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二章 思い出の景色を探せ
二章 思い出の景色を探せ その8
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「さて、俺は帰るかな。明日の満員電車対策に、よく寝て体力を回復しておこう」
「ねえ兄さん」
央都也は兄を見上げた。
「さっき、ぼくの視聴者だからって言ってたけど、どういう意味?」
なぜ視聴者が人助けに夢中になれるのかという央都也の疑問に対して、雄誠はそう答えたのだ。
雄誠は手を腰に当てて、央都也を見下ろした。
「もちろん、死者の未練をみんなで協力して晴らしていく過程を楽しんでいる人もいるだろう。霊が見えると評判にもなっているから、興味で集まっている人も多いと思う。だが、もともと央都也のファンは優しい人が多い」
「なんでそんなことがわかるの?」
「おまえ、自分の動画のコメントを読んでいないだろ」
「うん。面倒だし、ネガティブなことを書かれていたらイヤじゃん。生配信のコメントで充分かと思って」
「俺はすべてに目を通しているんだが……」
(えっ、そんなに読んでるの?)
央都也はちょっと引いた。
「たとえば、このあたりを読んでみろよ」
雄誠は自分のスマートフォンを操作して、央都也に画面を向けた。
《ペケくんって、放っておけないよね。一人じゃないよってナデナデしてあげたい》
《痛々しいというか。グレた子供って感じ》
《自虐っぽくて、ホストぶってるけど空回りしてて、不器用すぎて守ってあげたくなるんだよね》
《一人でなにかと闘ってる感じ》
《子供の頃、なにかあったんだろうな》
《でも最近、ちょっとペケくんの雰囲気が変わった気がする》
《先月は外に出てたしね》
《お兄さんもいるし、大丈夫かな》
《早く引きこもりじゃなくなるといいね》
「……こんなこと書かれてたんだ」
ネガティブなことも書かれているが、心配しての発言だとわかるし、みんな当たっている気もする。
央都也はいままで、視聴者は自分の顔を見に集まっているだけかと思っていた。自分でも客寄せパンダの道化でいいと割り切っていた。それくらい、視聴者のことも、自分のこともバカにしていた。
しかし視聴者はそれを見抜いたうえで、子供を見守る母親のような気持ちだったようだ。
「なんか、変な感じ」
また央都也は、なんとも言えないモヤモヤが胸にこみ上げてきた。
(ぼくはずっと一人で生きてきたつもりだったけど、一人じゃなかったのかも……)
根底が覆るような、なんとも言えない気持ちになった。
「おまえがつらい経験をしてきたことは知っている。だがそろそろ、人を信じてもいいんじゃないか」
「そんなこと……、よくわからないよ」
「おまえだって視聴者たちに仲間意識が芽生えてきているんだろ。だから仲間に入りたくて、入れなくてもやもやしてるんじゃないのか」
央都也はドキリとした。
(あのもやもやって、そういう気持ちだったのかな)
わからない。考えても答えが出そうもない。
央都也は頭を振った。
「兄さん……、明日からの動画、どうしよう」
央都也は桃色に染めた顔を両手でおおった。
これまでも央都也は視聴者に向けて動画を作ってきた。しかし視聴者は“塊”にしか見えていなかった。
それが、そこにはそれぞれに意思がある“個”だと意識してしまい、どんなことを伝えていいのかわからなくなってしまった。
「今までどおりでいいんじゃないか」
「なんか、いつもと態度が違っちゃいそうなんだけど」
「それでいいだろ。央都也の視聴者なら、その変化を喜んでくれるはずだ。信じていい」
「……そういうものかな」
央都也は動画のコメントをもう一度眺めた。
「また今回みたいな生配信をすることがあったら、ぼくもネットで調べて、積極的に意見を言ってみようかな」
主催者は央都也なのに、央都也一人が蚊帳の外のようだった。その場にいたのに、喜んだり驚いたりを共有できなかったのは、今更ながら残念な気がしてきた。
「そうしよう」
雄誠が優しい笑みを浮かべた。
そこに、央都也が持っていた雄誠のスマートフォンが震えた。電話がかかってきたようだ。
「ねえ兄さん」
央都也は兄を見上げた。
「さっき、ぼくの視聴者だからって言ってたけど、どういう意味?」
なぜ視聴者が人助けに夢中になれるのかという央都也の疑問に対して、雄誠はそう答えたのだ。
雄誠は手を腰に当てて、央都也を見下ろした。
「もちろん、死者の未練をみんなで協力して晴らしていく過程を楽しんでいる人もいるだろう。霊が見えると評判にもなっているから、興味で集まっている人も多いと思う。だが、もともと央都也のファンは優しい人が多い」
「なんでそんなことがわかるの?」
「おまえ、自分の動画のコメントを読んでいないだろ」
「うん。面倒だし、ネガティブなことを書かれていたらイヤじゃん。生配信のコメントで充分かと思って」
「俺はすべてに目を通しているんだが……」
(えっ、そんなに読んでるの?)
