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一章 初めての事故物件

一章 初めての事故物件 その13

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「どんなことを覚えているんだ」
 雄誠の言葉を受けて、洋平は腕を組んで思い出すように天井を見た。

 ――実家は三百六十度、山に囲まれていました。東京のような高層ビルはありません。

《田舎なら、そんな景色ばっかりだよ》
《わかるのは海沿いではないってくらいだよな》
《東北だとか関東だとか、エリアを絞れるといいんだけど》

 ヒントが足りないらしい。
 洋平は更に記憶を絞り出そうとするかのように目を強く閉じる。

 ――変わった街並みだった気もします。オブジェが立っているような。

《町にオブジェ? どういうこと?》
《桜新町の“サザエさん通り”みたいな感じだろ》
《バリバリ都内じゃん》
《そういうイメージなら、鳥取県境港市の“水木しげるロード”だ! 町中にめっちゃブロンズ像がある》
《水木しげるって境港市って言われちゃうけど、東京の調布市を忘れないで!》
《妖怪と言えば、私が住んでる兵庫県福崎町も、柳田国男の地元ってことで妖怪が増えたよ。池から河童が出てくる公園もある》
《なんで妖怪自慢になってるんだよ》

 チャットがご当地の話題で盛り上がる。

 ――そういうのではなかった気がします。なにかもっと、町の伝統のような……。
「だが、岡山県倉敷市や埼玉県川越市あたりの、伝統的な街並みではないんだろ?」
 雄誠も住所特定の話題に参加する。

 ――はい。違和感があるくらいの置物が、町中に設置されていた記憶があります。
(なんだそれ)
 央都也はまったく想像がつかない。

《置物って……、ブロンズ像みたいなものじゃないってことか》
《わかった! 超自信ある。宮城県の鳴子温泉だ! 条件にぴったり!》

 URLも貼られたので、央都也はクリックする。
 鳴子温泉駅にある“駅長こけし”なるものから始まり、ポストもこけしなら、公衆電話にもこけしの頭がついてる。

(なるほど、これはシュールだ)

 洋平が言っていた通り、違和感のある伝統的な置物があちこちに点在していた。
 洋平は瞳を輝かせた。

 ――近いですね! こんな感じです。でも、人の形をしていなかったと思います。
 モニターの写真を見ながら、興奮したように洋平は何度もうなずいた。

《おおっ、近づいてる、近づいてる!》
《我ら優秀!》
《香川県にオブジェがいっぱいある島ならあるんだけど》
《遠ざかった。山に囲まれてるっつってただろ》

 しばらく、ここはどうだと案が出るが、洋平はしっくりこないようだ。
(もう正解が出てるのに、この霊が思い出せないだけなんじゃないか?)
 央都也が疑い始めた頃、ハイテンションの書き込みがあった。

《あったあった、これはビンゴだわ! 答え書いちゃうけどいい? もっと考えたい?》
《もったいぶらないでいいよ》
《まだ合ってるかわからないだろ》

 停滞し始めていたチャットが再び活気づく。
 雄誠や洋平が前のめりになる中、央都也は変わらず膝を抱えていた。参加者たちの熱量に、一人だけついていけない。

《じゃあ、特定しちゃうね!》

 街並みの写っているURLが書き込まれた。
 
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