48 / 55
告白 二
告白 二 その3
しおりを挟む
謎が解けたのは、高校の卒業式だった。
高校二年生に付き合ったクラスメイトが、話があると一年以上ぶりに声をかけてきたのだ。そこで、思わぬ告白を受けた。
陽菜乃と付き合っている頃、桜子からアプローチを受けたという。初めは揺るがなかった彼だが、あの美貌を誇る桜子に何度も求められたら、流されてしまいたくもなるだろう。
結局、桜子に言われるがままに陽菜乃と別れた。するとすぐに桜子は彼に興味を失ったように、メールの返事がなくなり、電話も出なくなった。そうして自然消滅したという。
「俺は本当に陽菜乃が好きだった。一時の感情に流されたことを後悔してる。そんな自分を、俺自身も許せない。だから、よりを戻したいと言いたいんじゃないんだ。お詫び代わりというわけじゃないけど、このことを陽菜乃に伝えた方がいいと思って」
別れた後も、彼は陽菜乃が気になってよく目で追っていた。だから高校三年の時に、陽菜乃が同じ部活の男子生徒に恋をしたことも、なんとなくわかっていた。
いい感じにもなってきたので、幸せになってくれたらいいと見守っていたが、その部活の生徒に桜子が近づいていった。その二人が付き合っているのを知り、陽菜乃が男を諦めると、桜子もあっさりと身を引いた。
自分の時と同じだと思った。
「どう考えても、陽菜乃に恋人を作らせないよう行動しているようにしか見えない。彼女とはつき合わない方がいいと思うけど、それは陽菜乃が判断することだ」
彼は陽菜乃にそう忠告して立ち去った。
その言葉を、陽菜乃はどう受け止めていいかわからなかった。ただ、彼の言ったことは全て真実だろうと感じていた。
だとすれば、中学生で三日も学校を休むほど心に傷を受けたのは、桜子のせいだということになる。献身的に尽くしてくれて感謝したが、ただのマッチポンプだったのだ。
骨格がしっかりしていて背が高く、あまり女性扱いされなかった陽菜乃。だからこそ、誰よりも王子様が迎えに来てくれるのを心待ちにしていた。そんな陽菜乃の青春を踏みにじったのは、お姫様のように美しい幼なじみだった。
「つき合わない方がいいと言われても、同じ大学なんですけど」
陽菜乃は額を押さえながら校門に向かった。すると桜子が陽菜乃を見つけて駆け寄ってきた。
「陽菜乃! よかった、どこに行っちゃったのかと思ったよ。この後、時間ある? 二人だけで祝賀会しよ」
「……いいよ」
断った方がいい。距離を置いた方がいい。
わかっていても桜子の頼みは断れない。子供の頃からの刷り込みだ。
「やったっ。陽菜乃、大好き!」
桜子は腕をからめてきた。同じ女性であるはずの自分と全く違う、軽やかで柔らかい体が密着する。ふわりといい匂いが鼻をかすめた。
「触らないで」
陽菜乃は桜子の腕を振り払った。桜子は驚いて動きを止める。
「最近、腕が痛くって」
「そうなんだ、ごめんね。行こう陽菜乃」
桜子はにっこりと笑う。
いとおしくて、同じくらい憎らしい。
桜子はそんな存在だ。
このままずるずると桜子といるのだろうか。
それは恐怖で……。
――どこか甘美だった。
同じ大学に入学したものの、桜子とは学部が別で、しかも今まで以上にバイトを入れているようなので、高校時代ほど一緒にいる時間は多くなかった。
しかし陽菜乃が大学の奇術愛好会に入会すると、桜子も当たり前のようについてきた。桜子には内緒にしておきたかったが、そう上手くはいかないものだ。
卒業式で受けた忠告はとりあえず棚上げにしていたのだが、向き合わなければならない事態に直面した。
陽菜乃は奇術愛好会で、小野寺龍之介に一目ぼれしてしまったのだ。
桜子との関係は、概ね良好だ。
桜子が悪魔に変貌するのは、陽菜乃が恋をしたときなのだから。
高校二年生に付き合ったクラスメイトが、話があると一年以上ぶりに声をかけてきたのだ。そこで、思わぬ告白を受けた。
