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遺棄事件と見えないドア11

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「パピーミルは、ものすごく儲かるの。たとえば、人気の犬種だと、一頭十万で売れるとするでしょ、犬は年に二回、三、四頭産む。で、百頭雌犬を飼ってるとしたら……」
 私は百匹の犬が年に八匹子犬を産むとして暗算する。
「えっ。年、八千万円、ですか?」
 想像以上の金額だった。
「アバウトな計算だけどね。半分だとしてもすごいでしょ。ワクチンを打たないし、エサもほとんど与えない。ペットショップとブリーダーが集まるオークションが定期的にあるから、その時に子犬を綺麗に整えて連れて行ったり、通販で直接販売したりするの。すると飼育環境が表に出ないし、どこで育てているのか、拠点も分らないことが多いのよ」
「生き物を、インターネットで売れるんですか?」
「禁止されているけど、なくならないわね」
「だから、悪徳ブリーダーを見つけにくいのか……」
 涼子が形のいい眉を顰めた。
「悪徳ブリーダーというより、パピーミルね。聞きなれないだろうけど、せっかくだから覚えて帰って」
 山口さんは淡々と話す。きっと目を背けたくなるような犬たちを、たくさん見てきたのだろう。
「パピーミルがある場所は臭ったり、外から錆びだらけのケージが見えたりするから、近所の人から通報されることが多いのよ。最終的には行政に動いてもらわないと解決にならないんだけど、私たちのような団体も個別に訪問して、明らかに動物愛護法違反だと判断したら、私たちからも行政に働きかけることがあるわ」
「さっきの担当の人も、見守っている業者はある、って言ってました」
 私が言うと、山口さんは「そうなのよね」と嘆息して、メガネをかけ直した。
「明らかに酷いだろうと思う所も、居留守を使われたりすると勝手に踏み込めないし、即廃業にすることはできないの。犬猫を販売する人は“犬猫等健康安全計画”とか、色々と提出する書類があるんだけど、行政としては、そういう書類が揃っていれば、“やることはやってるからね”という判断になりやすいの」
「だから、パピーミルを廃業に追い込むのは難しいんですね」
「そう。……さ、着いたわ」
「うわあっ」
 私と涼子は感嘆の声をあげた。
 ログハウスのような小さな家と、その十倍はありそうな庭があり、庭にはものすごい数の犬が走り回っていた。涼子は「犬の天国ね」と言って、瞳を輝かせている。
「中に入ると犬たちに歓迎されちゃって、服が汚れるかも。大丈夫?」
「はい。犬は何匹くらいいるんですか?」
「今連れてきた子を含めて、七十頭よ。そこでキープしてるの。さ、どうぞ」
 山口さんの後についていくと、何頭かじゃれついてくる。芝生なので、足はそれほど汚れていない。
 この子たち、みんな捨てられた犬なのかな。可愛いのに……。
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