24 / 55
龍之介 合宿二日目 午前
龍之介 合宿二日目 午前
しおりを挟む
龍之介は走りまわって、息が切れている。
「そんな、ばかな」
同じ言葉がぐるぐると頭をまわり、無意識に口からこぼれていた。
メンバーの部屋や空き部屋のベッドの下やクローゼットの中はもちろん、こんなところにいるはずがないと思いながらも、風呂やトイレ、廊下にある物置の中まで確かめた。
物置は一畳ほどと広い割に、空の段ボールとほうきがあるくらいだった。相当使われていないのか、埃が溜まっている。
人が入れそうもない引出しなども入念にチェックした。というのは、彼女と共に荷物まで部屋から消えていたからだ。
サークルメンバーたちと手分けをして探すことにした。それから二時間ほど経過している。
「いったい、どうなっているんだ」
龍之介は頬までつたってきた汗を手の甲で拭った。夏とはいえ、渓流は天然のクーラーのようだし、周囲の自然のおかげもあって気温は高くない。しかし龍之介は動き回っていることに加え、嫌な動悸で全身が火照っていた。
外から屋敷を見ると、食堂の大きな窓から奈月と蒼一が見えた。いつものように口げんかをしているように見える。既に捜索に飽きたのか。
龍之介は苛立った。
先ほどすれ違った時に奈月は、
「噂の幽霊が連れ去ったのかも」
などと、怯えとも冗談ともとれる発言をしていた。そんな奈月に限らず、メンバーの捜索にはどこか緊張感が足りないように龍之介には思えた。
「みつかりませんね」
屋敷は探し切ったので、庭に出て草むらの中を探していた龍之介に、クリスが声をかけてきた。
「この人数で探したんです。もう見落としはないでしょう」
クリスは首を振った。彼の額にも汗が浮いている。かなり丹念に探していたようだ。だからこそ、そろそろ区切りをつけようというのだろう。
確かに、屋敷の敷地はそれほど広くはない。龍之介個人で考えても、屋敷の中から外にかけて、くまなく探し尽くしていた。
「この敷地内にはいないのでしょうね。どういうわけなのか」
「まさか、川の中やあらへんよな」
和樹は渓谷を覗きこんでいる。
「そうだとしたら、この流れや。留まっとるわけがないわな」
龍之介も和樹に並んだ。
まるで竜のように岸壁をぬって流れる透明感のある川は、苔の生えた岩に激しくぶつかり白いしぶきをあげている。
この高さから落ちるだけでも原型をとどめられるかわからないのに、激流に飲まれて岩に打ち付けられたら、どうなるのだろうか。考えるだけでもぞっとする。
「龍之介、中で休憩しましょう。それから、これからなにをすべきか考えましょう」
クリスが龍之介の肩を叩く。
龍之介は素直にうなずいて、クリスに並んで歩き出した。
納得できない表情で、龍之介は肩越しに振り返った。
姿を消すなんて、ありえない。
「そんな、ばかな」
同じ言葉がぐるぐると頭をまわり、無意識に口からこぼれていた。
メンバーの部屋や空き部屋のベッドの下やクローゼットの中はもちろん、こんなところにいるはずがないと思いながらも、風呂やトイレ、廊下にある物置の中まで確かめた。
物置は一畳ほどと広い割に、空の段ボールとほうきがあるくらいだった。相当使われていないのか、埃が溜まっている。
人が入れそうもない引出しなども入念にチェックした。というのは、彼女と共に荷物まで部屋から消えていたからだ。
サークルメンバーたちと手分けをして探すことにした。それから二時間ほど経過している。
「いったい、どうなっているんだ」
龍之介は頬までつたってきた汗を手の甲で拭った。夏とはいえ、渓流は天然のクーラーのようだし、周囲の自然のおかげもあって気温は高くない。しかし龍之介は動き回っていることに加え、嫌な動悸で全身が火照っていた。
外から屋敷を見ると、食堂の大きな窓から奈月と蒼一が見えた。いつものように口げんかをしているように見える。既に捜索に飽きたのか。
龍之介は苛立った。
先ほどすれ違った時に奈月は、
「噂の幽霊が連れ去ったのかも」
などと、怯えとも冗談ともとれる発言をしていた。そんな奈月に限らず、メンバーの捜索にはどこか緊張感が足りないように龍之介には思えた。
「みつかりませんね」
屋敷は探し切ったので、庭に出て草むらの中を探していた龍之介に、クリスが声をかけてきた。
「この人数で探したんです。もう見落としはないでしょう」
クリスは首を振った。彼の額にも汗が浮いている。かなり丹念に探していたようだ。だからこそ、そろそろ区切りをつけようというのだろう。
確かに、屋敷の敷地はそれほど広くはない。龍之介個人で考えても、屋敷の中から外にかけて、くまなく探し尽くしていた。
「この敷地内にはいないのでしょうね。どういうわけなのか」
「まさか、川の中やあらへんよな」
和樹は渓谷を覗きこんでいる。
「そうだとしたら、この流れや。留まっとるわけがないわな」
龍之介も和樹に並んだ。
まるで竜のように岸壁をぬって流れる透明感のある川は、苔の生えた岩に激しくぶつかり白いしぶきをあげている。
この高さから落ちるだけでも原型をとどめられるかわからないのに、激流に飲まれて岩に打ち付けられたら、どうなるのだろうか。考えるだけでもぞっとする。
「龍之介、中で休憩しましょう。それから、これからなにをすべきか考えましょう」
クリスが龍之介の肩を叩く。
龍之介は素直にうなずいて、クリスに並んで歩き出した。
納得できない表情で、龍之介は肩越しに振り返った。
姿を消すなんて、ありえない。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
リモート刑事 笹本翔
雨垂 一滴
ミステリー
『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。
主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。
それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。
物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。
翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?
翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!
迷探偵ごっこ。
大黒鷲
ミステリー
これは、中学生同士のまだ子供っぽさが残ってるからこそ出来る名探偵ごっこである。
日常のくだらないことをプロのように推理し、犯人を暴く。
「「とても緩い作品である」」
だが...
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
パパラッチ!~優しいカメラマンとエース記者 秘密はすべて暴きます~
じゅん
ライト文芸
【第6回「ライト文芸大賞」奨励賞 受賞👑】
イケメンだがどこか野暮ったい新人カメラマン・澄生(スミオ・24歳)と、超絶美人のエース記者・紫子(ユカリコ・24歳)による、連作短編のお仕事ヒューマンストーリー。澄生はカメラマンとして成長し、紫子が抱えた父親の死の謎を解明していく。
週刊誌の裏事情にも触れる、元・芸能記者の著者による、リアル(?)なヒューマン・パパラッチストーリー!
パラダイス・ロスト
真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。
※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。
探偵たちに未来はない
探偵とホットケーキ
ミステリー
「探偵社アネモネ」には三人の探偵がいる。
ツンデレ気質の水樹。紳士的な理人。そしてシャムネコのように気紛れな陽希。
彼らが様々な謎を解決していくミステリー。
しかし、その探偵たちにも謎があり……
下記URLでも同様の小説を更新しています。
https://estar.jp/novels/26170467
過激なシーンノーカット版
https://kakuyomu.jp/users/tanteitocake
忍ばない探偵
Primrose
ミステリー
時は戦国時代。真田幸村に仕える忍びの一族がいた。その名も猿飛家。彼らは忍の中でも群を抜いて優秀な忍を輩出していた。だがしかし、次期頭首との呼び声も高い少年、猿飛佐助は、類まれなる頭脳と忍の才能がありながら、全く陰に隠れ、忍ぶことをしなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる