7 / 55
陽菜乃 合宿一日目 午前
陽菜乃 合宿一日目 午前 その3
しおりを挟む
「それは、煙草カ?」
キャロルは身を乗り出して和樹の手元を覗き込んだ。ただし、シートベルトがあるのであまり前に出られない。生真面目なクリスの言いつけで、前席の二人はもちろん、後部座席の陽菜乃とキャロルもシートベルトを締めていた。
「車内で煙草は迷惑になりますよ、和樹」
「電子煙草を使うマジックや、ニコチンがない水蒸気やで。みんなええよな?」
陽菜乃とキャロルはうなずいた。二人がいいのならというように、クリスもそれ以上とめなかった。
「一瞬やからな」
和樹は電子煙草をくわえて吸い込む。口を大きく開くと、中央に穴の開いたドーナツ型の白い煙が吐き出された。
上手いものだと陽菜乃が思った瞬間、その輪っかに和樹は手を伸ばしてつまんだ。すると煙の代わりに、指先には白く太いヘアゴムが出現した。
「アメージング! 和樹、イイネ!」
キャロルが手を叩く。
煙を掴む動作をして隠し持っていたヘアゴムを出現させるという、現象としては単純なものだ。しかし、まさか煙がヘアゴムになると思わないので、インパクトは充分にあるマジックといえる。
「綺麗な煙の輪ですね」
クリスも褒める。
「せやろ。手の動きは簡単やけど、輪っかはめっちゃ練習したねん。舌を伸ばして輪の中央の空洞を作るんや」
メンバーに舌の動きを再現して見せた。上唇にも下唇にもつけず、口の中央で伸ばした舌で、煙を押しだすような動きをする。なんだかいやらしく見えなくもない動きなのだが、童顔の和樹がすると、それをまったく感じない。
和樹はもう一度電子煙草を吸って、四つ続けて白い輪を吐き出して見せた。上手いものだ。
「煙草って男らしくてかっこええやろ。煙草のルーティンを作ろ思うとる」
ルーティンとは、マジック界ではマジックの組み合わせ構成のことを指す。
「電子煙草だからといって、あまり吸いすぎないでくださいね。身体にいいものではありませんよ」
「おかんか」
心配をするクリスを和樹は茶化した。
「宿泊先に着いてからでええと思うたかもしれへんけど、実はこのマジック、結構前に龍之介が練習しとんのを見て真似たんや。せやから龍之介のおらん今、披露したっちゅうわけやな」
和樹は電子煙草をしまいながらネタ元を明かした。お酒を扱うマジックバーで働いていれば、煙草を使ったマジックを求められる場面も多いだろう。龍之介が煙草のレパートリーを持っているのは納得だ。
「そういえば、目的地まであとどれくらいなんやろう。……あれクリス、カーナビ使ってへんの? 初めて行く場所やのに、行き先がわかれへんやん」
カーナビゲーションを覗いた和樹が尋ねた。
「龍之介の車について行けばいいだけですからね」
「まあ、せやな」
そう言いながら、和樹は甘そうな炭酸飲料を取り出した。
それを見た陽菜乃は胸やけが起きそうになった。そんなに甘いものばかり食べて、よく太らないものだ。陽菜乃は摂取カロリーや糖質・脂質をチェックしながら食事をして、体形維持に苦労しているというのに。
気分直しに窓の外を見た。残念ながら高い防音壁に阻まれて景色が見えない。
空も壁と同じ鉛色の雲が垂れ込めていた。
キャロルは身を乗り出して和樹の手元を覗き込んだ。ただし、シートベルトがあるのであまり前に出られない。生真面目なクリスの言いつけで、前席の二人はもちろん、後部座席の陽菜乃とキャロルもシートベルトを締めていた。
「車内で煙草は迷惑になりますよ、和樹」
「電子煙草を使うマジックや、ニコチンがない水蒸気やで。みんなええよな?」
陽菜乃とキャロルはうなずいた。二人がいいのならというように、クリスもそれ以上とめなかった。
「一瞬やからな」
和樹は電子煙草をくわえて吸い込む。口を大きく開くと、中央に穴の開いたドーナツ型の白い煙が吐き出された。
上手いものだと陽菜乃が思った瞬間、その輪っかに和樹は手を伸ばしてつまんだ。すると煙の代わりに、指先には白く太いヘアゴムが出現した。
「アメージング! 和樹、イイネ!」
キャロルが手を叩く。
煙を掴む動作をして隠し持っていたヘアゴムを出現させるという、現象としては単純なものだ。しかし、まさか煙がヘアゴムになると思わないので、インパクトは充分にあるマジックといえる。
「綺麗な煙の輪ですね」
クリスも褒める。
「せやろ。手の動きは簡単やけど、輪っかはめっちゃ練習したねん。舌を伸ばして輪の中央の空洞を作るんや」
メンバーに舌の動きを再現して見せた。上唇にも下唇にもつけず、口の中央で伸ばした舌で、煙を押しだすような動きをする。なんだかいやらしく見えなくもない動きなのだが、童顔の和樹がすると、それをまったく感じない。
和樹はもう一度電子煙草を吸って、四つ続けて白い輪を吐き出して見せた。上手いものだ。
「煙草って男らしくてかっこええやろ。煙草のルーティンを作ろ思うとる」
ルーティンとは、マジック界ではマジックの組み合わせ構成のことを指す。
「電子煙草だからといって、あまり吸いすぎないでくださいね。身体にいいものではありませんよ」
