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6 おばけトンネル
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気がついたら、あちこちで手をつないだり抱きついたりと、まるでお化け屋敷を楽しんでいるような雰囲気になってきた。
「やあん、悠一郎、こわい~」
麗子ちゃんも、嬉しそうに悠一郎くんに抱きついてる。悠一郎くんはちょっと迷惑そうな顔をしてる。「離れて」と言っても麗子ちゃんは聞かないんだろうな。
《怖いなら来なければいいのにな》
《バカね、これがしたいから肝試しをしてるんでしょ》
神使たちは、わたしの肩の上でしらけていた。
そんなやりとりをしていたら、前方がざわつき始めた。
「ここに柵がある。立ち入り禁止って看板もあるな」
「いよいよこの先にトンネルがあるみたいだね」
そんな声が聞こえて来た。
みんなの懐中電灯の光で浮かび上がっている鉄の柵は、わたしの身長くらいあった。やろうと思えば、乗り越えられそうだけど……。
トンネルを閉鎖した五年前に作られたものなのかな? そんなにさびてもいなかった。
「見てのとおり、この先は立ち入り禁止だ、ここまでにしておこう。充分、肝試しを楽しんだだろ」
龍司が柵の前まで移動して、みんなを振り返った。
「なに言ってるのよ、ここまで来たら、トンネルを見たいに決まってるでしょ!」
悠一郎くんの腕を抱きしめたまま、麗子ちゃんが言った。
「そうだよ、見たいよね、みんな」
麗子ちゃんのお供があおると、みんな「そうだ、そうだ」と言い始めた。
肝試しは自由参加になったので、集まったメンバーは「おばけトンネル」に興味がある人ばかり。この反応は当然かもしれない。
わたしも柵に近づいた。
「うっ……なにこれ」
柵の奥の闇はいっそう濃くて、まるで生き物のように、うごめいている気がした。
舌なめずりをして、エモノを待っている、バケモノ。
背筋にゾクリと冷たいものが走った。
行っちゃいけない場所だ。
本能で、そうわかった。
「みんな、やめようよ。本当に危険だよ」
わたしがそう言うと、
「霊が見えるスズ香と龍司がこう言ってるんだ。素直に従ったほうがいい」
と、カヲルも加勢してくれた。
だけど。
「帰りたいヤツは帰ればいいじゃん。おまえらにオレたちを止める権利はないだろ」
「そうだよ。トンネルの写真撮ってるくって、SNSで宣言してきちゃったんだからさ」
「行こうぜ」
一人が柵を乗り越えてしまうと、もうだめだった。
この流れは止められない。
これだけ言ったのに、帰ろうとする人は一人もいなかった。
「ちっ、ダメか」
龍司は柵を拳で叩いた。
「おれたちだけでも帰っちまいたいところだけど、これでなにかあったら寝覚めが悪すぎる」
「腹をくくるしかないようだね」
そう言ったカヲルは柵に手をかけると、軽々と飛び越えた。龍司も同じようにヒラリと向こう側に移動する。二人ともスタントマンみたいでカッコいい。
「スズ香、手を貸そうか?」
「だ、だいじょうぶだよ」
下級生の子だってできてるんだから。
わたしは「うんしょ」と言いながら時間をかけて、やっと柵を越えられた。だって高さがわたしの身長くらいあるんだもん。わたしが普通で、二人の運動神経がよすぎなだけだからね!
