんだかかんだと、紫子さんとの同居生活を楽しんでいる自分がいる。
さて。なにを作ったら紫子さんは喜んでくれるかな。
そんなことを考えている俺は、自然に笑みがこぼれていた。
了
紫子さんが追い続けていた、お父さんの死の謎。そのために、どんな小さな秘密も暴いてみせるんだと豪語していた。
「下がるわけないじゃない。世の中の秘密は、すべて私が暴く」
ポンと鞄を叩いた。その中には父親の形見のカメラが入っているはずだ。
もしかすると、父親への誓いのようになっているのかもしれない。
「ボヤオこそ、この仕事はどうなのよ。泣きごとばっかり言ってたけど」
「そうでした?」
俺は苦笑した。
慣れなくて、失敗ばかりで、逃げ出したくなった時もあったけど。
俺にしかできない報道というものを掴めそうな気がしてきたから。
「もっと勉強して、腕を上げたいです」
紫子さんは半眼になった。
「つまらない男ね。三十点」
「ええっ」
勝手に低い点数をつけられた上に、つまらないとまで言われてしまった。
「ターゲット、出てきたよ」
「はい、わかってます」
二度とよそ見をするなんて凡ミスはしない。俺はカメラを構えてシャッターを切る。
「上も撮れてる?」
「上? あっ」
二階のベランダに俳優がいた。マンションの出口にはアイドルがいて、二人は笑顔で手を振りあっている。
「ひと画面に収めるの、ギリギリですね。この角度なら、なんとか」
一枚ですべてのシチュエーションがわかる写真と、二画面になるのとでは、インパクトがまるで違う。
俺は運転席の窓から身を乗り出して撮影した。おっ、アイドルが投げキスなんてしてる。いい絵が撮れたんじゃないだろうか。
「……あれ」
アイドルがこっちを指さしている。二階にいる俳優も俺たちに気付いたようで、怒りだした。
「やばっ、撤収ですね」
「あの俳優、なんか投げてる。潰れた空き缶……は軽いから全然届かないね。次は瓶を持った」
「えっ、ちょっ」
投げられた瓶は、ヴェルファイアの手前で音を立てて割れた。
「いいね、あの俳優。ボヤオ、もう少し前に出て、瓶を車で受けなさいよ。このボンネットの凹みは、俳優に瓶を投げつけられたものです、って書くから」
「嫌ですよ。まだ買ったばかりなんですから」
「なんでよ。だからつまらない男だって言われるのよ」
「そう言ってるの、紫子さんだけですからねっ」
俺は慌ててバックして、方向転換して逃げた。
「車を犠牲にしなくったって、もう撮れ高充分ですよね?」
「まあねえ」
紫子さんは不服そうだが、絶対におもしろがっていただけだ。
現在はお昼前くらいだ。時間的には、今日もう一本仕事ができそうだけど……。
「特に面白いネタもないし。久しぶりに家でのんびりしよっか」
「ネタ探しをしなくていいんですか?」
時間が余った時はパトロールといって、街中に車を走らせて芸能人を探すことがある。
「今日は結果を出してるし、たまにはいいわ。逃げたお詫びに、美味しいご飯を作って」
お詫びなんて関係なく、紫子さんが食べたいだけだろう。
「いいですけど、手伝ってもらいますよ」
「仕方がないなあ」
紫子さんは嬉しそうに膝を抱えて、足をパタパタと揺らしている。ポメラニアンが尻尾を振っているみたいだ。
紫子さんの表情が最近、柔らかくなったように感じる。なぜかと考えたら、よく笑うようになったからだ。だから俺も、つられて笑うことが多くなった。
なんだかかんだと、紫子さんとの同居生活を楽しんでいる自分がいる。
さて。なにを作ったら紫子さんは喜んでくれるかな。
そんなことを考えている俺は、自然に笑みがこぼれていた。
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