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二章 思い出の景色を探せ
二章 思い出の景色を探せ その5
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チャットでは江東区と江戸川区が有力だということで、昭和二十年代の街並みや海が掲載されているURLが次々と貼られていた。央都也はそれをクリックして写真を見せるのだが、喜代はピンとこないようだ。
――なんだか、違う気がするんですよね……。
《違うってことはないと思うんだけど。写真の角度とか写りが悪いのかな》
《角度が違うだけでも印象が変わるしね》
《もう少しヒントが欲しいなあ》
喜代は記憶を絞り出そうとするかのように、こめかみを擦った。
――家の傍を走る列車は、海の近くの線路を走っていました。以前は海中に堤防を築き、その堤防上にレールを敷いたので、海の上を列車が走っているようだったと母が言っていました。
《なにそれ、本当に東京?》
《根本から記憶違いってことはないよね》
《海の上を走る電車があるなら、乗ってみたい!》
そんな書き込みと共に、チャットが一気に流れだした。
《それを早く言ってよ》
《どの駅かわかった!》
《オレも!》
《えっ、海を走る電車って有名なの?》
《鉄ちゃんは優秀》
《早く何駅か書いてよ!》
――もしかして、わかったの?
雄誠が書き込みの一部を読んで聞かせると、喜代は緊張したようにコメントが流れるモニターを見た。期待に瞳が輝いているように見える。
央都也も信じられないような思いでチャットを読む。
《三代目歌川広重が明治初期にいくつか、海の上を走る蒸気機関車の絵を描いているんだ》
《明治のころから湾岸埋め立ては始まっていて、明治後期にはもう海の上を走るスタイルじゃなくなってるんだけどね。その写真も残ってるよ》
《喜代さんの最寄り駅はおそらく、品川駅だ》
「えっ、品川なの?」
さっき喜代は、わざわざ銀座に買い物に行くくらい店がない町だと言っていた。品川駅周辺なら栄えていることだろう。
《見つけた、昭和五年の品川駅前の写真》
視聴者が貼ったURLを開くと、モノクロ写真が表示された。バラック建てのような駅の周辺は閑散としていた。
《確かに、ビルがない》
《これ、マジで品川駅かよ》
――そうそう。この近くに住んでいました。まあ、写真が残っているなんて。
喜代は写真が表示されているモニターを、メガネに手を添えながら凝視した。
《その時代の海なら、この写真かな。この時期だと埋め立てが始まっているから、天然の綺麗な砂浜ってわけじゃなかったはず》
貼られた写真はやっぱりモノクロで、海岸はサラサラとした砂ではなく、土のようだった。埋め立てには山に堀ったトンネルの土を使っていたので、コメントのとおり既に埋め立てられているのだろう。それでも水平線が広く見渡せて、喜代の話と合っている。
――ああ、この感じ……。
喜代は涙ぐんでいる。
《そうだ、モノクロ写真をカラーにするアプリがあるよ。これでどう?》
先ほど投稿された写真に色がついたものが再アップされた。
喜代の瞳から涙がこぼれた。細い指で目元を押さえる。
――そうです、この海です。ああ、懐かしい……。
チャットに歓声が流れた。
「すごい、本当に特定しちゃった……」
央都也は、またなにもしないまま解決してしまった。
央都也は眉根を寄せる。
胸がざわつく。
「特定できたところで、気になることがあるんだが」
祝杯ムードの中、雄誠が口を開いた。
「立石重蔵という名を、どこかで見たか聞いたかした気がするんだ」
――えっ、重蔵さんを?
喜代が濡れた瞳を雄誠に向けた。
――なんだか、違う気がするんですよね……。
《違うってことはないと思うんだけど。写真の角度とか写りが悪いのかな》
《角度が違うだけでも印象が変わるしね》
《もう少しヒントが欲しいなあ》
喜代は記憶を絞り出そうとするかのように、こめかみを擦った。
――家の傍を走る列車は、海の近くの線路を走っていました。以前は海中に堤防を築き、その堤防上にレールを敷いたので、海の上を列車が走っているようだったと母が言っていました。
《なにそれ、本当に東京?》
《根本から記憶違いってことはないよね》
《海の上を走る電車があるなら、乗ってみたい!》
そんな書き込みと共に、チャットが一気に流れだした。
《それを早く言ってよ》
《どの駅かわかった!》
《オレも!》
《えっ、海を走る電車って有名なの?》
《鉄ちゃんは優秀》
《早く何駅か書いてよ!》
――もしかして、わかったの?
雄誠が書き込みの一部を読んで聞かせると、喜代は緊張したようにコメントが流れるモニターを見た。期待に瞳が輝いているように見える。
央都也も信じられないような思いでチャットを読む。
《三代目歌川広重が明治初期にいくつか、海の上を走る蒸気機関車の絵を描いているんだ》
《明治のころから湾岸埋め立ては始まっていて、明治後期にはもう海の上を走るスタイルじゃなくなってるんだけどね。その写真も残ってるよ》
《喜代さんの最寄り駅はおそらく、品川駅だ》
「えっ、品川なの?」
さっき喜代は、わざわざ銀座に買い物に行くくらい店がない町だと言っていた。品川駅周辺なら栄えていることだろう。
《見つけた、昭和五年の品川駅前の写真》
視聴者が貼ったURLを開くと、モノクロ写真が表示された。バラック建てのような駅の周辺は閑散としていた。
《確かに、ビルがない》
《これ、マジで品川駅かよ》
――そうそう。この近くに住んでいました。まあ、写真が残っているなんて。
喜代は写真が表示されているモニターを、メガネに手を添えながら凝視した。
《その時代の海なら、この写真かな。この時期だと埋め立てが始まっているから、天然の綺麗な砂浜ってわけじゃなかったはず》
貼られた写真はやっぱりモノクロで、海岸はサラサラとした砂ではなく、土のようだった。埋め立てには山に堀ったトンネルの土を使っていたので、コメントのとおり既に埋め立てられているのだろう。それでも水平線が広く見渡せて、喜代の話と合っている。
――ああ、この感じ……。
喜代は涙ぐんでいる。
《そうだ、モノクロ写真をカラーにするアプリがあるよ。これでどう?》
先ほど投稿された写真に色がついたものが再アップされた。
喜代の瞳から涙がこぼれた。細い指で目元を押さえる。
――そうです、この海です。ああ、懐かしい……。
チャットに歓声が流れた。
「すごい、本当に特定しちゃった……」
央都也は、またなにもしないまま解決してしまった。
央都也は眉根を寄せる。
胸がざわつく。
「特定できたところで、気になることがあるんだが」
祝杯ムードの中、雄誠が口を開いた。
「立石重蔵という名を、どこかで見たか聞いたかした気がするんだ」
――えっ、重蔵さんを?
喜代が濡れた瞳を雄誠に向けた。
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