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2 試練その1、それから、その2

試練その1、それから、その2 4

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「外で指輪を落としたら、音がしそうだけどね」
 美香センパイが言う。
 たしかに。そうしたら、やっぱり家でなくしてるのかな?
「皿洗いの時とか、家事をするとき指輪は外すんですか?」
 隼人が大地センパイにたずねた。
「いや、風呂入るときも寝るときも、基本的につけっぱ。包丁使う時とか、ジャマじゃないかと思うんだけどな」
 大地センパイは包丁でなにかを切るマネをした。その手を見て、あれって思う。
「包丁、左手で持ってるんですか?」
「ああ、おふくろは左利きなんだ。オレもだけど」
 利き手に指輪をつけてるのか。ちょっとジャマそうだなあ。
「家の中は、くまなく探してるんですよね?」
 わたしが聞くと、「もちろん」と大地センパイは答えた。
「台所の流しの中とか、洗濯機の中とか、タンスの隙間とかも見たそうだ。布団の中もな」
 家の中はしっかり探してるみたい。
 ううむ、聞くことがなくなってしまった。
「スーパーで歩いた場所も確認していますよね?」
 隼人が聞いた。
「ああ。スーパーにも、もし指輪が落ちていたら連絡してほしいって伝えてあるよ。一応、なにを買ったかも聞いてある。まず野菜。ニンジンとキュウリと大根。うちの家族は漬物が好きでさ、毎日大量に漬けるのに、一日でなくなるんだよな」
「よくおすそわけでもらうんだけど、大地の家のぬか漬け、すごくおいしいわよね」
「おふくろは、ぬか床が心配だから旅行に行かないとか言い出すくらい、管理徹底してるからな」
 大地センパイが苦笑した。
「あとは、夕食の献立であるカレーの材料と、ヨーグルトとサクランボ」
 カレーいいなあと、わたしはどうでもいいことを考えてしまった。
 だって、指輪がどこにあるのか、ぜんぜんわからないんだもん。
「お弁当箱に入ってる、ってことはないですか?」
「それは、まだわからない。弁当箱ならいいな。親父か兄貴が気づいて、持って帰ってくるはずだから」
 隼人に返事をした大地センパイは、机に肘をついて頬杖をした。
 その言葉を聞いて、どこかに入っている可能性も高い気がしてきた。
「お買い物に行ってるなら、カバンとかサイフとかに指輪が入ってないですか? あと、着替えるときに服に引っかかっちゃったとか。あ、もしエプロンを使ってたら、エプロンのポケットとか……」
「なるほど、そういう細かいところ、見落としてるかもな。おふくろに伝えておくか」
 大地センパイはスマートフォンを取り出して、メッセージを送り始める。
 見落としがちな……。
 細かいところ。
 どこかに入ってる。
「……ウーン……」
 わたしは人差し指を頬に当てて考える。
 なんだか、わかりそうな気がするんだけどな。
 大地センパイが言ったことをメモした紙を、もう一度よく読み返した。
 家事をするときもつけっぱなしの、左手薬指の指輪。
 利き手は左手。
 なにをするのも左手で……。
「あっ」
 またわたしの頭に、ビリビリッとしたものが走った。
「ひらめきました!」
 わたしはパイプ椅子をずらして立ち上がった。
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