陽菜乃と付き合っている頃、桜子からアプローチを受けたという。初めは揺るがなかった彼だが、あの美貌を誇る桜子に何度も求められたら、流されてしまいたくもなるだろう。
結局、桜子に言われるがままに陽菜乃と別れた。するとすぐに桜子は彼に興味を失ったように、メールの返事がなくなり、電話も出なくなった。そうして自然消滅したという。
「俺は本当に陽菜乃が好きだった。一時の感情に流されたことを後悔してる。そんな自分を、俺自身も許せない。だから、よりを戻したいと言いたいんじゃないんだ。お詫び代わりというわけじゃないけど、このことを陽菜乃に伝えた方がいいと思って」
別れた後も、彼は陽菜乃が気になってよく目で追っていた。だから高校三年の時に、陽菜乃が同じ部活の男子生徒に恋をしたことも、なんとなくわかっていた。
いい感じにもなってきたので、幸せになってくれたらいいと見守っていたが、その部活の生徒に桜子が近づいていった。その二人が付き合っているのを知り、陽菜乃が男を諦めると、桜子もあっさりと身を引いた。
自分の時と同じだと思った。
「どう考えても、陽菜乃に恋人を作らせないよう行動しているようにしか見えない。彼女とはつき合わない方がいいと思うけど、それは陽菜乃が判断することだ」
彼は陽菜乃にそう忠告して立ち去った。
その言葉を、陽菜乃はどう受け止めていいかわからなかった。ただ、彼の言ったことは全て真実だろうと感じていた。
だとすれば、中学生で三日も学校を休むほど心に傷を受けたのは、桜子のせいだということになる。献身的に尽くしてくれて感謝したが、ただのマッチポンプだったのだ。
骨格がしっかりしていて背が高く、あまり女性扱いされなかった陽菜乃。だからこそ、誰よりも王子様が迎えに来てくれるのを心待ちにしていた。そんな陽菜乃の青春を踏みにじったのは、お姫様のように美しい幼なじみだった。
「つき合わない方がいいと言われても、同じ大学なんですけど」
陽菜乃は額を押さえながら校門に向かった。すると桜子が陽菜乃を見つけて駆け寄ってきた。
「陽菜乃! よかった、どこに行っちゃったのかと思ったよ。この後、時間ある? 二人だけで祝賀会しよ」
「……いいよ」
断った方がいい。距離を置いた方がいい。
わかっていても桜子の頼みは断れない。子供の頃からの刷り込みだ。
「やったっ。陽菜乃、大好き!」
桜子は腕をからめてきた。同じ女性であるはずの自分と全く違う、軽やかで柔らかい体が密着する。ふわりといい匂いが鼻をかすめた。
「触らないで」
陽菜乃は桜子の腕を振り払った。桜子は驚いて動きを止める。
「最近、腕が痛くって」
「そうなんだ、ごめんね。行こう陽菜乃」
桜子はにっこりと笑う。
いとおしくて、同じくらい憎らしい。
桜子はそんな存在だ。
このままずるずると桜子といるのだろうか。
それは恐怖で……。
――どこか甘美だった。
同じ大学に入学したものの、桜子とは学部が別で、しかも今まで以上にバイトを入れているようなので、高校時代ほど一緒にいる時間は多くなかった。
しかし陽菜乃が大学の奇術愛好会に入会すると、桜子も当たり前のようについてきた。桜子には内緒にしておきたかったが、そう上手くはいかないものだ。
卒業式で受けた忠告はとりあえず棚上げにしていたのだが、向き合わなければならない事態に直面した。
陽菜乃は奇術愛好会で、小野寺龍之介に一目ぼれしてしまったのだ。
桜子との関係は、概ね良好だ。
桜子が悪魔に変貌するのは、陽菜乃が恋をしたときなのだから。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
どんでん返し
あいうら
ミステリー
「1話完結」~最後の1行で衝撃が走る短編集~
ようやく子どもに恵まれた主人公は、家族でキャンプに来ていた。そこで偶然遭遇したのは、彼が閑職に追いやったかつての部下だった。なぜかファミリー用のテントに1人で宿泊する部下に違和感を覚えるが…
