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6 おばけトンネル
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「やっと着いたあ」
ぜいぜいと息が切れる。運動は苦手だよう。
「そんなに疲れるなら、素直におれの後ろに乗っておけばよかったのに」
龍司があきれたように言う。
広場には三十人以上いるようだった。同じ学年の生徒だけじゃなくて、下級生も来ているみたい。
みんな怖いのが好きなんだね。わたしはイヤだけど……。
「来たね、スズ香」
カヲルは話していた友達の輪から外れて、こっちに向かって歩いてきた。
「あっちの友達はいいの?」
「うん。幽霊が見えるスズ香や龍司と一緒にいたほうが、おもしろそうだからね」
「えっ、そんな理由なの?」
わたしはちょっと、くちびるをとがらせた。みんなわたしのこと、「幽霊が見えるマシーン」だと思ってるんじゃないかな。
「いいじゃないか、特技なんだから」
カヲルはクスリと笑って、わたしの頭に手をのせた。
「これから危険なところに行くんだ。あたしは幽霊が見えないから、どこまで力になれるかわからないけど、できる限りスズ香を守るよ」
そう言われて、一気にわたしの顔が熱くなった。
「どうしてカヲルは、そんなに優しくしてくれるの?」
わたしの友達になってくれたし。
「別に普通だけど。しいていえば、なんかスズ香は放っておけないんだよ。龍司もそうでしょ?」
「なんでおれに話をふるんだよ」
龍司は眉をつり上げて、ふいっと顔をそらせた。
「さあ、時間になったわ。おばけトンネルに行くわよ!」
広場の中心にいる麗子ちゃんの号令で、みんなぞろぞろとトンネルに向かって歩き出した。
おばけトンネルは自転車でのぼってきた道路から、脇に反れた道の奥にある。
一応、道に舗装はしてあるけれど、ひびや穴があいていて、注意して歩かないと転びそうになる。何年も使われていないトンネルに続く道なんだもん。仕方ないよね。
わたしたちは持ってきた懐中電灯や、スマートフォンのライトで足元を照らしながら歩いた。
道の両側は草や木が生い茂っていて、ガードレールはさびて倒れてしまっている。
そんな木々の闇の隙間から、いろいろなものが見えていた。
「ううう、もう幽霊がいっぱいいるよ」
わたしは自分の体を抱きしめるように、手をクロスさせた。
幽霊が見えるといっても、昼間はそんなに見ることはないの。それに神社にいれば、幽霊が入ってくることはほとんどない。幽霊ってやっぱり、夜に活動するんだね。
「はわっ!」
わたしはしゃがみ込んだ。
突然、首筋に冷たい風を感じて、大きな声を出しそうになるのを両手で塞いでなんとか耐えた。大声を出したら目立っちゃう。
「どうしたの、スズ香」
カヲルがわたしを立ち上がらせてくれた。
「今、ろくろ首に、息を吹きかけられた」
暗闇から出した長い首を揺らしながら、ろくろ首が笑っている。
わたしが「見える」とわかっていて、からかってきたんだ。くやしい!
夜に歩いていると、こういうことがときどきあるんだ。だから夜は出歩かないようにしているのに!
「もう、いたずらしないでよねっ」
ビシッとろくろ首に指を突き立てたけれど、まったく反省しているようすはない。
「なっさけねえの」
龍司はカラカラと笑った。龍司もいじわるだ。
「そんなに怖いなら、手をつないでやってもいいぞ」
龍司が手を差し出してくる。
「手、かあ」
確かに手をつなげたら、怖いのが半減するかもしれない。でも龍司とはいえ、男の子と手をつなぐのは恥ずかしい。
「カヲル、手をつないでもいい?」
「いいよ」
カヲルがわたしの手を握ってくれた。ちょっと冷たくて、すべすべしてる。
「なんで、そっちなんだよ」
龍司のムッとした声が聞こえた。
「だって龍司は……きゃああっ」
今度こそ大きな声を出して、カヲルの腕に抱きついてしまった。
龍司だと思って話しかけた相手が、のっぺらぼうだったの!
