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三章 愛しい人との別れ

愛しい人との別れ 11

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「悪かったな、ああでもしないと、あの御仁は引き下がらないから」
 ヴィンセントが店主に謝ると、店主は「滅相もない!」と両手を振った。
「商売をしていると色んな客が来ますが、人にも魔族にも厄介者はいるものですなあ」
 しみじみと店主は腕を組む。
「店主、これはわたしが買おう。一口食べてみたのだが、とても美味い。いい腕をしているな」
 ぼくは袋を示して、店主に話しかけた。
「えっ、いえ、いえいえ、そちらでよろしければ差し上げます!」
 店主はぼくを見ると真っ赤になった。頭上の植物がポポンと赤い花を咲かす。
「強い魔力の気配にずっと気になってはいたのですが、もしや、あなたさまは……」
 言いたいことはわかったので、ぼくは鷹揚に頷いた。
「やっぱり! お噂はかねがね。この特区の立役者のお一人だと伺っております。ありがとうございます」
 店主に続いて、たくさんの「ありがとう」が届いた。思わぬ感謝にぼくは戸惑う。
 ぼくは死にたくなくて、自分のために始めたことだ。感謝されるいわれなんてない。
「喜ばれてるんだから、きっかけなんて、なんでもいいだろ」
 ぼくの考えを読んだかのようにヴィンセントにそう言われて、ぼくは素直に感謝を受け取ることにする。
 だけどやっぱり気恥ずかしくて、そそくさと商店街を後にした。

「お帰り! どうだった?」
 孤児院に戻ると、ヴィンセントは商店街であったことをクロムに伝えた。クロムは「へええ」「これだから貴族は!」などと大きなリアクションをとりながら聞いている。耳や尻尾もそれに合わせて動いていた。
 クロムは表情豊かだ。見ているだけで飽きない。
 それに二人はずっと自然な笑顔を浮かべていて、時に肩をたたき合い、楽しそうにしている。
 気の合う親友なんだな、と思う。
 ぼくは二人から距離をとった。
 本当はヴィンセントに、また魔族領に来てほしいと言おうと思っていた。
 だけど、ヴィンセントはぼくといるよりもクロムといたほうが楽しいだろうし、この街にとっても必要な存在になっているようだ。
 会いたくなったら、またここに来ればいいだけだ。
「わたしは魔王領に戻る」
 ぼくは二人に声をかけた。
「もう? もっと子供たちと遊んでいけばいいのに」
 クロムは淋しそうな顔をする。
 ぼくは「それは結構」と言いたくなった。何人体制で子供たちの面倒を見ているのか知らないけれど、大変だ。子供たちは可愛いんだけどね。
「アーシェン、ちょっと待ってくれ」
 ヴィンセントがぼくに声をかけると、なにやらクロムに伝えている。クロムがうんうんと笑顔で頷くと、ヴィンセントはクロムの頭をグリグリとなでた。「子供扱いするな!」とクロムが拳を振り上げる。
 だから、仲がいいのはわかったって。
 疎外感からか胸がチクリと痛くなって、ぼくは拗ねたくなった。
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