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三章 愛しい人との別れ
愛しい人との別れ 7
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「チクッ」
そんな声とともに、首に固いものが当った。
振り向くと、ひょろっとした長身のエルネストが、ぼくの首筋に指先を食い込ませていた。
「って味見しちゃうよ、そんなに隙だらけだとさぁ。っていうか、隙を通り越して、最近はボーッとしてるよね」
エルネストがいつものように、ぼくに両手を絡ませて体重をかけてくる。
「そうだろうか」
「今のアーシェンに勝っても、勝った気がしないだろうな。つまんないから、ちゃんとやる気出してよね。あの人間がいないせい?」
ぼくはドキリとする。
そんなにぼくはあからさまなのか。エルネストに指摘されるほどに。
「俺よくわかんないけどさぁ、弱っちゃうくらいなら傍にいればよくね? 特区にいるんでしょ。近いじゃん」
いつもは感情が読めないエルネストの赤い瞳が、心なしか心配げな色を浮かべているように見える。
エルネストの言うとおりだ。
勝手に気を回して、久しぶりに会ったあの二人に水を差してはいけないと近寄らないでいた。少しくらい、話しかけたっていいはずだ。
「あ、ちょっと気分が上がったでしょ。最近のアーシェンはわかりやすいなあ。別にいいんだけどさ」
エルネストはにこやかな顔で、ぼくをぎゅっと抱きしめた。
「そんなに弱みが見え見えだと、俺の非常食になっちゃうよ?」
首筋に温かい息がかかり、エルネストの柔らかい唇と固い犬歯が当った。身の危険を感じたぼくは、瞬時に魔法を発動した。
瞬間移動する間際に、エルネストの笑い声が聞こえた気がする。
「た、食べられるかと思った……」
ぼくは冷や冷やしながら、首の無事を確認した。
エルネストは友好的なのか敵対的なのかわかりかねて、反応に困る。
移動した先は、特区だ。
ぼくの足は孤児院に向かっていた。ヴィンセントはクロムと一緒に、孤児院に宿泊している。
繫華街や住宅地から外れた、公共施設が集まった静穏としたエリアに孤児院はあった。ただし、孤児院に近づくと、子供たちの笑い声が聞こえてくる。
孤児院の庭には、四歳前後くらいに見る子供たちが走り回っていた。ほどんどの子どもが魔族の血もひいているはずなので、見た目よりも長く生きているだろうけど。
その子供たちを、ヴィンセントとクロムが笑顔で会話しながら見守っている。
やっぱり、二人は仲がいいんだな……。
なぜか、胸がチクリと痛んだ。
「おっ、アーシェン! 孤児院の見学か?」
まだ孤児院から距離があるのに、いち早くぼくに気づいたヴィンセントが声をかけてくる。
そういえば、先日の中央公園でも、ぼくに気づいたのはヴィンセントだった。
ぼくは長身なほうだし、角があるから目立つのかもしれないけど、ヴィンセントに気づいてもらえて嬉しくなる。
ぼくとヴィンセントは、ぼくの胸くらいまである孤児院の柵の前で対面する。こうして会うのは何年も前のようにも、ほんの数分前のようにも感じた。
本当に不思議だ。どうしてヴィンセントの近くにいるだけで、こんなにフワフワした気持ちになるんだろう。
そんな声とともに、首に固いものが当った。
振り向くと、ひょろっとした長身のエルネストが、ぼくの首筋に指先を食い込ませていた。
「って味見しちゃうよ、そんなに隙だらけだとさぁ。っていうか、隙を通り越して、最近はボーッとしてるよね」
エルネストがいつものように、ぼくに両手を絡ませて体重をかけてくる。
「そうだろうか」
「今のアーシェンに勝っても、勝った気がしないだろうな。つまんないから、ちゃんとやる気出してよね。あの人間がいないせい?」
ぼくはドキリとする。
そんなにぼくはあからさまなのか。エルネストに指摘されるほどに。
「俺よくわかんないけどさぁ、弱っちゃうくらいなら傍にいればよくね? 特区にいるんでしょ。近いじゃん」
いつもは感情が読めないエルネストの赤い瞳が、心なしか心配げな色を浮かべているように見える。
エルネストの言うとおりだ。
勝手に気を回して、久しぶりに会ったあの二人に水を差してはいけないと近寄らないでいた。少しくらい、話しかけたっていいはずだ。
「あ、ちょっと気分が上がったでしょ。最近のアーシェンはわかりやすいなあ。別にいいんだけどさ」
エルネストはにこやかな顔で、ぼくをぎゅっと抱きしめた。
「そんなに弱みが見え見えだと、俺の非常食になっちゃうよ?」
首筋に温かい息がかかり、エルネストの柔らかい唇と固い犬歯が当った。身の危険を感じたぼくは、瞬時に魔法を発動した。
瞬間移動する間際に、エルネストの笑い声が聞こえた気がする。
「た、食べられるかと思った……」
ぼくは冷や冷やしながら、首の無事を確認した。
エルネストは友好的なのか敵対的なのかわかりかねて、反応に困る。
移動した先は、特区だ。
ぼくの足は孤児院に向かっていた。ヴィンセントはクロムと一緒に、孤児院に宿泊している。
繫華街や住宅地から外れた、公共施設が集まった静穏としたエリアに孤児院はあった。ただし、孤児院に近づくと、子供たちの笑い声が聞こえてくる。
孤児院の庭には、四歳前後くらいに見る子供たちが走り回っていた。ほどんどの子どもが魔族の血もひいているはずなので、見た目よりも長く生きているだろうけど。
その子供たちを、ヴィンセントとクロムが笑顔で会話しながら見守っている。
やっぱり、二人は仲がいいんだな……。
なぜか、胸がチクリと痛んだ。
「おっ、アーシェン! 孤児院の見学か?」
まだ孤児院から距離があるのに、いち早くぼくに気づいたヴィンセントが声をかけてくる。
そういえば、先日の中央公園でも、ぼくに気づいたのはヴィンセントだった。
ぼくは長身なほうだし、角があるから目立つのかもしれないけど、ヴィンセントに気づいてもらえて嬉しくなる。
ぼくとヴィンセントは、ぼくの胸くらいまである孤児院の柵の前で対面する。こうして会うのは何年も前のようにも、ほんの数分前のようにも感じた。
本当に不思議だ。どうしてヴィンセントの近くにいるだけで、こんなにフワフワした気持ちになるんだろう。
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