のっぺらぼうは「やったあ、成功だあ」と笑いながら、暗闇に逃げていった。
「やだもう、夜の森、怖い」
「なにか見えたの? スズ香は大変だなあ」
カヲルがあいているほうの手で、わたしの頭をなでてくれた。
「いいなあ、カヲルさまと」
「なんか恋人みたいだよね」
後ろから声が聞こえたけど、わたしはそれどころじゃない。
「おまえら、イチャイチャすんな!」
「女子同士で、イチャイチャもないだろ」
龍司の抗議を、カヲルはさらっとかわす。
ぜいぜいと息が切れる。運動は苦手だよう。
「そんなに疲れるなら、素直におれの後ろに乗っておけばよかったのに」
龍司があきれたように言う。
広場には三十人以上いるようだった。同じ学年の生徒だけじゃなくて、下級生も来ているみたい。
みんな怖いのが好きなんだね。わたしはイヤだけど……。
「来たね、スズ香」
カヲルは話していた友達の輪から外れて、こっちに向かって歩いてきた。
「あっちの友達はいいの?」
「うん。幽霊が見えるスズ香や龍司と一緒にいたほうが、おもしろそうだからね」
「えっ、そんな理由なの?」
わたしはちょっと、くちびるをとがらせた。みんなわたしのこと、「幽霊が見えるマシーン」だと思ってるんじゃないかな。
「いいじゃないか、特技なんだから」
カヲルはクスリと笑って、わたしの頭に手をのせた。
「これから危険なところに行くんだ。あたしは幽霊が見えないから、どこまで力になれるかわからないけど、できる限りスズ香を守るよ」
そう言われて、一気にわたしの顔が熱くなった。
「どうしてカヲルは、そんなに優しくしてくれるの?」
わたしの友達になってくれたし。
「別に普通だけど。しいていえば、なんかスズ香は放っておけないんだよ。龍司もそうでしょ?」
「なんでおれに話をふるんだよ」
龍司は眉をつり上げて、ふいっと顔をそらせた。
「さあ、時間になったわ。おばけトンネルに行くわよ!」
広場の中心にいる麗子ちゃんの号令で、みんなぞろぞろとトンネルに向かって歩き出した。
おばけトンネルは自転車でのぼってきた道路から、脇に反れた道の奥にある。
一応、道に舗装はしてあるけれど、ひびや穴があいていて、注意して歩かないと転びそうになる。何年も使われていないトンネルに続く道なんだもん。仕方ないよね。
わたしたちは持ってきた懐中電灯や、スマートフォンのライトで足元を照らしながら歩いた。
道の両側は草や木が生い茂っていて、ガードレールはさびて倒れてしまっている。
そんな木々の闇の隙間から、いろいろなものが見えていた。
「ううう、もう幽霊がいっぱいいるよ」
わたしは自分の体を抱きしめるように、手をクロスさせた。
幽霊が見えるといっても、昼間はそんなに見ることはないの。それに神社にいれば、幽霊が入ってくることはほとんどない。幽霊ってやっぱり、夜に活動するんだね。
「はわっ!」
わたしはしゃがみ込んだ。
突然、首筋に冷たい風を感じて、大きな声を出しそうになるのを両手で塞いでなんとか耐えた。大声を出したら目立っちゃう。
「どうしたの、スズ香」
カヲルがわたしを立ち上がらせてくれた。
「今、ろくろ首に、息を吹きかけられた」
暗闇から出した長い首を揺らしながら、ろくろ首が笑っている。
わたしが「見える」とわかっていて、からかってきたんだ。くやしい!
夜に歩いていると、こういうことがときどきあるんだ。だから夜は出歩かないようにしているのに!
「もう、いたずらしないでよねっ」
ビシッとろくろ首に指を突き立てたけれど、まったく反省しているようすはない。
「なっさけねえの」
龍司はカラカラと笑った。龍司もいじわるだ。
「そんなに怖いなら、手をつないでやってもいいぞ」
龍司が手を差し出してくる。
「手、かあ」
確かに手をつなげたら、怖いのが半減するかもしれない。でも龍司とはいえ、男の子と手をつなぐのは恥ずかしい。
「カヲル、手をつないでもいい?」
「いいよ」
カヲルがわたしの手を握ってくれた。ちょっと冷たくて、すべすべしてる。
「なんで、そっちなんだよ」
龍司のムッとした声が聞こえた。
「だって龍司は……きゃああっ」
今度こそ大きな声を出して、カヲルの腕に抱きついてしまった。
龍司だと思って話しかけた相手が、のっぺらぼうだったの!
のっぺらぼうは「やったあ、成功だあ」と笑いながら、暗闇に逃げていった。
「やだもう、夜の森、怖い」
「なにか見えたの? スズ香は大変だなあ」
カヲルがあいているほうの手で、わたしの頭をなでてくれた。
「いいなあ、カヲルさまと」
「なんか恋人みたいだよね」
後ろから声が聞こえたけど、わたしはそれどころじゃない。
「おまえら、イチャイチャすんな!」
「女子同士で、イチャイチャもないだろ」
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