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二章 思い出の景色を探せ

二章 思い出の景色を探せ その4

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《なるほど、今回はその海岸を当てればいいんだな》
《エリアが限定しているから、前回よりも簡単そうだね》

「どんな海岸だったのか教えて」
 央都也が喜代に尋ねた。

 ――なんの特徴もない海岸ですよ。遠くまで広く水平線が見える砂浜です。

《東京湾の砂浜っていっぱいあるよね。お台場とか》
《あそこは人工の砂浜じゃん》
《人工じゃだめなの?》
《遠くまで広く水平線が見えるって、近くに建物も遮蔽物もないってこと?》
《東京にそんな場所あったっけ?》
《だから、八十年くらい前って言ってるだろ》
《そっか! 今と地形が全然違うのか。じゃあ、わかんないよ》
《相当埋め立てられてるはず》
《東京湾の地図を見てみるかぁ》

 央都也は喜代にチャットが流れているパソコン画面を示すが、高齢者にとってはパソコンでも字が小さいことと、流れる速度が速すぎて読めないようだ。雄誠がいくつかピックアップして喜代に読んで聞かせている。

 ――そうなんです。ずいぶん景色が変わってしまって……。

《東京って江戸時代は“水の都”って言われるくらい運河や水路が張り巡らされていたようだけど、かなり埋め立てられたんだよなあ》
《東京は今だって川が多いじゃん》
《だからもっと太くて、数もあったんだって》
《東京って、大きく分けると三回、大きな埋め立て事業が行われたらしい。まずは大正十二年の関東大震災からの復興、昭和二十年からの戦後の復興、あと昭和三十九年の東京オリンピックの準備。もちろん平成に入ってからも埋め立てはあるけど》
《景色が変わるはずだよなあ》
《大丈夫、今視聴人数、四万人超えてるから! 三人寄れば文殊の知恵っていうけど、こんなに大勢で知恵を出し合えばわからないはずないよ》

 チャットは前回より人数が多い分、わいわいと盛り上がっている。
 央都也はやる気満々の視聴者のコメントを読んで、眉間にしわを寄せた。

「どうしてみんな、人助けに夢中になれるんだろう」
 央都也はボソリとつぶやく。計算通りの反応とはいえ、極力人に関わりたくない央都也には、まったく理解できない現象だ。

「おまえの視聴者だからだろ」
「どういう意味?」

 央都也が雄誠を見上げると、兄は意味深に瞳を細めた。
 二人が小声で会話している間にもチャットで推理は続いていたが、行き詰っているようだった。

《これじゃあ特定できないな》
《もっとヒントちょうだい!》
《覚えていることなら、なんでもいいよ》

 ――そうですねえ。家の近くに駅があったのですが、繁華街もなくて静かな町でした。高いビルもありませんでしたしね。

《終戦前なら、高いビルなんてなかったでしょ》
《適当に書くな。普通にあったよ》
《東京湾付近って、栄えてるイメージあるけどな》

 ――買い物は列車に三駅くらい乗って、銀座に行っていました。歩くのはちょっと難しい距離でね。あそこは時計塔が当時のまま残っていたので、懐かしくなりました。

《銀座まで三駅くらいだって!》
《東京湾沿いなら、そんなもんだろ》
《それでも、更に範囲が狭まったじゃん》
《江東区とか江戸川区じゃない?》
《うん、可能性高そう》
 またチャットの流れが速くなった。

(ぜんぜん、わからない)
 央都也は形のいい眉をしかめた。

 央都也は東京生まれで東京育ちだが、ちっとも話題についていけなかった。知識不足でもあるのだが、視聴者が盛り上がるほど胸がチリチリとする。撮影中なので作り笑いはしているが、この気持ちはなんだろうと自分でも思う。
 これは前回も感じた感情だ。置いていかれたような、もやもやとした気持ち。

「おまえも検索したらどうだ。彼らだって調べながらコメントを書き込んでいるはずだ」
 雄誠にスマートフォンを渡された。

「彼らの仲間に加わりたいんだろ?」
「なにそれ、そんなわけないよ」

 仲間なんて、一人で生きていく央都也の辞書には不要な言葉だ。
 だから孤独死だって厭わないのだ。

(兄さんのスマホ、電源切れてるじゃん。そういえば最近、うちに来るとスマホの電源を切ってるよな。前はそんなことなかったのに)
 雄誠のスマートフォンを見ながら首をかしげ、それを床に置いた。
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