(「薪」より)
密室島の輪舞曲
葉羽
ミステリー
夏休み、天才高校生の神藤葉羽は幼なじみの望月彩由美とともに、離島にある古い洋館「月影館」を訪れる。その洋館で連続して起きる不可解な密室殺人事件。被害者たちは、内側から完全に施錠された部屋で首吊り死体として発見される。しかし、葉羽は死体の状況に違和感を覚えていた。
洋館には、著名な実業家や学者たち12名が宿泊しており、彼らは謎めいた「月影会」というグループに所属していた。彼らの間で次々と起こる密室殺人。不可解な現象と怪奇的な出来事が重なり、洋館は恐怖の渦に包まれていく。
かれん
青木ぬかり
ミステリー
「これ……いったい何が目的なの?」
18歳の女の子が大学の危機に立ち向かう物語です。
※とても長いため、本編とは別に前半のあらすじ「忙しい人のためのかれん」を公開してますので、ぜひ。
双極の鏡
葉羽
ミステリー
神藤葉羽は、高校2年生にして天才的な頭脳を持つ少年。彼は推理小説を読み漁る日々を送っていたが、ある日、幼馴染の望月彩由美からの突然の依頼を受ける。彼女の友人が密室で発見された死体となり、周囲は不可解な状況に包まれていた。葉羽は、彼女の優しさに惹かれつつも、事件の真相を解明することに心血を注ぐ。
事件の背後には、視覚的な錯覚を利用した巧妙なトリックが隠されており、密室の真実を解き明かすために葉羽は思考を巡らせる。彼と彩由美の絆が深まる中、恐怖と謎が交錯する不気味な空間で、彼は人間の心の闇にも触れることになる。果たして、葉羽は真実を見抜くことができるのか。
ミノタウロスの森とアリアドネの嘘
鬼霧宗作
ミステリー
過去の記録、過去の記憶、過去の事実。
新聞社で働く彼女の元に、ある時8ミリのビデオテープが届いた。再生してみると、それは地元で有名なミノタウロスの森と呼ばれる場所で撮影されたものらしく――それは次第に、スプラッター映画顔負けの惨殺映像へと変貌を遂げる。
現在と過去をつなぐのは8ミリのビデオテープのみ。
過去の謎を、現代でなぞりながらたどり着く答えとは――。
――アリアドネは嘘をつく。
(過去に別サイトにて掲載していた【拝啓、15年前より】という作品を、時代背景や登場人物などを一新してフルリメイクしました)
無能力探偵の事件簿〜超能力がない?推理力があるじゃないか〜
雨宮 徹
ミステリー
2025年――それは人類にとって革新が起きた年だった。一人の青年がサイコキネシスに目覚めた。その後、各地で超能力者が誕生する。
それから9年後の2034年。超能力について様々なことが分かり始めた。18歳の誕生日に能力に目覚めること、能力には何かしらの制限があること、そして全人類が能力に目覚めるわけではないこと。
そんな世界で梶田優は難事件に挑む。超能力ではなく知能を武器として――。
※「PSYCHO-PASS」にインスパイアされ、本や名言の引用があります。
若月骨董店若旦那の事件簿~水晶盤の宵~
七瀬京
ミステリー
秋。若月骨董店に、骨董鑑定の仕事が舞い込んできた。持ち込まれた品を見て、骨董屋の息子である春宵(しゅんゆう)は驚愕する。
依頼人はその依頼の品を『鬼の剥製』だという。
依頼人は高浜祥子。そして持ち主は、高浜祥子の遠縁に当たるという橿原京香(かしはらみやこ)という女だった。
橿原家は、水産業を営みそれなりの財産もあるという家だった。しかし、水産業で繁盛していると言うだけではなく、橿原京香が嫁いできてから、ろくな事がおきた事が無いという事でも、有名な家だった。
そして、春宵は、『鬼の剥製』を一目見たときから、ある事実に気が付いていた。この『鬼の剥製』が、本物の人間を使っているという事実だった………。
秋を舞台にした『鬼の剥製』と一人の女の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる