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龍之介 合宿二日目 午前

龍之介 合宿二日目 午前

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 龍之介は走りまわって、息が切れている。
「そんな、ばかな」
 同じ言葉がぐるぐると頭をまわり、無意識に口からこぼれていた。
 メンバーの部屋や空き部屋のベッドの下やクローゼットの中はもちろん、こんなところにいるはずがないと思いながらも、風呂やトイレ、廊下にある物置の中まで確かめた。
 物置は一畳ほどと広い割に、空の段ボールとほうきがあるくらいだった。相当使われていないのか、埃が溜まっている。
人が入れそうもない引出しなども入念にチェックした。というのは、彼女と共に荷物まで部屋から消えていたからだ。
 サークルメンバーたちと手分けをして探すことにした。それから二時間ほど経過している。
「いったい、どうなっているんだ」
 龍之介は頬までつたってきた汗を手の甲で拭った。夏とはいえ、渓流は天然のクーラーのようだし、周囲の自然のおかげもあって気温は高くない。しかし龍之介は動き回っていることに加え、嫌な動悸で全身が火照っていた。
 外から屋敷を見ると、食堂の大きな窓から奈月と蒼一が見えた。いつものように口げんかをしているように見える。既に捜索に飽きたのか。
 龍之介は苛立った。
 先ほどすれ違った時に奈月は、
「噂の幽霊が連れ去ったのかも」
 などと、怯えとも冗談ともとれる発言をしていた。そんな奈月に限らず、メンバーの捜索にはどこか緊張感が足りないように龍之介には思えた。
「みつかりませんね」
 屋敷は探し切ったので、庭に出て草むらの中を探していた龍之介に、クリスが声をかけてきた。
「この人数で探したんです。もう見落としはないでしょう」
 クリスは首を振った。彼の額にも汗が浮いている。かなり丹念に探していたようだ。だからこそ、そろそろ区切りをつけようというのだろう。
 確かに、屋敷の敷地はそれほど広くはない。龍之介個人で考えても、屋敷の中から外にかけて、くまなく探し尽くしていた。
「この敷地内にはいないのでしょうね。どういうわけなのか」
「まさか、川の中やあらへんよな」
 和樹は渓谷を覗きこんでいる。
「そうだとしたら、この流れや。留まっとるわけがないわな」
 龍之介も和樹に並んだ。
 まるで竜のように岸壁をぬって流れる透明感のある川は、苔の生えた岩に激しくぶつかり白いしぶきをあげている。
この高さから落ちるだけでも原型をとどめられるかわからないのに、激流に飲まれて岩に打ち付けられたら、どうなるのだろうか。考えるだけでもぞっとする。
「龍之介、中で休憩しましょう。それから、これからなにをすべきか考えましょう」
 クリスが龍之介の肩を叩く。
 龍之介は素直にうなずいて、クリスに並んで歩き出した。
 納得できない表情で、龍之介は肩越しに振り返った。
 姿を消すなんて、ありえない。
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