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一章 初めての事故物件

一章 初めての事故物件 その5

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サイト経由で、事故物件に住んでほしいとメールが届いたのだ。

「どうしよう……、今更感があるな」

 央都也は細い眉を寄せた。
 引っ越すということは、外に出るということだ。業者には事前に連絡しておけば会わないようにできるが、央都也にとっては外に出ること自体がストレスだ。いつ、誰と鉢合わせするかわからない。

 それに、まとまった収入を得ている今となっては、数万のためにあちこち引っ越すのはデメリットの方が大きい。

(断るか)
 そう考えながらタイピングしかけて、央都也は手をとめた。

「待てよ」

 これは、動画のネタになるのではないか。
 幽霊なんて信じていないが、なにか物音が聞こえただけでも「幽霊かもしれない」と煽れば盛り上がるに違いない。現に事故物件をネタにするユーチューバーだって何人もいる。それなりに需要のあるテーマなはずだ。

 中学生の時、央都也は落武者の霊を見た、はずなのだが、本当に霊なのか怪しいと思っている。暗かったし、家族みんなで、なにかを霊現象と見間違えたのではないかと、央都也は当時から思っていた。その証拠に、あれ以来、央都也は幽霊を見たことがない。

「うん。ネタとしてアリだな」

 一か月ほど住んで再生数の伸びがよければ、賃貸料が発生してでも別の事故物件に引っ越して、第二シリーズを始めてもいい。

(とりあえずこれで、一か月はネタがもつな)

 央都也はホッとしながら、詳細を求めるメールを作成した。

 そして次の土曜日。
 央都也は無事に引っ越しをすませていた。

 光に当たると紅茶色になる黒髪を首の後ろでチョンと結び、膝まであるゆったりとした白いシャツに黒いスリムパンツを合わせていた。メンズものではSサイズでもゆるいので、央都也の服はレディースも多い。

 今日の生配信はいつもと違って、ルームウェアではなかった。
 配信が終わったらすぐ寝てしまう「夜のお供」とはわけが違う。
 記念すべき、「事故物件企画」の生配信、第一回目なのだ。

 昨日は第零回ということで、短い告知動画を出したところ、なかなかの反響だった。今日の生配信も期待できる。

 時間もいつもより早い二十一時スタートにして、常連の視聴者とは別の層にも広げたいと思っていた。
 央都也はいつになく張り切っていた。

(新しいことをするのって、結構いいかも)

 引っ越してきた部屋は、都内にあるマンションだ。小綺麗な一DKで、通常の家賃は十五万ほど。駅からそう離れておらず、日当たりもいい。本来ならばすぐに埋まる好物件のはずだ。

 しかし、内見に来た者は「なんだか気味が悪い」と口を揃え、契約まで至らないという。

(これが「気持ちの問題」ってやつだよね。事故物件だと思うから気味が悪く感じるんだ)

 央都也はなんにも感じない。
 配信時間が近づいてきたころ、スマートフォンが鳴って動きをとめた。央都也の携帯番号を知っている人なんて限られている。
 画面には予想どおり、雄誠の名前があった。

「珍しいな」

 央都也は電話が苦手だ。人と顔を合わせるのと同様に、会話をするのも好きではないのだ。
 雄誠にも連絡はメールにしてほしいと頼んでいるので、電話が入ることは殆どなかった。特に午後はいつ動画を撮影しているかわからないので、電話をするなと伝えてある。

(それなのに、緊急事態かな。オヤキトク、とか)

 本当に親が危篤だったらどうしようかと想像して……、まあいいか、と央都也は思った。
 こうして電話をかけて来るのだから、雄誠は元気なのだろう。央都也にとって大事な身内は雄誠だけだ。

(配信が終わったら連絡してあげようっと)

 央都也は無視を決め込むことにした。もう配信時間だ。
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