央都也はちょっと引いた。
「たとえば、このあたりを読んでみろよ」
雄誠は自分のスマートフォンを操作して、央都也に画面を向けた。
《ペケくんって、放っておけないよね。一人じゃないよってナデナデしてあげたい》
《痛々しいというか。グレた子供って感じ》
《自虐っぽくて、ホストぶってるけど空回りしてて、不器用すぎて守ってあげたくなるんだよね》
《一人でなにかと闘ってる感じ》
《子供の頃、なにかあったんだろうな》
《でも最近、ちょっとペケくんの雰囲気が変わった気がする》
《先月は外に出てたしね》
《お兄さんもいるし、大丈夫かな》
《早く引きこもりじゃなくなるといいね》
「……こんなこと書かれてたんだ」
ネガティブなことも書かれているが、心配しての発言だとわかるし、みんな当たっている気もする。
央都也はいままで、視聴者は自分の顔を見に集まっているだけかと思っていた。自分でも客寄せパンダの道化でいいと割り切っていた。それくらい、視聴者のことも、自分のこともバカにしていた。
しかし視聴者はそれを見抜いたうえで、子供を見守る母親のような気持ちだったようだ。
「なんか、変な感じ」
また央都也は、なんとも言えないモヤモヤが胸にこみ上げてきた。
(ぼくはずっと一人で生きてきたつもりだったけど、一人じゃなかったのかも……)
根底が覆るような、なんとも言えない気持ちになった。
「おまえがつらい経験をしてきたことは知っている。だがそろそろ、人を信じてもいいんじゃないか」
「そんなこと……、よくわからないよ」
「おまえだって視聴者たちに仲間意識が芽生えてきているんだろ。だから仲間に入りたくて、入れなくてもやもやしてるんじゃないのか」
央都也はドキリとした。
(あのもやもやって、そういう気持ちだったのかな)
わからない。考えても答えが出そうもない。
央都也は頭を振った。
「兄さん……、明日からの動画、どうしよう」
央都也は桃色に染めた顔を両手でおおった。
これまでも央都也は視聴者に向けて動画を作ってきた。しかし視聴者は“塊”にしか見えていなかった。
それが、そこにはそれぞれに意思がある“個”だと意識してしまい、どんなことを伝えていいのかわからなくなってしまった。
「今までどおりでいいんじゃないか」
「なんか、いつもと態度が違っちゃいそうなんだけど」
「それでいいだろ。央都也の視聴者なら、その変化を喜んでくれるはずだ。信じていい」
「……そういうものかな」
央都也は動画のコメントをもう一度眺めた。
「また今回みたいな生配信をすることがあったら、ぼくもネットで調べて、積極的に意見を言ってみようかな」
主催者は央都也なのに、央都也一人が蚊帳の外のようだった。その場にいたのに、喜んだり驚いたりを共有できなかったのは、今更ながら残念な気がしてきた。
「そうしよう」
雄誠が優しい笑みを浮かべた。
そこに、央都也が持っていた雄誠のスマートフォンが震えた。電話がかかってきたようだ。
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