「おかんか」
心配をするクリスを和樹は茶化した。
「宿泊先に着いてからでええと思うたかもしれへんけど、実はこのマジック、結構前に龍之介が練習しとんのを見て真似たんや。せやから龍之介のおらん今、披露したっちゅうわけやな」
和樹は電子煙草をしまいながらネタ元を明かした。お酒を扱うマジックバーで働いていれば、煙草を使ったマジックを求められる場面も多いだろう。龍之介が煙草のレパートリーを持っているのは納得だ。
「そういえば、目的地まであとどれくらいなんやろう。……あれクリス、カーナビ使ってへんの? 初めて行く場所やのに、行き先がわかれへんやん」
カーナビゲーションを覗いた和樹が尋ねた。
「龍之介の車について行けばいいだけですからね」
「まあ、せやな」
そう言いながら、和樹は甘そうな炭酸飲料を取り出した。
それを見た陽菜乃は胸やけが起きそうになった。そんなに甘いものばかり食べて、よく太らないものだ。陽菜乃は摂取カロリーや糖質・脂質をチェックしながら食事をして、体形維持に苦労しているというのに。
気分直しに窓の外を見た。残念ながら高い防音壁に阻まれて景色が見えない。
空も壁と同じ鉛色の雲が垂れ込めていた。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
リモート刑事 笹本翔
雨垂 一滴
ミステリー
『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。
主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。
それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。
物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。
翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?
翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!
パパラッチ!~優しいカメラマンとエース記者 秘密はすべて暴きます~
じゅん
ライト文芸
【第6回「ライト文芸大賞」奨励賞 受賞👑】
イケメンだがどこか野暮ったい新人カメラマン・澄生(スミオ・24歳)と、超絶美人のエース記者・紫子(ユカリコ・24歳)による、連作短編のお仕事ヒューマンストーリー。澄生はカメラマンとして成長し、紫子が抱えた父親の死の謎を解明していく。
週刊誌の裏事情にも触れる、元・芸能記者の著者による、リアル(?)なヒューマン・パパラッチストーリー!
旧校舎のフーディーニ
澤田慎梧
ミステリー
【「死体の写った写真」から始まる、人の死なないミステリー】
時は1993年。神奈川県立「比企谷(ひきがやつ)高校」一年生の藤本は、担任教師からクラス内で起こった盗難事件の解決を命じられてしまう。
困り果てた彼が頼ったのは、知る人ぞ知る「名探偵」である、奇術部の真白部長だった。
けれども、奇術部部室を訪ねてみると、そこには美少女の死体が転がっていて――。
奇術師にして名探偵、真白部長が学校の些細な謎や心霊現象を鮮やかに解決。
「タネも仕掛けもございます」
★毎週月水金の12時くらいに更新予定
※本作品は連作短編です。出来るだけ話数通りにお読みいただけると幸いです。
※本作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
※本作品の主な舞台は1993年(平成五年)ですが、当時の知識が無くてもお楽しみいただけます。
※本作品はカクヨム様にて連載していたものを加筆修正したものとなります。
パラダイス・ロスト
真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。
※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。
探偵たちに未来はない
探偵とホットケーキ
ミステリー
「探偵社アネモネ」には三人の探偵がいる。
ツンデレ気質の水樹。紳士的な理人。そしてシャムネコのように気紛れな陽希。
彼らが様々な謎を解決していくミステリー。
しかし、その探偵たちにも謎があり……
下記URLでも同様の小説を更新しています。
https://estar.jp/novels/26170467
過激なシーンノーカット版
https://kakuyomu.jp/users/tanteitocake
迷探偵ごっこ。
大黒鷲
ミステリー
これは、中学生同士のまだ子供っぽさが残ってるからこそ出来る名探偵ごっこである。
日常のくだらないことをプロのように推理し、犯人を暴く。
「「とても緩い作品である」」
だが...
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる