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龍之介 合宿一日目 昼
龍之介 合宿一日目 昼 その4
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階段の突き当りに中二階の広い踊り場があって、二階への階段が左右二股に分かれている。階段の親柱の装飾も繊細な彫り物がされていて手が込んでいた。
吹き抜けのエントランスの天井には、豪華なシャンデリアが吊られていた。中二階の踊り場のスペース分二階の位置も高くなっていて、シャンデリアの下がった天井は通常の一軒家の三階の高さに当たりそうだ。
龍之介は、外から見た屋敷は二階建てにしては高さがあり、二階の窓の位置も上の方にあると思ったのだが、このためのようだ。空間も材質も、当時の贅沢の限りを尽くして建設したことがうかがえる。
玄関ホールにも木柱と三連アーチが設置されている。床には赤い絨毯が敷かれていた。
どれもこれも古びて色あせてはいるものの、掃除はそれなりにされているし、アンティークの家具は見ごたえがあった。壁の隅の蜘蛛の巣や埃の塊はご愛嬌だ。
「思っていたより素敵な屋敷だね。宿泊代が安価なのは、不便をかけてごめんなさい料なのね」
奈月が表情をほころばせて、屋敷を見回しながら言った。やっと笑顔が戻った。吊り橋を渡ってから奈月の口数は少なくなっていて、ずっとキャロルの腕を掴んでいた。よほど怖かったのだろう。
元凶の蒼一はというと、しれっと奈月の近くにいる。
メンバーは部屋に荷物を置きに、いったん別れた。
来て早々だが、桜子と陽菜乃には食事の準備をしてもらう。昼は飲食店に寄って済ませようと思っていたのだが、ルート沿いでは手ごろな店が見つからず、そのうちに別荘に着いてしまったのだ。
幼なじみの二人はさすがのコンビネーションで、手際よく食材を調理し始める。前回の合宿の時もそうだった。
桜子は華奢なワンピース姿、陽菜乃は身長で短髪のパンツスタイルなので、遠目から見ると、まるで美男美女のカップルのようにも見えた。
大部屋を改築したのだろうか、かなり部屋が多い。客室としては九部屋あり、八人それぞれ個室を使っても、まだ 余りがあった。
個室は鍵がかけられるようになっていて、個室の鍵はエントランスの棚にまとめて入れられていた。それぞれ適当な部屋を選んで鍵を持ち、使わない空き部屋の鍵は棚の引き出しに戻された。
龍之介は部屋番号も見ずに手前にあった鍵を握ったのだが、それは二階の端の部屋だった。数日寝るだけの部屋なのでどこでもいい。
四人は余裕で横に並んで歩ける広い中央階段を上がって、踊り場から更に右側の階段をのぼり、長い廊下を歩いて一番奥が龍之介の部屋だった。間違って突き当りの物置を開けそうになって、龍之介は苦笑する。
「疲れてるな」
部屋のドアを開けると、ふわりと古臭い木の香りがした。八畳ほどでベッドと机がある。よくあるホテルの一室のような作りだが、トイレやバスはない。
「ちょっと休憩……」
龍之介はベッドに横になった。
一気に疲れが溢れたかのように身体が重くなり、固めのマットレスに沈んでいく感覚がする。
ドライブは好きだが、人を乗せての長時間の運転はそれなりに疲労する。特に危険な山道は緊張した。帰りもあの道を通るのかと思うと、今から憂鬱になるほどだ。しかし、ほかには道がない。
あの山道は、この別荘の少し先で行き止まりなのだ。
光が差し込む窓に目を向けると、外で緑が揺れていた。部屋の窓は渓谷向きについている。
窓は厚みのあるガラスが使われていて、微かに渓流音やセミの声が漏れ聞こえていた。外はかなりうるさかったので、防音性は高いようだ。
心地良い自然の音を聞きながら、龍之介は目を閉じて身を休ませる。
そして十分ほどして起き上がった。
「よし、行くか」
初めて来た屋敷だ。龍之介は屋敷内を見て回ることにする。
「やっぱりそこに龍之介がおった」
内開きのドアを開けて部屋を出ると、隣りの部屋からクリスと和樹が出てくるところだった。
「二人は同じ部屋なのか?」
「そんなわけあるかい。ここの個室は全部シングルやで。屋敷回ろてクリス誘いに来たんや。オレは龍之介と反対側のクリスの隣りや」
二人も龍之介と同じことを考えていたらしい。せっかくなので、三人で屋敷を探索することにした。
「煮物の匂いがする」
龍之介が気づいた。肉じゃがだろうか。
「そうですね。ここはキッチンから随分と離れていますけども」
「みんな腹減っとるねん。敏感にもなるやろ」
この建物は、中央の階段より左を西、右を東とした時、この三人は二階の東側にあたる。中央の階段側から、和樹・クリス・龍之介の部屋だ。
一階東、つまり龍之介たちの部屋の下には、客室がひとつもない。共有の部屋が詰まっていて、中央寄りからトイレ、男女に分かれた風呂、食堂、そして一番端が厨房だ。龍之介の部屋の下には厨房があることになる。