「よし、やっと越えられた」
わたしが着地した途端。
ヒヤリとした空気に、全身をなでられた。
ぞわっと鳥肌が立つ。
さっきまで暑かったのに、柵のあっちとこっちで、どうしてこんなに温度が違うんだろう。
「マジでヤベーよな」
龍司も同じことを感じているみたい。まいったというように、ベリーショートの髪をかきまぜた。
「さっきまで使えてたのに、スマホが圏外になった。山では珍しいことじゃないとはいえ、この辺りはエリア内のはずなのに」
カヲルもスマートフォンを見ながら、眉をしかめた。
「霊の集まる場所は、電波や磁場を狂わせるからな」
そう言って、龍司は表情を引きしめた。
すでに不思議なことが起こり始めてる。
でもこうなったら、進むしかないよね。
わたしたちはうなずきあって歩き出した。
「やあん、悠一郎、こわい~」
麗子ちゃんも、嬉しそうに悠一郎くんに抱きついてる。悠一郎くんはちょっと迷惑そうな顔をしてる。「離れて」と言っても麗子ちゃんは聞かないんだろうな。
《怖いなら来なければいいのにな》
《バカね、これがしたいから肝試しをしてるんでしょ》
神使たちは、わたしの肩の上でしらけていた。
そんなやりとりをしていたら、前方がざわつき始めた。
「ここに柵がある。立ち入り禁止って看板もあるな」
「いよいよこの先にトンネルがあるみたいだね」
そんな声が聞こえて来た。
みんなの懐中電灯の光で浮かび上がっている鉄の柵は、わたしの身長くらいあった。やろうと思えば、乗り越えられそうだけど……。
トンネルを閉鎖した五年前に作られたものなのかな? そんなにさびてもいなかった。
「見てのとおり、この先は立ち入り禁止だ、ここまでにしておこう。充分、肝試しを楽しんだだろ」
龍司が柵の前まで移動して、みんなを振り返った。
「なに言ってるのよ、ここまで来たら、トンネルを見たいに決まってるでしょ!」
悠一郎くんの腕を抱きしめたまま、麗子ちゃんが言った。
「そうだよ、見たいよね、みんな」
麗子ちゃんのお供があおると、みんな「そうだ、そうだ」と言い始めた。
肝試しは自由参加になったので、集まったメンバーは「おばけトンネル」に興味がある人ばかり。この反応は当然かもしれない。
わたしも柵に近づいた。
「うっ……なにこれ」
柵の奥の闇はいっそう濃くて、まるで生き物のように、うごめいている気がした。
舌なめずりをして、エモノを待っている、バケモノ。
背筋にゾクリと冷たいものが走った。
行っちゃいけない場所だ。
本能で、そうわかった。
「みんな、やめようよ。本当に危険だよ」
わたしがそう言うと、
「霊が見えるスズ香と龍司がこう言ってるんだ。素直に従ったほうがいい」
と、カヲルも加勢してくれた。
だけど。
「帰りたいヤツは帰ればいいじゃん。おまえらにオレたちを止める権利はないだろ」
「そうだよ。トンネルの写真撮ってるくって、SNSで宣言してきちゃったんだからさ」
「行こうぜ」
一人が柵を乗り越えてしまうと、もうだめだった。
この流れは止められない。
これだけ言ったのに、帰ろうとする人は一人もいなかった。
「ちっ、ダメか」
龍司は柵を拳で叩いた。
「おれたちだけでも帰っちまいたいところだけど、これでなにかあったら寝覚めが悪すぎる」
「腹をくくるしかないようだね」
そう言ったカヲルは柵に手をかけると、軽々と飛び越えた。龍司も同じようにヒラリと向こう側に移動する。二人ともスタントマンみたいでカッコいい。
「スズ香、手を貸そうか?」
「だ、だいじょうぶだよ」
下級生の子だってできてるんだから。
わたしは「うんしょ」と言いながら時間をかけて、やっと柵を越えられた。だって高さがわたしの身長くらいあるんだもん。わたしが普通で、二人の運動神経がよすぎなだけだからね!
「よし、やっと越えられた」
わたしが着地した途端。
ヒヤリとした空気に、全身をなでられた。
ぞわっと鳥肌が立つ。
さっきまで暑かったのに、柵のあっちとこっちで、どうしてこんなに温度が違うんだろう。
「マジでヤベーよな」
龍司も同じことを感じているみたい。まいったというように、ベリーショートの髪をかきまぜた。
「さっきまで使えてたのに、スマホが圏外になった。山では珍しいことじゃないとはいえ、この辺りはエリア内のはずなのに」
カヲルもスマートフォンを見ながら、眉をしかめた。
「霊の集まる場所は、電波や磁場を狂わせるからな」
そう言って、龍司は表情を引きしめた。
すでに不思議なことが起こり始めてる。
でもこうなったら、進むしかないよね。
わたしたちはうなずきあって歩き出した。
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