道のりにすると逆コの字の端同士の関係なので離れているが、床を突き抜けた直線距離という意味なら、客室の中では一番近い。
「結構頑丈な造りだけど、それなりに隙間があるのかもしれないな」
龍之介は納得した。
吹き抜けのエントランスの天井には、豪華なシャンデリアが吊られていた。中二階の踊り場のスペース分二階の位置も高くなっていて、シャンデリアの下がった天井は通常の一軒家の三階の高さに当たりそうだ。
龍之介は、外から見た屋敷は二階建てにしては高さがあり、二階の窓の位置も上の方にあると思ったのだが、このためのようだ。空間も材質も、当時の贅沢の限りを尽くして建設したことがうかがえる。
玄関ホールにも木柱と三連アーチが設置されている。床には赤い絨毯が敷かれていた。
どれもこれも古びて色あせてはいるものの、掃除はそれなりにされているし、アンティークの家具は見ごたえがあった。壁の隅の蜘蛛の巣や埃の塊はご愛嬌だ。
「思っていたより素敵な屋敷だね。宿泊代が安価なのは、不便をかけてごめんなさい料なのね」
奈月が表情をほころばせて、屋敷を見回しながら言った。やっと笑顔が戻った。吊り橋を渡ってから奈月の口数は少なくなっていて、ずっとキャロルの腕を掴んでいた。よほど怖かったのだろう。
元凶の蒼一はというと、しれっと奈月の近くにいる。
メンバーは部屋に荷物を置きに、いったん別れた。
来て早々だが、桜子と陽菜乃には食事の準備をしてもらう。昼は飲食店に寄って済ませようと思っていたのだが、ルート沿いでは手ごろな店が見つからず、そのうちに別荘に着いてしまったのだ。
幼なじみの二人はさすがのコンビネーションで、手際よく食材を調理し始める。前回の合宿の時もそうだった。
桜子は華奢なワンピース姿、陽菜乃は身長で短髪のパンツスタイルなので、遠目から見ると、まるで美男美女のカップルのようにも見えた。
大部屋を改築したのだろうか、かなり部屋が多い。客室としては九部屋あり、八人それぞれ個室を使っても、まだ 余りがあった。
個室は鍵がかけられるようになっていて、個室の鍵はエントランスの棚にまとめて入れられていた。それぞれ適当な部屋を選んで鍵を持ち、使わない空き部屋の鍵は棚の引き出しに戻された。
龍之介は部屋番号も見ずに手前にあった鍵を握ったのだが、それは二階の端の部屋だった。数日寝るだけの部屋なのでどこでもいい。
四人は余裕で横に並んで歩ける広い中央階段を上がって、踊り場から更に右側の階段をのぼり、長い廊下を歩いて一番奥が龍之介の部屋だった。間違って突き当りの物置を開けそうになって、龍之介は苦笑する。
「疲れてるな」
部屋のドアを開けると、ふわりと古臭い木の香りがした。八畳ほどでベッドと机がある。よくあるホテルの一室のような作りだが、トイレやバスはない。
「ちょっと休憩……」
龍之介はベッドに横になった。
一気に疲れが溢れたかのように身体が重くなり、固めのマットレスに沈んでいく感覚がする。
ドライブは好きだが、人を乗せての長時間の運転はそれなりに疲労する。特に危険な山道は緊張した。帰りもあの道を通るのかと思うと、今から憂鬱になるほどだ。しかし、ほかには道がない。
あの山道は、この別荘の少し先で行き止まりなのだ。
光が差し込む窓に目を向けると、外で緑が揺れていた。部屋の窓は渓谷向きについている。
窓は厚みのあるガラスが使われていて、微かに渓流音やセミの声が漏れ聞こえていた。外はかなりうるさかったので、防音性は高いようだ。
心地良い自然の音を聞きながら、龍之介は目を閉じて身を休ませる。
そして十分ほどして起き上がった。
「よし、行くか」
初めて来た屋敷だ。龍之介は屋敷内を見て回ることにする。
「やっぱりそこに龍之介がおった」
内開きのドアを開けて部屋を出ると、隣りの部屋からクリスと和樹が出てくるところだった。
「二人は同じ部屋なのか?」
「そんなわけあるかい。ここの個室は全部シングルやで。屋敷回ろてクリス誘いに来たんや。オレは龍之介と反対側のクリスの隣りや」
二人も龍之介と同じことを考えていたらしい。せっかくなので、三人で屋敷を探索することにした。
「煮物の匂いがする」
龍之介が気づいた。肉じゃがだろうか。
「そうですね。ここはキッチンから随分と離れていますけども」
「みんな腹減っとるねん。敏感にもなるやろ」
この建物は、中央の階段より左を西、右を東とした時、この三人は二階の東側にあたる。中央の階段側から、和樹・クリス・龍之介の部屋だ。
一階東、つまり龍之介たちの部屋の下には、客室がひとつもない。共有の部屋が詰まっていて、中央寄りからトイレ、男女に分かれた風呂、食堂、そして一番端が厨房だ。龍之介の部屋の下には厨房があることになる。
道のりにすると逆コの字の端同士の関係なので離れているが、床を突き抜けた直線距離という意味なら、客室の中では一番近い。
「結構頑丈な造りだけど、それなりに隙間があるのかもしれないな」
龍之介は納得した。
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